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存在干渉の法則  作者: たびくろ@たびしろ
裏・榎田の過去編
30/110

追い詰められた少女

「……うぅん……」

眠い。何で、こんなに眠いのかな。身体が痛い。

「……こ、こは……ァ……」

眠たげに目を擦る。カーテンの向こう側から、太陽が光を放っていた。

「……そうか、私……あの時の……夢を……」

上半身を起こす。辺りを見回すと、そこはいつも通りの私の部屋だった。

頬をさする。そこには、もちろん誠の血など付いているはずもなかった。


何故なら、全て夢だったのだから。


「いっそ……『あの時』の事も……夢になればいいのに……」

そんなわけない。なればいいけど、そんなこと言っても、もう過去は変わらない。誠があんな無惨な姿で死んだということは、ごまかしようのない現実だったのだ。

あの血の海も、全部バラバラになった内臓なんかも。

跡形も無く潰れてしまった、あの笑顔でさえも。

「うっ……」

慌てて口を押さえる。ダメだ、思い出す度に吐き気をもよおす。

まだ、乗り越えられてないんだ。

あの子の『死』を、乗り越えられてないんだ。

「あの時……あんな子供じみた喧嘩をしなければ……私がもう少しお姉ちゃんだったら……助かってたかもしれないのに……」

あの日から、私は変わった。

まるで心にぽっかりと穴が空いたように、いつも何か足りない感覚に囚われているし、学校で友達と会話する事さえ苦痛になっていった。

学校も休みがちになっていき、友達も全て離れていった。気が付けば、私は家で一人、ずっと誠の事ばかり思い浮かべている。

そんな抜け殻みたいな生活を送って、とうとう高校生になってしまった。

一応受験には合格するものの、入ったのは底辺の中でも特に底辺と呼ばれる高校。受験さえすれば誰でも入れるとか言われるレベルだ。もちろんそこでも私は不登校気味になっており、もう何だか生きていく事自体が辛くなってきていた。

「もう……死んじゃおうか……」

なんて、今まで何度も思ってきた。でも、結局は怖くて出来なかった。

それでも、今回は死ねそうだ。もう、本当にダメだ。誠も死に、透にも裏切られる。同じ世界の人間なのに、敵視される。


そんな事を考えていた時、不意にインターホンが鳴った。


「はい……どうぞ……」

特に鍵も掛けていなかった玄関のドアにそう言うと、その扉がゆっくりと開いた。

そこには、サングラスを掛けた屈強な大男が一人。黒いきっちりしたスーツを着こなした、リアル暗殺者みたいな男だ。

「作戦……失敗したようだな」

その大男は躊躇いもなく私の部屋に入ると、立ったままそう言った。

「……別にアンタ達から命令された作戦じゃないでしょ。同型真像(オリジナル)の私、榎田舞の殺害は、私が勝手にやったこと。アンタ達には何も関係ないじゃない」

「俺達の所からGPS追跡機を勝手に持ち出しておいて言うセリフか?それに、アイツを狙うにしては動機が無茶苦茶過ぎるだろ。そんなに透とやらが大切なのか?」

「おかしくないわよ。『法則』によって表世界の透が死んだ。だったら表世界の私が恨みを持って、裏世界の透を殺そうとするかもしれないじゃない。だから、そうなる前に私は表世界の私を殺そうと……」

大男は、まるで失敗した料理をみるかのような目で私を嘲笑った。

「まぁ、お前の同型真像(オリジナル)の殺害はどちらにせよお前に頼むところだった。まぁ、失敗したのなら、もう一度やってもらうしかないがね」

「……少しでいいから教えなさいよ。アンタ達は何を目論んでるの?何のために、私にこの『界転(リバース)』の力を与えたのよ。私の身体いじくり回して、変な力ぶちこんで、それでアンタ達に何の得があるのよ」

私は敵を見るような目で、大男を睨み付けた。

そう、私にこんな力を与えたのは、他でもないコイツらだ。

高校生になっても引きこもってた私を連れ去り、身体をいじくり回し、こんな力を与えた『謎の集団』。

それからは、いつの間にか私はコイツらの仲間扱いにされ、変な任務とか作戦とかをやらされた。もちろん最初は拒否ったのだが、ある一つの報酬を突き付けられると、私はコイツらに従うしかなくなった。



それは、『全ての計画が終われば、死んだはずの誠と暮らせるようにする』というもの。



その時誠の事しか考えられなくなっていた私は、協力することに何の躊躇いもなかった。誠の事しか考えず、誠の事しか思い浮かべず、誠にしか会いたくなかった私は。

それから私は色んな作戦を遂行したと思う。大半はくだらないよくわからないような内容のものだったりしたが、たまに人を殺害する任務とかもあった気がする。

もちろん、躊躇いはなかった。まるで糸屑を取り払うように軽々しく、自分と同じ人間を殺していった。その時、私はどんな表情を浮かべていただろう。最初の方はさすがに怖かったため、何度も『誠のため……誠のため……』なんて呟いていた気がする。

「ふふ……詳しくは教えられないがね」

その大男は軽く笑うと、そのサングラス越しに私を見つめながら、言った。



「簡単に言えば……『世界を救うこと』……か?」



「……え?」

余りにも突拍子過ぎるその返答に、私は驚きを隠せなかった。

世界を救う?

「ふ……」

なんだそれは。

「ふふ、ふ……」

まるで、正義の味方じゃないか。

「あはははははははははははははっ!!アハ、アはははははははははははは!!くハははははハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハはははははははははははは!!!」

私は、狂ったように笑った。大声を上げて、狂人もビックリするようなトーンで笑った。

「何がおかしい」

大男は訝しげに聞く。私の笑い声の理由が、わからないようだった。

「……無理よ」

そうだ、無理だ。

「なんだと?」

救えるわけないじゃないか、世界なんて。

「そんなの……無理よ」

だって。

だって。


「こんなカスみたいな女子高生一人救えないような組織が……世界を救えるわけないじゃない!!バカが夢を見るのもいい加減にしろっての!!アッハハハははははハハハはハ!!ハは、ハ、ひ、クハハハハハハハハははははははははハハハハハ!!」


世界を救えるのなら、私を救ってみなさいよ。

たった一人の弟が死んだくらいで落ちぶれてしまった女子高生ぐらい、救って見せなさいよ。

何が『世界を救う』よ。くだらない。

「私みたいな底辺のゴミクズさえ救えないくせに……いきがってんじゃないわよ!!気持ち悪い、どこかの正義の秘密結社かアンタらは!!そんなこと出来るんならねぇ、まずは私を――――――――――」

次の瞬間、視界が揺らいだ。

私の部屋の風景が次々と流れていく。

「――――――ッが!!」

気付いた時には、私は自室の壁に叩き付けられていた。その直後に、腹の痛みを感じた。

どうやら、私は大男に蹴り飛ばされていたようだ。猛烈な速度で、肺から酸素が抜けるのを感じた。

「それ以上俺達を悪く言うのならば、容赦はしないぞ。小娘が」

「ふ、ふん。アンタ達、そんな事しちゃっていいの?私が居ないと、計画を進められないんじゃないの?」

私がそう言うと、大男はいつの間にか私の喉元にナイフを突き付けていた。

「勘違いするな」

「っ!?」


「お前が動いた方が計画の遂行を早く完了出来るというだけだ。別にお前がくたばろうが、お前が作戦の前後でのたれ死のうが、殺害目標に逆に殺されようが、計画の遂行自体には何ら影響は出ない」


「……ぁ」

私は、小さく呻く事しか出来なかった。

「まぁ、今回ここへ来たのは、お前の作戦の報告を聞きに来たのと、GPS追跡機を回収するためだけだ。今後はもう少し口を慎めよ?俺達だって、お前みたいな綺麗な女子高生を殺したくはないからな」

「……ぁ……ぅ」

「それに、計画が遂行されればお前は弟と会える。これは救われたことにはならないのか?俺達は、計画を速やかに終わらせて、なるべく早くにお前を弟と一緒にしてやりたいんだ。救いたいんだよ」

何も言えなかった。

恐ろしくて、言えなかった。

優しくて、言えなかった。

それら二つの真意が、コイツらの考えが分からなくて、言えなかった。


ただ、分かったのは。


私は、コイツらに使い捨てにもされかねない、ゴミクズの底辺だということだった。

「なんで……」

私は誰にも、自分にすら聞こえないような小さな声で、呟いた。

「なんで私は助けてくれないのよ……同型真像(オリジナル)の時は身体張って助けたくせに……本当の幼なじみは……私なのに……」

涙が頬を伝って、落ちた。



「助けてよ……透……!!」



伏線だらけで話が意味不明ですね、すいません。

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