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存在干渉の法則  作者: たびくろ@たびしろ
理想の世界
110/110

神代透の望む世界(裏)

あれ?

俺……どうしてたんだっけ。

死んだんだっけ?

あ、違う。俺が真咲を殺したんだ。

ん?

違う。それは同型真像(オリジナル)の方だ。

俺は真咲に殺されたんだ。同型虚影(ドッペルゲンガー)なんだし。

待てよ、それで正しいのか?

俺は、神代透だ。そこまでは覚えてるし、理解している。

でも。

俺って、どっちの神代透だったっけ?

表世界に住んでたんだっけ? それとも裏世界に住んでたんだっけ?

ん?

あれ?

よく分からなくなってきた。

それに、ここはどこだ? どこまでも真っ白で、果てしなくて、周りに誰もいない。

今、俺は寝てるのか? 立っているのか? 座っているのか?

それすらも分からない。自分に身体がある感触すら、沸き上がってこない。

俺は、神代透なのに。

それ以外が、全く分からない。

あれ――――――



『トオル君! なにやってんの?』



不意に、世界が広がった。全てが形作られて、感覚がはっきりとしてくる。

ここは……教室だ。いつもの、教室。

みんな既に下校してしまったのか、教室には誰もいない。その中で、俺は机に突っ伏して寝ていた。

『……あれ、俺何やってたっけ?』

『何言ってんのトオル君? もうみんな帰っちゃったよ?』

『帰った? 今、放課後?』

『あ~もう、ボケちゃったの? 昼寝のしすぎだよ……』

『昼寝……』

『ほら、帰ろうよ。学校閉まっちゃうよ?』

そう言って、誰かが俺の手を引っ張る。誰だっけ、コイツ。

『お前……誰?』

『ちょ、それまで忘れちゃったの!? マジで記憶喪失じゃん!!』

『あれ……記憶喪失だったっけ俺』

『違う違ーう!! さっきまで普通に授業受けてたじゃん!!』

『ちょっと待って、マジで思い出せない』

『……はぁ。私は真咲、立花真咲。んで、君が神代透。覚えてる?』

『いや、俺の名前は覚えてるけど……。真咲、かぁ……あぁ、思い出した。俺の友達』

『友達じゃなくて彼女だけどね』

『嘘ォ!?』

『急に恐い顔しないで!! めっちゃビックリした!!』

え? そうだったっけ!? コイツ彼女だったっけ!?

……あー、そういえばそうだった気もする。

『そういやそうだったわ。ゴメン、忘れてた』

『マジでビビったからね』

『マジで悪かったって。よし、帰るか』

そう言って、俺は逆に真咲の手を引っ張る。彼女は少しよろめきながらも、楽しそうにしていた。

そのうち、俺達は玄関で上履きをしまい、外靴を履いて外へ出た。

が、雨。

『……降ってますねー』

『待つか? 止むまで』

『残念、私傘持ってるんですねー』

『あれ、それ俺の折り畳み傘じゃん』

『そりゃ、朝君が持ってきた奴を回収したからね』

『ネコババじゃねーかそれ!!』

『愛する人の傘をパクって何が悪いのかな?』

『悪いよ!! むしろ最悪の彼女じゃねーか!!』

俺は、真咲の(俺の)傘を引ったくる。傘を開き、雨の中へと飛び込む。

『ちょ、置いてかないでよ~』

『ネコババ女め黙っとれ』

『酷いなぁそれ。ホントだったらいかがわしい事にでも使おうと思っていたのに我慢してそのままカバンに入れていたのにその態度はどうかと思うんだけどうへへ』

『キモいからやめろヨダレ拭け』

俺は彼女の顔を押さえてこちらへ迫ってくるのを阻止する。すると、不意に彼女は神妙な顔で、

『……前にもこんなことがあった気がする』

『え?』

『それで、なんだかとっても恐い事が起こってた気がする』

『恐い事……?』

恐い事? 何なのだろうか、それは。俺達はそんな恐い出来事を経験していたのだろうか?

――――――事故。

不意に、脳内にそんな二文字がよぎる。

事故だって? そんなこと、俺は生まれてこのかた経験したことすらない。

――――――あの事故さえなければ、それからの惨劇は起こらなかった。

惨劇……?

もう、考えるのはやめにしよう。ワケの分からないワードばかり考えたって、何の得にもなりはしない。

『……知らねーよ、そんなこと』

『そうだね、気のせいかも。そーだ、今日トオル君の家行く約束だった』

『え、そうだったか?』

『絶対そうだった。私はトオル君関連のことを忘れるような人間じゃない』

『……じゃあ、そうだったのかもな』

なんだかんだ言っていると、家にたどり着いた。

玄関のドアを開けると、そこには俺の家族がいた。

『おかえりー、透』

『おう、帰ったか、透』

『あら久しぶり、透』

『親父、お袋……舞まで』

そこには、親父もお袋も、舞さえもいた。お袋は相変わらず大学生みたいな若さを滲み出していた。親父は無精髭を掻きながら、新聞を読んでいる。……と思ったら、なんかグラビアっぽいのを読んでいた。

ポニーテールの少女、榎田舞は小学生くらいの弟、榎田誠とお袋とでボートゲームをしていた。

『おじゃましまーす』

『おう真咲ちゃん、あっついねえ二人とも』

『ちょ、親父やめろって』

『お盛んなカップルだね、母さん羨ましいなー』

『え、透彼女いたの!? うわ、アタシちょっとショックー。幼なじみを差し置いて見知らぬ女とイチャコラしてるとは……薄情者』

その言葉に何かを感じたのか、真咲は俺の腕にしがみつきだした。身体がくっついている。主に胸が。

『おいやめろ真咲』

『残念ながらトオル君は私の彼氏ですのでお譲りできませーん』

『……なんかムカつくわね、コイツ』

『トオル君も遠距離恋愛などは望んでおりませーん、お引き取り願いまーす』

『勝手に俺の意見を作るな!!』

『……よし、殴ろう。別に透はどうでもいいけど、幼なじみとして一発ヤキ入れてやろうじゃないの』

『お姉ちゃーん、次お姉ちゃんの番だってばー』

『ほ、ほら弟さんが呼んでますよ舞サン。俺の意見としては殴り合いだけはやめてほしいのですが』

『……ちくしょー』

『この家の主である父親として殴り合いを許可しますのでどうぞ存分に殴りあってくださいませ』

『親父何言ってんの!?』

『殴り合いで決めてもいいんじゃねーの? 殴り愛つってな』

『そんなくだらない駄洒落を言うためだけに女の子二人を殴り合わせるのだけは許さねーぞ親父』

『やっちゃえやっちゃえー』

結果親父と口喧嘩を始める俺を、他の女性陣(小学生の弟を除いた)は楽しげに応援していた。


……あぁ、俺はこんなことを、いつからか望んでいたのかもしれない。


彼女である真咲と笑いあって。

離れていた幼なじみの舞も居て。

家に帰れば、親父とお袋も居て。


――――――でも。


彼女らには全く色がなく、ただの白色。家具も、家も、空も、世界も真っ白。

どこか、偽りを感じるこの世界。

……何言ってるんだ。こんな都合のいい世界に、文句などあるのだろうか。

しかし。

俺はどこか、偽りの笑顔しか浮かべることが出来なかった。

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