過去~仲のいいお昼頃~
「ご飯食べたらすぐに行こうね!ね!」
「はいはい分かったわよ。だから貧乏揺すりしないで黙って座る」
お昼の12時半。私は居間の食卓に誠を座らせ、私自身はキッチンの前でホットケーキの元を作っていた。
「お姉ちゃんのホットケーキ早く食べたいなぁ~!早く!早く!」
「分かった分かった行儀悪いからナイフとフォークでテーブルを叩かない」
そんなウキウキ感が滲み出ている弟をなだめながら、私は卵と牛乳を混ぜ合わせる。自慢になるわけじゃないが、私の得意料理はこれだったりする。まぁ、私が作る料理(料理と言えるのかわからないが)の中で、ホットケーキが一番誠に気に入られているだけなのだが。
「ほら、一人ではしゃいでないでホットプレート出しなさいよ。場所分かるでしょ?」
「えー分かんないよぅ」
「まったくしょうがないわねー。冷蔵庫の横に立て掛けてあるでしょ……って違うってなんでお鍋持ってくるの!?違う違う、それじゃないってそっち……蓋だけ持ってこないでよ!!あーもういいわよ私が持ってくるから!!」
私は苛立ち、ホットプレートを鷲掴みにして持っていった。誠は、何だか俯いている。
「どうしたの?」
「……ごめんね。役に立たなくて」
私のシャツの裾を弱々しく掴みながら、涙目で誠は呟いた。
……まったく。ホント弱虫なんだから。
私は誠と目線を合わせるため、中腰になった。その目に浮かんだ涙を人差し指の背でぬぐい、その頬に手のひらを当てた。この方が落ち着くかと思ったからだ。
「そんなことないわよ。ったく、アンタすぐ泣かないの。もう小学三年生でしょ?」
「うん……」
「だったらウジウジしない。ほら、一緒にホットケーキ作ろ?」
しかし、誠の表情は未だ晴れない。俯いたまま、涙声でこう言った。
「でも……お姉ちゃん僕の事嫌いになったでしょ?」
「え?」
ぷるぷる身体を震わせながら、誠は私を見る。その緑色の瞳からは涙が溢れていた。私がさっきぬぐったにも関わらず。
「僕がお姉ちゃんの役に立たないから……嫌いになったでしょ?」
まーた始まった、誠の被害妄想。まぁ、小学生くらいになったらみんなこんなモンかしら。
小学生によくある、『何も言ってないのに勝手にいじける』っていう奴。ホント、同じクラスの男子でもこんな奴がいるから困るのよね。私が他の女子と男子が喧嘩してるのに加勢したら、男子はよく『こいつが俺の事バカにしてきたんだ!』とか。私は一言たりとも喋ったりしないっていうのに。あれ、何か違う気が……まぁいいか。
とりあえず、慰めなくちゃ。まぁ、この手のいじけは透の十八番だったからね、対処法は分かってんのよ。
「そんなわけないじゃない」
「え……?」
誠は驚いた様な表情を浮かべる。なに、ホントに私がアンタの事嫌ったと思ってんの?そんなわけないじゃない。
お姉ちゃんは、
「お姉ちゃんは、誠の事大好きだよ。だから泣かないで、ね?」
そう言って、私は誠の頭を撫でてあげた。ありったけの優しさを込めて。
誠は、しばらくは呆然としていたが、やがて溢れんばかりの笑顔を作り、
「うん!泣かない!」
と言って私に抱き着いてきた。照れ臭そうな、『えへへ』と言う声が聞こえた。
ホント、情けなくて、弱虫で、すぐ泣いて。
だけど。
すぐ泣き止んで、人懐っこくて、可愛い笑顔を作って、『お姉ちゃん、お姉ちゃん』なんて言って私を呼ぶ、
そんな弟が、私は大好きだ。
「ほら、準備して!ホットケーキ、一緒に作ろ!」
「うん!」
私達は、本当に仲のいい姉弟だなぁ、と。
この時、改めて思った。
一人っ子の作者としてはこういう姉に憧れるなぁ。いいなー。




