裏~少年と幼なじみの少女~/表~少年の仇を取る少女~
「……透」
私は一人呟いた。鏡の前に立ち、帽子を深く被る。ポニーテールが引っ掛かるけど、まぁ大丈夫かな。
時刻は10時を回った頃。もうそろそろ『頃合い』だろう。
鏡を見つめる。鏡の中の私、その緑色の瞳が、何かの感情を放っている。
自分で分かる。
それは、『殺意』。
それは、『愛情』。
この世界は、まるでトランプのカードのようだ。
裏世界の人間と、表世界の人間。裏の世界と、表の世界。いや、直接的に言い換えると、
裏世界の私達『同型虚影』と、
表世界の『同型真像』。
私に何故『この力』が備わったのかは、『あいつら』の思う所だから私には分からない。でも、私はこの力を神代透のために使う。同じ緑色の瞳の、茶色の髪の、本ばかり読んでいたアイツのために。
この『界転』の力は、アイツを守るために、私に備えられた。
私は、僅かに身体に力を込める。
すると、身体がだんだんとカードのように分けられていった。それがひっくり返っていくのと一緒に、私の身体は消えていく。こんな感覚は初めてだ。しかし、恐怖感は無かった。これから、アイツを助けるのだと思うと。
「まったく……あの時は強がって『僕一人でも大丈夫』なんて言っちゃってさ。結局、こうなるんじゃない」
強がっていたアイツを思い出した。あの時、安心してしまった私がバカだった。結局、一人じゃ何も出来ないくせに。
私達が住んでいるこの裏世界は、表世界の『虚影』だ。何一つ、独立しない。所詮、表世界のコピーなのだ。きっと『あいつら』も、そこに思う所があって私にこんな力を与えたのだろう。
だけど、そんなもの私には関係ない。
私は、守る。
「――――――守ってあげるわよ、透。いつまで経っても、私がね」
目標は、表世界の私。
そう、『同型真像』の『榎田舞』。
彼女を、いや、私って言った方が正しいか。
幸い、この二つの世界にはイカれた『法則』が存在する。その法則に従えば、私は表世界の私に触れるだけで目的を達せられる。
なんだか、心臓がドキドキする。透を守れるからだろうか。
透、守ってあげるからね。
そのためには。
私を私自身の手で――――――殺す。
「――――――!!」
来た。
彼女が、来た。あの忌まわしい裏世界から。神代君を殺した、神代君の幻影が生きている裏世界から。
二ヶ月前の、あの出来事。あれから、私は色んな事を知ってしまった。
表世界、裏世界の存在。
私達『同型真像』と、クソ野郎だらけの『同型虚影』共の存在。
その二つの世界を掌握する、たったひとつの『法則』の存在。
そして、私の紅い瞳の正体も。
「榎田舞……か。神代君と幼なじみだったらしいけど」
どうやら彼女も、私と同系列の『目』を持っているらしい。私と違って、ずっと発動しているわけではないようだが。
いいなぁ。私なんかこの『目』が発動しっぱなしだから疲れやすくなっちゃって。だから小さい頃から運動が苦手なのかな。
色も私とは違うみたい。
私は『紅い瞳』だけど、
その榎田って女の子は『蒼い瞳』。
何か意味があるのかな?そこのところは『あの人達』は教えてくれなかったけど。
まぁ、いいや。私は、神代君の仇を取る。神代君を殺した神代君の『偽者』は、私が殺す。
『あの人達』は『同型虚影』なんて格好いい名前を付けてたし、あの日神代君が探し当てた本にもそう書いてあったけど。
そんなもの関係ない。ただの死に損ない。クズ。居ちゃいけない存在。
私はアイツを必ず殺す。その為には、彼女に死なれちゃ困るの。
「必ず守るからね、榎田サン。一緒に、あの神代君モドキを殺そう?」
自室に座っている私は、携帯のボタンに手を掛けた。
彼女を、逃げ口へと導くために。
いきなり話が深くなりましたねぇ。一人の少年を中心にして、話が進んでいきます。
実はリア充な神代君。