過去~素敵な女性~
「ぷはぁっ。あー死ぬかと思ったわねー」
私達は、あの後出来るだけ遠くに逃げた。今は、休憩スペースで飲み物を飲んで落ち着いているところだ。
私はコーラで、誠はサイダー。別にこだわりがあるわけではないが、それぞれその飲み物がお気に入りなのだ。
「まったくもう、お姉ちゃんがいきなり飛び蹴りなんかするから……」
おいちょっと待て。アンタ責任を全て私に転換する気か。
「何よー、そもそもアンタが変なタイミングであのおじさんに近付くから……」
「違うよ、お姉ちゃんが飛び蹴りしたからだよー。僕悪くないもん」
何か、いつになく反抗的だなオイ。どうみてもあれはアンタが悪かったでしょ。ていうかアンタが不用意に話し掛けなければよかったじゃない。
「だってぇ、僕おじさんにお菓子買って貰おうとしただけだもん」
「そんな瞳をウルウルさせたってアンタが悪いの。ほら、お姉ちゃんに謝んなさい」
そう言って私が誠の前に中腰になると、誠はさらに瞳をウルウルさせて言った。
「ぼ、僕悪くないもん……!お姉ちゃんが悪いんだよ……!」
「ったく、意地張らないの。お姉ちゃんそういう子好きじゃないなぁ」
こう言えば誠も大人しくなると思ったのだが、誠は私を突き飛ばしていきなり立ち上がると、
「……いいもん」
「え?」
「お姉ちゃんなんて嫌いだ!!」
そう捨て台詞を吐いて、どこかへ走り去ってしまった。
「ちょ、まこ……!……あちゃ~、怒らしちゃったかな~」
私は誠が走り去ってしまった向こう側を見つめながら、こう思った。
「まぁ、ちょっと経ったら戻ってくるわよね。少しアイツには寂しい思いさせてみるか」
それは、中学生とは思えない程の私の幼稚さから来た発言だった。簡単に言うと、腹いせに嫌な思いにさせてやろうということなのだ。
私は、少しにやけながらその場を後にした。
あんなことになるなんて、この時の私は考えようもなかった。
「帽子、帽子……っと。誠、どんなのがいいかなぁ……」
私は何かオシャレな感じの洋服屋に入り、そこで帽子コーナーを見つけた。
……いや、ね?私も何だかんだ言ってガサツな女子かもしんないけど、私だってこういうオシャレな店にも入ってみたいんですよ。分かりますかねぇ。
そう思い浮かべた後、頭のどこかで『見知らぬ親子連れのパパさんに飛び蹴り喰らわした女が言う事か』と言う声が聞こえてきた。まぁ、確かにあんな暴行加えといていうセリフじゃないわよね。
「何かお探しですか?」
不意に、後ろからハキハキとした女性の声が聞こえてきた。振り向くと、ここのお店の店員だった。茶髪の、気さくそうな女性で、何だか話し掛けやすそうな雰囲気だ。
「あ、ちょっと今探し物してるんですけど……」
「帽子ですか?お客様でしたらこんな物がお似合いかと思いますが……」
そう言って彼女が差し出してきたのは、ピンクを基調とした可愛らしいキャップだった。うん、確かに可愛い……けど、ちょっと子供っぽくないかな?うぅん。
あ、違う。私の帽子じゃないや。誠の帽子、誠の帽子。
「あ、いえ、その……弟に買ってあげる帽子なんですけど。小学生向けくらいでちょうどいい奴ってありますか?」
「あぁ。それなら、そこにある物などどうでしょうか。結構人気がありますよ」
彼女が指差したのは、確かに小学生などが喜びそうな、今人気のキャラクターがプリントされているキャップだった。
「いえ……弟、あまりこういうキャラクター物に興味が無いんですよね……。もうちょっと、なんていうか地味な奴でもいいです」
「そうですか……でしたら、そこにある無地の物などどうでしょうか。色なら豊富に取り揃えておりますが」
そこに並んでいたのは、小さくメーカーのマークがプリントされているだけの、飾り気のない帽子だった。彼女の言う通り色だけは豊富で、黒い物から白い物、男の子が好きそうな赤や青、女の子が好きそうなピンクや水色などがあった。
「あ、これならいいかも。すいません、じゃあこの黒い奴ください」
「ありがとうございます。それでは、カウンターまで……」
私はそこに並んでいた物のうち、無難な黒を選び、それをカウンターに持っていった。
価格もだいぶお手頃で、結構いい買い物したなぁ、と思った。
「ありがとうございました。……あの、つかぬことをお聞きしますが」
「はい?」
私がその店から出ていこうとすると、茶髪の店員は私を呼び止めた。
「その……弟さんというのは、家でお留守番中ですか?」
「? いえ、さっきはぐれてしまって。これから探しに行こうかと……」
「そうですか……最近は物騒なので、注意してくださいね。誘拐とか、ここらじゃ結構頻繁に起きているみたいなので」
誘拐……。そうなんだ、確かに今日は人も多いしね。
すぐに探しに行こう。もしも誘拐なんてされたらお姉ちゃんとしてのメンツが立たない。
「分かりました。ありがとうございます。今すぐ探しに行きます」
「そうしてあげてください。お客様、いいお姉ちゃんなんですね」
「え?」
私が訝しげに首を傾げると、茶髪の店員は大人な感じの笑みを浮かべて言った。
「弟さんの帽子を選ぶときのお客様、何だかとてもいきいきしていらっしゃいましたから。早く、弟さん見つけてくださいね」
いきいきしてた……私が?まぁ、誠の事は大好きだから。たった一人の、家族だからね。
「ありがとうございます!それじゃ、探してきます!」
私がそう言うと、茶髪の店員はニコニコと笑顔を浮かべながら、頭を下げた。
あぁ、何だかスゴくいい人だ。
私もあんな素敵な女性になりたいなぁ。
店員さん……何かの伏線……なわけないか。




