人嫌いの少年
その日も、いつもと何も変わらなかった。
俺は、授業終わりのダルさと疲れによって、机にうつ伏せになっていた。といっても、別に授業に付いていけてないわけではない。しかし、だからといって先読みしていけてるわけでもなかった。
つまりは、普通。ただ普通な俺は、そんな日々を過ごしていた。
ふと、隣から声が掛かった。
「ふぃ~。疲れた。ねぇ、トオル君。帰りどっか食べに行かない?」
同じようにだらけながらいうクラスメイトの女子。彼女の名前は立花真咲。俺より多少頭はいいが、無駄に馴れ馴れしいそいつが、俺に話し掛けてきた。
ていうか馴れ馴れしいなコイツ。何か腹立つわ。無性に。
「……黙って一人で帰れカス」
なのでこの俺、神代透は表現できる限りのゲス顔でそう言った。
ていうか俺はこの馴れ馴れしさMAXのこの女子とは特に何の接点もない。というかウザい。うるさい。
「ヒドッ!!しかもとんでもないゲス顔で言われたし!!」
彼女は顔を真っ赤にして怒っている。でしょうね。始めから怒らす気マンマンだったし。
こんな感じの応答が毎日のように繰り返されている。だってめんどいし。ぶっちゃけ話したくない。
別に彼女にだけこんな罵倒を繰り返している訳ではない。誰からだって話し掛けられれば大体いつもこんな感じだ。
というか、この俺、神代透の周りからの一般評価は『あまり他人と話したがらない、話し掛けられても罵倒の嵐を畳み掛ける人嫌いのいけすかない野郎』である。
そのせいで、まぁなんというか、いわゆる『ボッチ』状態になっているわけである。
そしてこの立花真咲は、そんなボッチ状態の俺に対して執拗に話し掛けてくる。もうコイツと隣り合って二ヶ月が経つが、未だにこいつはポンポンと腹立つセリフを発してくる。まじでイラつく。まぢで。
大体の奴は一週間ぐらいで俺と話さなくなるのだが、コイツは違った。諦めが悪すぎる。そして疲れる。
「ギャンギャン喚くなようるせぇな。帰りにこの大雨の中で水溜まりに頭から突っ込んで窒息死してしまえクズ」
「いやヒドイ!!ていうかどうやったらそんなシチュエーションになるの!?私水溜まりで窒息死とか死んでもゴメンだから!!ていうかそもそも死にたくないから!!そうやすやすと!!」
俺はめんどくさくなって窓の外を見つめる。雨だ。大雨だ。傘が無かったら頭のてっぺんから足の裏まで貫かれそうなほど勢いのある雨水が、そこら一帯に降り注いでいる。
だが大丈夫。天気予報で見たからバッチリ傘は持ってきている。しかも折り畳み式。
「ていうか本題に逆流しましょう。はい、逆流。ということで、行くの?行かないの?」
「は?どこに?ていうかいっぺん死んでくれ、お願い」
「だからやめてそれ!!そんな簡単に私の人生終わらせないで!?ていうかどっか食べに……」
何言ってんだコイツ。行くわけないだろボケ。
「行かねぇよゴミ。ていうかドブに高度2000メートルからHALO降下しろブス」
「お願いやめてその妙にヒドイ仕打ちをポンポンと言うの!!ていうか何で来ないの!?どうせ暇でしょ!?」
俺は大きな溜め息を一つだけついた。いや、本当はいくらでもつきたかったが、人類には肺活量という最大の足枷がある。よって、俺は一つだけにしておいたのである。
「暇じゃねぇよカス。俺にはこれから読書という最大の用事があるんだよわかったかわかったなわかったよな」
「またか!!またあの市営の解放図書館行って本読むんか!!この際だから言わしてもらうけどねートオル君もはやボッチのレベルを超えてるよ!?自分からボッチ希望とかボッチの極みだよ!?」
だからどうした。実際俺はボッチ克服願望などアリのハナクソレベルすらもないのだよ。むしろボッチ歓迎。ボッチ大好きボッチ希望ボッチ要求ボッチ万歳。そんな男なのだよ、俺は。
「他人と会話しなよ。ていうか会話どうこう以前にその神がかってる罵倒スキル下げませんか?初対面だったら一発で『なんだコイツ顔面殴りてぇめっちゃ殴りてぇ無性に殴りてぇ』とか思われても仕方ないレベルだからね!?」
お黙り。俺はそれを驚異的反射神経でかわすから問題なし。というより俺は他人を罵倒したい訳じゃなくてそれをキッカケにして俺に話し掛けないようにして欲しいだけなのだ。
いいのだよこれは。正当防衛。防衛本能。何か意味が違う気がするけどどうでもいい。
「知るかカス。俺はそんなのどうでもいいの。話し掛けてくる奴が居なくなれば何でもいいの。そしてお前に付いていったりもしない。わかったかわかったなわかったならGo to hell」
「地獄に堕ちろ!?ヒドくない!?ていうかヒドイっていう次元を超越してない!?わざわざ英語にする意味も分かんないし!!」
ギャンギャン喚く彼女をよそに、俺は周りの視線を気にしていた。また睨んでくる。どいつもこいつも、俺のことをその緑色の瞳で睨み付けてくる。
恐らく原因は俺達が騒いでいるからだろうが、それでも俺を睨んでくる緑色の瞳達は薄気味悪かった。
そう、何故かこの世界の住人はみな瞳が緑色なのだ。もちろん俺も立花も例外ではない。まぁ、別に気にすることでもないが。
瞳が緑色なのは当たり前の事だし、悩んでいてもどうしようもないからだ。
と、その時教室のドアが開き、俺達の担任が入ってきた。この担任は話が長く、皆から煙たがられていた。
…………あぁ、また長い話が始まった。
主人公にやる気がない。ていうか罵倒大好き。よくもまぁここまで悪口思い付いたなぁと思います。






