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同じ苦痛

ぽっかりと、心に空白が出来たような気がした。

それから入ってくる携帯からの声も、全然分からなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。

信じたくない。


透が、死んでいるなんて。


「あ……あぁ……ぁぁぁああ……!!」

頭を抱え、うずくまる。言葉にならず、ただ母音の『あ』を羅列しているだけの私に、誠は何を思っているだろうか。

だけど、もう耐えられない。お願い、泣かせて。もう、情けなくたって何だって構わないから、まずは泣かせて。

ねぇ、何で死んだの、透。私、言ったじゃない。また会おうねって、言ったじゃない。

なのに……なのに。

「なんで……死んだの……!」

もう、自分で涙を抑制できない。開放されっぱなしの涙腺から、今まで流したことがないほどの涙が溢れ出た。

「姉貴……」

「うぅ……う、ぅう……!」

もう、生きてく希望がない。母さんも殺され、透も既に死んでいた。だったら私は何のために生きてる?

私は透に会うこと、ただそれだけを望んでいたのに。

だけど、透が死んでしまっては元も子もない。あぁ、もういっそ死んでやろうか。

…………だけど。

「なんで……なんであなたにそんなことが分かるの?あのニュースに透の名前は出てなかったはず……なのに」

『見たからよ』

「え?」

彼女の口からは、予想外の答えが返ってきた。


『私はね、神代君とクラスメイトだったの。あの日は一緒に図書館に行ってた。その帰り、偽者の神代君に神代君は殺されたの』


「―――――!」

その瞬間、私は気付いた。この悲しみは、この痛みは、私だけのものではないと。

「あなたも……透と繋がりがあったの……?」

『……うん。悲しかったよ。目の前で大好きな人が殺されたのは。あの時は泣いたし、無我夢中で絶叫したりもしたと思う。ショックすぎて、あんまり覚えてないけどね』

電話口の向こう、顔も分からない彼女は今どんな顔をしているだろう。きっと、悲しそうな顔をしているだろう。

『あの後は、そのまま引きこもったり、家で一人で泣いたりもした。けど、分かったの。このままウジウジしてるより、実行した方がいいって。神代君は、そういう人だったから。きっと、彼もそう言うと思ったの。だから……』

彼女は、電話口の向こうからこんな声を掛けてきた。


『だから、泣かないで。きっと、神代君はそれを望んでない。幼なじみである榎田サン、あなたが笑ってる事が、神代君にとって一番嬉しいことだと、私は思うから』


それは、今まで聞かなかったほどの優しい言葉だった。まるで囁くように、それでいて包み込むような声で、立花は励ましてくれた。いや、もう呼び捨てじゃいけない。立花さん、だ。

『だから、今は逃げ延びて。あなたが捕まって殺されるなんて、神代君が望むはずない。しかも、あなたはそれを可能にする『力』を持ってる』

「『力』……この『蒼い目』の事?」

私は泣くのをやめ、聞いた。そうだ、この立花さんは私の『目』の事を知ってる。もしかしたら……何か教えてくれるかも。

「そう。私も同じ力を持ってるんだけどね、それは単なる副次的効果として目の色が変わるだけなの。本当の力は目とは全く関係ないよ」

「ちょ、ちょっと待って。同じ力を持ってるって……あなたも目が蒼くなるの!?」

私がそう言うと、立花さんは微かに笑った。小さな笑い声が、私の耳に響いた。

『いや、私はね、紅くなるの。しかも融通の利くあなたの蒼い目とは違って、私の目は紅くなりっぱなしなの。そのせいで友達も出来ないし、気味悪がられた。……でもね』

ちょっと、声のトーンが上がった気がした。

『神代君はそんなこと気にしなかった。他のみんなと同じ様に、当たり前に接してくれた。それから、私は神代君が大好きになった。いつでも一緒に居たし、いつも陰から見てたし……!』

あれ、この人ストーカーじゃないですか?いや、まてまて、透の許可を得て恋人として振る舞ってたのかもしれない。何でも悪く考えるな、私。

……恋人として?ん?なんかモヤモヤするなぁ。なんかこの人に僅かながら敵意が生まれましたよ、私。透も透で恋愛フラグ乱立する困ったちゃんだったからなぁ。ってあれ?なんで私こんなイライラしてるんだろう。

まさか?いやいや、透は幼なじみだよ、幼なじみ。友達だから。そういうわけじゃないから。

『……ねぇ、なんか思考のツボにはまってない?大丈夫?』

「え!?いや!?だ、大丈夫だよ!?まぁ、今さらこんな事言ってても……ね」

そうだ、透は死んだんだ。仮に私が透の事を好きだったとしても、もう想いを伝える手段なんか無いんだから。


でも、もう泣かない。


泣いたって、透は帰ってこないんだから。


「姉貴、ぶっちゃけさっきからテンションの上がり下がりが異常だけど……どうしたの?」

不意に、横から誠が話し掛けてきた。私はゆっくりと息を吐くと、誠の肩を掴んで、言った。

「大丈夫。お姉ちゃん、もう大丈夫だから。まずは逃げよう?そして、これからの事を考えようよ」

私としては、ずいぶんとカッコいい事を言ったつもりだった。

誠も分かってくれたのか、『うん』と頷いてくれた。いつも生意気なくせに、実際は可愛いんだから。もう。

『……それで、この力の事なんだけどね。この力は、具体的に言うと「逆世界の反応を認識出来る」……っていう能力なんだけどね。分かる……わけないか』

「ふんふん。つまり私達から見ると、裏世界から来た物や人なんかを認識出来るってことだね。だからあの時私は裏世界から来た私の事を認識出来たってわけか」

『………………』

電話口の向こうは言葉を詰まらせている。どうだ、私これでも高校の一学年の中でトップの成績を誇るんだから。頭の回転と理解力の速さでは誰にも負けないよ。

「ってことはこの力があれば逃げられるかもしれない!誠、逃げよう?裏世界の私がいつ来るか分からないし、いつまでもここには居れないよ」

誠は救われたような顔で私の手を握ってくれた。それが、すごく嬉しかった。

私達は、再び裏路地を走り出した。

私の蒼い目と、立花さんの指示に従って。

夏休みつっても勉強勉強でめんどいな、あぁめんどいな

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