過去~恥ずかしい記憶~
「デパートデパート♪ねぇ、何買うの?ねぇ!」
「お願いですからちょっと落ち着いてくださいお姉ちゃん恥ずかしすぎてシニソウデス」
春風吹きわたる午後2時。とりあえず今望む私の願いは『透明人間になること』ですね。恥ずかしいったらありゃしない。
理由はもちろん誠。外出して五分間ぐらいは大人しく私の手を繋いでいたのだが、それからはもうサーカス団にでも入ってしまえと思うほどアクロバティックな動きではしゃいでいた。なんださっきの横転三連続は。あぁ、なぜ神はこんなはしゃぎたがりのこいつに私と同レベルの運動神経を分け与えてしまったのか。
おかげで街行く通行人からは迷惑と嘲笑の目で見られる。いや、それだけならまだいい。その中に時々混ざっている『わぁ、あの男の子スゴーい。きっとお姉ちゃんはもっとスゴいんだろうなー』みたいな目が一番恐ろしい。
「私はこんな往来でアクロバティックプレイなんてしないわよ……」
誰にも聞こえない声でそう呟く。
正直コイツを置いて猛ダッシュで駆け抜けたい。というか逃げたい。いやだ。今、きっと私の顔はトマト顔負けの赤さを誇っているだろう。
そんな事も露知らず、誠は嬉しそうな顔で言う。
「ねぇねぇお姉ちゃん、なんでそんな顔赤いの?あ、わかった。お姉ちゃん美人だからみんなから見られるの恥ずかしいんでしょ」
「…………」
どこからそんな発想が飛び出してくるのか。というより目立ってるのは私のせいじゃなくてお前のそのアクロバティックさのせいだ。
……まぁ、美人と言われる事には特に言及しない。実際たまに言われたりもするし、別に嫌な気分になるわけでもない。というよりはっきりいって嬉しい。
ただ。
ただ、弟に言われるのはなんかイラっとくる。いや、たぶんコイツに悪気は無いのだろうが、それでもなんか、こう……ムカつく。
「お願いだからやめて。美人のお姉ちゃんの命令。とりあえず大人しくしなさい」
「はーい」
なんか予想外に聞き分けのよかった誠は、急にアクロバティックプレイをやめて私の手を握った。何なんだコイツは。もうコイツの脳内パターンを推測することは、私には不可能だ。
「でさー、さっきから聞いてるんだけどさ、なに買うの?デパートで」
「ん?いや、アンタがこの前帽子無くしたって言ってたから、それを買いに。あと、服とかね」
「あー帽子。僕どんなのにしようかなー」
「なんか今年の夏は暑いっていうし、熱中症になられたら困るしね。熱中症は恐いのよー毎年何人も死んでるんだからー」
「し、死ん……!?」
とりあえず大人しくなったままにしとくために、一発ビビらせとく。まぁ、熱中症が恐いのは本当だし、こう言えば注意もするでしょ。
そうこう言っているうちに、私達はデパートにたどり着いた。最近出来たデパートらしく、私達は一回も来たことが無かった。
「ほえー。でっかいわねー」
「……面白そう!早く入ろうよ、お姉ちゃん!」
「はいはい」
私は半笑いを浮かべながら誠に引っ張られて店内に入った。まだ春先で肌寒いのもあってか、店内は暖房が入っていた。目に入る物全てが輝いて見えるほどきらびやかな店内は、私達の心臓を高鳴らせるには十分だった。実際、私も少しウキウキしてしまった。
しかし私はお姉ちゃん。こんなことではしゃいでいたら姉としてのメンツが立ちませんよ。
そういう大人びた考えもあってか、私は予想以上に落ち着いていた。
「さーて、まずは服売り場に……ってあれ?誠?」
しかし、私が見渡しても誠の姿は無かった。まったく、何で私が思考回路を働かせた瞬間居なくなるの。今なんて僅か三秒ですよ、目を離したのは。
「まったく、どこに……ってちょっと!知らないおじさんに付いてかない!誠!」
僅か三秒の間に、既に10メートルほど先で三十代ぐらいの男の手を掴んでいた誠は、もう既に私の視界から居なくなりそうだった。新しく出来たデパートだからか人が多く、誠みたいに小さかったらすぐに見失ってしまいそうだったからだ。
……ってあれ?あれ、引っ張られてない?ていうか、誠が引き剥がそうとしているのをあの男が無理やり掴んでいるように見える。
ちょっと、あれマジもんの誘拐じゃないの?
「ヤバい!誠!」
私は人混みを無理やり掻き分け、誠とその男の元へと走る。
誠が何か叫んでいる。ヤバい、きっと助けを求めてるんだ。早く行かなきゃ。
「あ!お姉ちゃん!この人……」
「誠を離せこのクソオヤジィッ!!」
誠が何か言うのも構わず、私は男に駆け寄り、軽く跳躍してから男のうなじ辺りに強烈な蹴りを浴びせてやった。
男はなんかよくわからない声を上げ、そのまま倒れこんでしまった。
「ハァ……ハァ……大丈夫!?ケガとかしてない!?コイツに何かされなかった!?」
「お姉ちゃん……僕、この人にあそこのお菓子買って貰おうと思っただけなんだけど……」
「バカ!こういう誘拐犯ってのはね、そうやってアンタを油断させてから連れ去ろうと……!」
「いや、だからそうじゃなくて……」
誠は何を言ってるんだ、といったような顔で私を見る。
「僕がおじさんに買ってって頼んだだけなんだけど……」
「……へ?」
え、なに、アンタから『買って』って言い出したの?
ってことはこのおじさんは突然意味不明の要求を突き付けられて困っていただけってこと?
「じゃ、じゃあ……なんでアンタは捕まってたのよ。アンタ思いっきり逃げようとしてたじゃない」
しかし、またもや誠はキョトン顔を私に見せ付けると、
「それはいつまでもおじさんがグズグズしてたからお菓子売り場まで連れていこうとしただけだよ」
あぁ、そういうことか。誠がお菓子売り場まで引っ張っていこうとしたのを、このおじさんが止めていただけか。
「……ってことは」
私はもう一度振り返る。
振り返った先には私のキックで気を失った男が。そして周りの人間はみな一斉に私達を向いている。
それを察知した瞬間、私の脳内に一つの言葉が浮かんだ。
逃げよう。うん。
「すいませんでした勘違いでしたもうしませんもう会いません本当に申し訳ありませんでしたお大事にさようならッ!」
ありったけの謝罪の言葉の脳内から引き出し、日本語の法則を無視して適当に並べた後、私は猛烈なスピードで走り去った。もちろん誠を連れて。
この時、私は思った。足が速くてよかったなぁ、と。
私が走った後に風を切って涙が飛んでいったのは見なかったことにしよう。見なかった見なかった。
おじさん、本当にごめんなさい。
ちらっとあなたのお子さんと奥さんも見えました。一家の大黒柱の情けない姿晒させてすみません。
奥さん、お綺麗ですね。
常々、申し訳ありませんでした。
皆さん、小さい頃にデパートとかでありませんでしたか?休日とかで結構人が一杯いるときのお菓子売り場かなんかで、少し商品に目を奪われた後に、
自分「ねぇねぇお母さん」
知らない人「え?」
自分「」
ってこと。作者は五回ぐらいありました。




