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存在干渉の法則  作者: たびくろ@たびしろ
裏・榎田の過去編
29/110

過去~残酷な光景~

「居ない……一体どこ行ったのよ、もう……」

あれから30分程度経っただろうか。私は、未だに誠を見付けられていなかった。

もう、全てのフロアは回ったハズだ。だとすれば、どこかで行き違いになったか、私の声が届かなかったか……。

「一人で帰った?いやいや、この辺りは私達も行ったことがない場所だし……そもそもアイツが一回で道を覚えられるとは思えん」

だったらどこに居るというのだ。何だか、さっきからだんだん心臓が高鳴ってきた。気持ちの悪い汗が、私の頬を伝う。

「まさか、本当に誘拐とか……!?」



その時不意に、鼓膜を引き裂くような轟音が響き渡った。



「ッ!?」

私は肩を震わせ、辺りを見回す。周りの客も今の音に驚き、ざわめいている。

今の音は、何だか何かとても重い物が落ちたような音だった。同時にほんの少しだけ地面が揺らいだし、きっと外で工事の事故でもあったのだろう。

本来ならば気になって様子を見に行ったりもするのだろうが、今の私はそれどころではない。今の騒ぎで、私の心臓はより一層暴れだす。もう誠の事が、心配で心配で仕方がなかった。

次の瞬間、悲鳴が聞こえた。耳をつんざくような金切り声。私は恐くて、固く目をつぶってしまっていた。

「いや……いや……どこに居るのよ誠……!!お姉ちゃんを心配させないでよ……!!」

再び私は駆け出す。悲鳴は外から聞こえた。ということは、デパート内はまだおかしなことにはなっていない。


大丈夫、きっと見つかる。


私は自分にそう言い聞かせ、デパート内を駆け回る。

私から呼び掛けるだけじゃダメだ。その辺の客に、誠を見てないか聞いて回ることにした。

「す、すいません!!あの、私の弟見てませんか!?背丈はこれくらいで、私と同じくらいの黒髪の子なんですけど……!!」

「さぁ、見てないなぁ……それより今のはなんだったんだ?事故でも起きたのか?」

ダメだ、この人は何も知らない。私は、次の客に話し掛けた。

「あの、すいません!!このくらいの、緑の長袖を着た男の子知りませんか!?私の弟なんですけど……!!」

しかし、やはりこの人も知らなかった。

不安過ぎる。もう、泣き出してしまいそうな程、私の心はボロボロだった。

それでも私は走り続ける。止まってしまったら、そのまま倒れこんでしまいそうだからだ。

落ち着け、私。別に事は大きくなっていない。弟が迷子になった、それだけだ。弟とは関係ない事故が起きたからってテンパるな、私。

しかしそれでも私の胸はドクン、ドクンと鼓動を刻む。これ以上ないほどの、大きな音で。

それからも、私は誠を探し続けた。




「ハァ……ハァ……!!なんで、なんで……居ないの……!?」

もはや走る事も出来なくなっていた。フラフラと、重心も定まらぬまま歩いているだけ。

喉が渇いた。足が痛い。

そんな二つが、私に休めと訴えかけてくる。

だけど、誠を見付けるまでは休めない。休んだとしても、私の心は休まらない。今も、私の心は『心配』の感情しか浮かんでいなかった。

休めない。まだ、走らなきゃ……。

は、し……。


「痛ッ……く」


あぁ、もうダメだ。まるでマッチ棒が折れるかのように膝が折れ、私はその場に崩れ落ちてしまった。

本当にどこに居るのだろう。もうあらかた客に聞き込みまくったが、情報はこれっぽっちもでてこない。出てくるのは別の少年や別の少女の情報だけ。もう、諦めてしまおうか。

そうだ。きっと家に帰ったんだ。今日はちゃんと道を覚えていて、きっと一人で帰ったんだ。私が勝手に一人で心配していただけなんだ。あ、はは、あははははははははははは。

疲れきった私が、そんな僅かな可能性にすがろうとしていた、その時。


「君、ちょっといいかい?」


誰かが、私の肩を叩いた。振り向くと、そこにはこのデパートの警備員らしき男が居た。

「は、はい。何……でしょうか?」

私が少し息切れしながら聞くと、彼は少し私を覗き込んでから、言った。

「君、さっきから弟さんを探していないかい?他のお客さんに聞いたんだが……」

「はい。でも見付からなくって……お姉ちゃんなのに……私……!!」

やだ、泣いちゃう。私、お姉ちゃんなのに。それなのに、次から次へと涙が止まらなかった。

しかし、そんな涙は男の次の一言で跡形もなく消え去った。



「君の弟さんらしい男の子が居たんだ、だから……」



「――――――――ッ!?どこですか!!どこに居るんですか!!教えてください!!」

私が男の肩を掴むと、男は驚いたように、

「そ、外だ。本店の東玄関から出て右にある最初の角に――――――」

「ありがとうございます!!私、行ってみます!!」

そう言って、私は勢いよく駆け出した。ほら、まだこんなに走れたんじゃない。誠を、見付けられるじゃない。

警備員のおじさん、本当にありがとう。私、あのままだったらどうしちゃってたかな。そのまま大人しく帰ってたかな。

そんなことを考えながら、私は急いで警備員のおじさんが言っていた東玄関に向かう。これ以上ないほどのスピードで。

誠、やっと会える。ホント、お姉ちゃんを心配させちゃって。

出会ったら何をしよう。抱き着いちゃおうか。それとも、怒っちゃおうか。

でも、それでもこれだけは言いたいの。



『ゴメンね、誠。私、お姉ちゃんらしくなかった』



東玄関の自動ドアを駆け抜ける。おじさんが言った通り、右に向かい、最初の角を曲がる。

「誠っ……!!」

って、あれ?

私は、目を丸くした。

まだ誠の姿は見えない。何故なら、人だかりが出来ているからだ。

おかしい。たかが男の子が迷子になったくらいで、あれだけの人だかりが出来るだろうか。私が見る限り、そこには100人程度の人間が輪を作っていた。

よく分からなかったが、私はその人だかりを強引に掻き分ける。何人もの人間が層を作っていて、とても入り込むのに苦労した。

「大丈夫!?寂しくなかった!?まこ――――――」

私がその層を突っ切って輪の真ん中に出た時、私の目にはとんでもない物が飛び込んできた。

そして、言葉を詰まらせた。

何故なら。



目の前にあるのは、巨大なコンテナのようなものと。



大量に飛び散った赤い液体と。



コンテナの下から僅かに見える、見慣れた少年の面影のない姿だったからだ。



「――――――と?」

う、そ。何なの、これ。

何よ、この赤いの。これって――――――『血』?

その赤い液体はコンテナの下から四方八方に飛び散り、近くにあったデパートの壁やコンクリートの地面に染み付いていた。

他にも黄色い脂肪の破片のような物や、砕けた白い――――――骨のようなものまで、


「う、ぇ!!」


突如、私の思考は中断され、代わりに喉の奥から気持ちの悪い液体が飛び出してきた。

その場にかがみこみ、私は激しく嗚咽した。ボタボタ、と色々な物が胃の中から溢れ出てくる。

ようやく落ち着いたところで、私は自分の手のひらを見た。

そこには、地面に染み付いていた赤い液体が擦り付けられていた。それを『血』と認識するのは簡単だったが、『誰のか』を考えると、また吐き気が襲ってきた。

「ハァ……ハァ……」

「……キミ。そこの子は、キミの弟で合っているのかな……?」

追い付いたのだろう、後ろから先程の警備員が声を掛けてきた。

「本当に申し訳ないけど、確認してほしいんだ。キミが聞き回っていた弟さんの情報と、そこの……遺体の情報が、ピッタリ一致しているんだよ」

私が聞き回っていた情報。

私と同じくらいの濃い黒髪。

緑色の、長袖のシャツ。

私より頭一つ分くらい小さな背丈。


しかし、そんなこと確認するまでもなかった。


コンテナの下から一つだけハッキリと出ている右腕。それは、その遺体自身の血で真っ赤に染まってはいるが。

「う……ぁ」

その緑色の、少し大きめな長袖も、その小さな可愛らしい手も、

「あぁぁ……ぅぁぁあぁぁ……」



間違いなく、私のたった一人の弟の、誠のものだったからだ。



「うあああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!」



嘘だ。そんなわけない。そんな。

誠が死ぬなんて、そんなこと。

それに、何よりも。

あんな可愛らしい笑顔を浮かべる、あの誠の顔が。

あんな跡形もなくなるなんて、信じられなかった。



「あああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ…………ァ」



ふと、視界が眩んだ。身体が揺らぎ、目の前はコンクリートに付着した血の赤色一色に染まった。

私が最後に感覚として感じたのは、


横倒しになった身体をゆっくりと冷やすコンクリートの冷たさと、


私の頬を赤く染めた、誠の血の生暖かさだった。

急展開。ていうか、今回はいつもより本文が長くなってしまいました。

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