信頼の再確認
「お、あったあった」
「マジ?どれどれ」
あの後、無事に車に牽かれかけながらも図書館にたどり着いた俺達は、そのまま俺のような『偽者』や『幻影』についての本を探し漁った。いや、正確には俺とこの世界の俺だが。
この世界の、瞳が赤い立花はきっと初めて来たのだろう。ちゃんと整理整頓されてあるにも関わらず、まだ目的の本を探せずにいる。というよりは、この広大な図書館の中をさまよっているように見えるが。
あ、ちなみに俺は木柱に押し潰されかけた方の神代です。はい。見分けがつかなくなるなぁ。
まぁ、そんなこんなで今、この世界の方の俺が目的の本を見つけたらしかった。
「いやぁ、一応『UMA』とか『伝承』とかを探してたんだけどな」
「なに、俺お前に怪物か何かとして見られてたの!?」
「いや……まぁ。で、でも、結局『超常現象』っていうカテゴリで見つけたわ。ほら」
そう言ってこっちの世界の俺は古そうな本の1ページを開いて見せた。そこには特に絵もなく、ただ文章だけでこう書かれていた。
「……『同型虚影』?何か聞いた事あんなぁ……」
「なになに、見つけたの?」
その本を覗き込んでいると、いきなり横から立花が出てきた。
ホラー感全開なその視線を投げつけられ、俺は思わず叫んでしまった。
「うわぁぁぁビックリしたぁ!!いきなり出てくんなよ!!」
死ぬかと思った。貞子の五倍は恐ろしい顔がいきなり横から飛び出してくるのだ。叫んでしまうのも無理は…………
「……!?うぐ……!!」
気付けば、他の客が、俺を睨み付けていた。
やめてください、そんな変な目で俺を見ないで下さい。いや、分かりますよ?ここは図書館。皆さんの楽しい楽しい読書タイムを邪魔しちゃだめなのは、図書館常連客である私にはよく分かっております。
しかしですね、じゃあ逆に言えばあなた方はこの何回見ても慣れない恐怖を与える為だけに存在するようなこの顔を見て叫ばずにいられるのかと。俺は無理です。絶対無理です。
だって目が怖いもん!!ていうかその目の下のクマがホラー過ぎるもん!!
「あぁ……ああぁ……」
「おい、なんか意味深にガックリしてないで読んでみろよ」
「あ、あぁ……えーと……」
俺は、こっちの世界の俺が指し示す文章を目で追い、小さく音読する。
「『これは、自分と同じ姿形の人間が別の場所にいたり、それを第三者に見られたりすることである。精神的な病気という説もあるが、それでは第三者に見られる場合の説明がつかず、結局はわからないままである』ってか。『その自分自身の幻影は、基本的には喋らず、また自分と関係の深い所に現れるようである』……なんだ、全然違うじゃねえか。やっぱりこんなんじゃ――――――――」
その時、俺は思わず息を飲んだ。
何だこれは。もしかしたらさっきのは…………。
「おい、どうした?急に怖い顔して……」
俺はゆっくりと、その一文を指差す。指が震えていた。
「ん、なんだよ。えーと……?」
こっちの世界の俺も、小さな声で読んでいった。
「『また、この「同型虚影」にオリジナルの人間が出会ってしまうと、オリジナルの人間は死に至る可能性がある。リンカーン大統領や、芥川龍之介も、自身の「同型虚影」と出会い、そして亡くなっている』―――――……?」
だんだんとこっちの世界の俺の表情が曇っていく。それを聞いていた立花も、だんだんと状況を飲み込んでいるかのように顔を歪めた。
やがて、こっちの世界の俺が口を開いた。
「嘘だよ……な?お前には俺を殺すつもりなんて……ない、よな?」
「あ、当たり前だろ!?俺だって今知ったばかり……」
その時、身体が突き飛ばされる感覚が俺を襲った。倒れはしなかったが、バランスを崩して後ろによろめく。
「…………離れて。神代君に近付かないで」
それは立花が俺を突き飛ばしたからだ。あまり力が無いのか、大して大きく押されたわけではなかった。が、その眼差しには明らかな『敵意』が感じられた。
「お、おい立花……俺はそんなつもりはねぇ。こっちの俺を殺そうなんてこれっぽっちも……」
「あなたの意思なんて関係ない。もしかしたら、さっきのスポーツカーだって『これ』のせいかもしれない。『これ』の影響かもしれない。あなたが意図していない所で、もうその『影響』は出ているのかもしれない」
言い返せなかった。違う、と。そのたった一言すら、口に出せなかった。
関係ない、さっきのは偶然だ、とは言い切れないからだ。そもそも事故に巻き込まれた時から不思議な事が起こりすぎている。もう何が起きても否定できないような、そんな気さえする。今なら『この世界は全て宇宙人に侵略されています』と言われても信じてしまいそうだ。
「行こう、神代君。このままじゃあなたが殺される。その前に、この『偽者』からできるだけ距離を置いた方がいいよ」
何も言えない俺に冷たい視線を投げ掛けながら、立花はこっちの世界の俺を引っ張ろうとする。こっちの世界の俺は顔を俯かせ、表情が読めなかった。
何を考えているのだろう。裏切られた、と思っているだろうか。それとも嫌悪感だろうか。
少なくとも、プラスの感情は抱いていないだろう。なにせ、自分の命が天秤に掛かっているのだから。
(…………あぁ、やっぱり……こっちの俺も……俺、か)
間違っていたのだ。この世界の俺と意気投合したとき、仲間や友達ってのもいいかな、と思ったりもした。
しかし、それも間違いだった。やっぱり、友達なんて必要なかったのだ。いや、もっと深い意味でその行動を理解出来た。
裏切られた時の悲しさ。それがあるからこそ、友達など作る必要はない、そう思う。
―――――また、会おうね。透。
そういえば『アイツ』も、そう言って結局もう会うことは無くなった。俺はいつまで覚えているのだろうか。『アイツ』は、きっともう、俺の事なんて覚えてないというのに―――――。
そうだ。もう一人の俺。こっちの世界の俺。お前も、どうせ脳裏から俺を消し去るのだろう。
もう会いたくないと、そう言って忘れるのだろう。
それでいい。忘れろ。俺も忘れるから。お互いに知らない関係の方がよかったのだ。会わない方がよかったのだ。
さぁ、俺に背を向け――――――――――
「待てよ、立花」
不意に、思考が遮られた。それが俺に掛けられた言葉じゃなかったとしても、それでも思考の沼にはまっていた俺を引っ張り出すには十分すぎる一言だった。
「―――――どうしたの?早く―――――」
「なんで行こうとするんだ?俺はまだ行くなんて言ってねぇぞ」
それは、ある行動を意味していた。
「―――――!?まさか、神代君……!?」
「あぁ」
そいつは、俺とは別の世界にいる『俺』は、ゆっくりと顔を上げた。
「俺は、こいつを信じる」
「「―――――!?」」
俺は、立花と共に驚愕の表情を浮かべた。目を見開き、もう一人の俺を見つめる。
「な……何言ってるの!?死ぬかもしれないんだよ!?殺されるかもしれないんだよ!?自分と同じ顔をした『偽者』に……『化け物』に!!」
『化け物』。その一言は、俺の心に重くのし掛かった。
俺は一体何なんだ?幻影か?偽者か?化け物か?同型虚影か?
いや、違う。どれかじゃない。どれも、なんだ。
しかし、こっちの世界の俺の一言は、そんな心配を吹き飛ばした。
「何言ってんだ。こいつは『偽者』でも『化け物』でもねぇよ。ただの……」
いいかけて、彼は右手を上げた。といっても高く上げたわけではない。軽く、手のひらを顔ぐらいの高さまでにだ。
「……『人間』だ。んでもって……な?」
そう言われて、俺は気付いた。
こいつはつくづく俺と正反対だ。
実に表裏のない、それでいてどこかつかみどころのない奴。同じ自分とは思えない。
だからこそ、思った。
こいつのようになりたい。誰からも愛されるような、誰も嫌な気持ちにさせないような、正反対の自分自身に。
だから。
俺は同じポーズを取った。右手を軽く持ち上げ、一歩歩み寄る。
お互いに分かっていた。この先、掛け合う言葉なんて。
「あぁ」
「俺達は、『仲間』だ」
俺達はお互いに手のひらを打ち合った。
互いの信頼を、確かめあうように。
いい話もちらほら入れる作者。いい話だと自分では思うてます。
伏線もさりげなく入れる作者。そういえば『さりげなく』ってキーボードで打って変換したら『然り気無く』になりました。……当然なのですが作者は知りませんでした。漢字にするとこうなるのか……。




