6
信託を受けた私は神殿を出ると同時に大勢に囲まれた。
なんなんだ、一体。
私を囲んだ1人が声をかけてきた。
「いきなりで悪いんだが、その装備は一体どこで……?」
何を言っているんだ。この男は。
「その服は一体どこで手に入れた?」
私がよっぽど理解できないという顔をしていたのか、男は質問を少し変えてもう一度してきた。
服……?そんなのついさっき始めたばかりなのだから、初期装備の布の服である。始めから着ていた、としか言いようがない。
「手に入れたも何も、初期装備の布の服なのだが。」
「それがただの布の服だって!?」
私が普通に返事を返すと、周りに居る人全員に酷く驚かれた。
意味が分からない。
男は苦笑いして呟いた。
「そりゃあ、布の服じゃなくて――。」
*****
神殿前に行ってみると、1人の女が囲まれているようだった。
囲まれても仕方がないおかしな姿を女はしていた。
「なんなんだ、あの格好は。」
腰まである白髪を後ろで一本に束ねており、少し切れ長の目は燃えるような紅、そして袴が朱の巫女服。
どこに居ても目立つ、そんな格好を女はしていた。
しかし、現時点であんな格好は有り得ない。
何故なら全員が初期装備の布の服の筈なのだから。
集団の中から1人の男が巫女服の女の前に進み出た。
どうやら話をするようだ。
「いきなりで悪いんだが、その装備は一体どこで……?」
男の問いに、巫女服の女は何も答えない。
かわりに男に不審気な目を向けている。
「その服は一体どこで手に入れた?」
男はもう一度質問した。
「手に入れたも何も、初期装備の布の服なのだが。」
巫女服女は困ったように答えた。
「それがただの布の服だって!?」
つい、他のプレイヤー達とハモってしまった。
あれが、布の服……だと。
確かに布の服はプレイヤーの外見に合わせた物に姿形を変えるが……、それがたまたま巫女服のようになったとは考えにくい。
だが、事実目の前に居るのだから仕方ない。
「そりゃあ布の服じゃなくて、巫女服だろう。」
そう男は呟いたが、皆は興味を無くしたのか散り散りに離れて行った。
気がついたら、巫女服の女の前に立っているのは俺1人だけだった。
最近、気がついたら……っていうのが多い気がする。
巫女服の女がこちらを見つめていたので、微笑んでみる。
即座に嫌な顔をされた。
美人に嫌悪されるというものはとても傷つくようだ。
俺の心がバラバラに崩れ去る音が聞こえた。
*****
もう少し深く聞きこまれるかと思っていたのだが、意外とあっさり解放されたので私はホッとした。
私を囲んでいた人達がバラバラに去っていく中、一人だけ私の前から動かない少年が居る。
少年の顔を見ると私の身近な人物の顔をしていた。
どう見ても弟の共守である。
もしかしたら――ほぼないが――よく似た他の人かもしれないので一応彼のことは共守(仮)と呼ぶことにしよう。
どうやら、私はずっと共守(仮)のことを無意識のうちに見詰めていたようで、にっこりという擬音が当てはまりそうな笑顔を向けられてしまった。
つい、反射的に嫌悪感をあらわにしてしまったが……これは全て共守(仮)が共守の顔をしているのが悪い。
目の前の俯いている共守(仮)からどよんとした憂鬱になるオーラが漂ってくる。
これは明らかに私のせいだろう。
なんだかバツが悪くなり、私は彼に話しかけることにした。
「ちょっと、君。」
「……俺ですか?」
未だどんよりとしたオーラを漂わせながらも少年は顔を上げた。
おおう。声まで共守(仮)は共守にそっくりだ。
これはもう共守以外に有り得ないだろう。
私は目の前の少年は弟だと確信した。
「で、共守。お前そこで何をしているのだ?」
「……美和姉?」
少年は目を見開かせ信じられない、という顔をした。
しかし、すぐに泣きそうな顔に変わった。
「そうだ。お前の姉だ。なのに、何故そんな悲しい顔をするのだ……。」
私は何故共守が泣きそうなのか全く見当もつかない。
理由は分からないけれどなんとなくそうしなければならないような気がして、
「私なら大丈夫だ。」
と、そう言って私は共守に微笑んでみせた。
これからもちょくちょくクウマと美和の間で視点が変わります。