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End Days ~再会~  作者: 木村 瑠璃人
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 プルルルルルルルル プルルルルルルルルル

 プルルルルルルルル プルルルルルルルルル

 プルルルルルルルル プルルルルルルルルル

 プル


 ガチャッ


「もしもし?」

『もしもし、時瀬です。お久しぶり、といわせていただきましょう。あれから丸々一ヶ月。その間まったく連絡もありません出しかたらね』

「……………………………――」

『ああ、あなたが残ったとは聞いていましたが、随分とお変わりのようですね。無理もない。あんな目にあえば、どれだけ人生経験のないものでも劇的に変わるでしょう。

 それよりも、後遺症のほうは大丈夫ですか?

 足を粉砕骨折と聞いています。あの高さからあの位置へ落ちて、それだけで済んだのは奇跡的です。後遺症は、残っているんですか?』

「………少し」

『少し……………ですか。つかぬ事を聞きますけど、歩けます?』

「……松葉杖を使えば、なんとか」

『かなり重篤なようですね。ではこんな風に回り道をしている場合では、なさそうだ。一気に行かせてもらいましょう。

 まずは、お帰りなさいといわせてください。


 片原、ミヤコさん………………』



「みい…………久しぶり、でいいの?」

『ええ。「高浜幾夜」さんとは友人ですけど、「片原ミヤコ」さんと正式に挨拶するのは、これが戻ってきて以来初めてですからね。最後の挨拶から、実に三年ぶりです。それ以上ふさわしい挨拶もありませんよ』

「……………………………」


『おっと、危ない危ない。話がそれるところだった。

 ではあの一件について、少し話しましょう。

 まずは、一応の確認をさせてください。

 生き残ったのは、片原ミヤコさん、

 そして死亡したのが、高城リョウ君。

 これで、いいんですよね?』


「…………うん………………………」

『そうですか……』

「……………………………」

『リョウ君、がんばりましたね………あの状況を覆すなんて………』


「みい…………」

『何でしょう?』


「…………どうやってりいが私を生かしたのか、わかる?」


『……一応、考察程度なら出来ています。そしてあなたの心中も、一応ですがね』

「……それでいい、話して………」


『……少し考えれば、わかると思うんですけど……まあ、いいでしょう。僕程度でよければ、お話させていただきます。

 まず、リョウ君は気付いたんでしょう。どの段階でかは知りませんが、その人物が直接手を下していなくても、その人物が『殺してしまった』と思うことが出来る、と。そして殺人かどうかは、その人の認識による、と。

 そしてきっと、リョウ君は考えたんです。

 そのためには、どうすればいいのか、と。

 その結果、恐らくリョウ君はあなたに三年前の告白の結果を聞かせたはずです。違いますか?』


「……………………………」


『無言は肯定と認識させていただきます。

 さて、ここでリョウ君は次の問い、恋愛感情が現在まで持続しているかどうかを尋ねます。そしてその結果は肯定…ですよね? この部分には、自信がないんです』


「………………うん」


『そこで、リョウ君はあなたと共に飛び降りた。「一人では死なせない」とでも言いながら。そして崖に落下し、ミヤコさんはリョウ君がクッションになって致命的な傷を負わず、リョウ君はあの高さからもろに叩きつけられ死に至った―――そんなところでしょう』

「でも、それならどうしてわたしが生きてるの………? 確かに、リョウ君は死んだ……私は、殺してなんか………」


『いない、とは思っていないでしょう?』


「……………っ」


『恐らく、リョウ君は昔自分の抱いた気持ちを再現したんです。ほら、リョウ君はあくまであなたを邪険に扱い、その結果事故としてあなたを崖の下に落としてしまった。

 これは、本来「殺人」ではない。

 にもかかわらず殺人として認識されているのは、リョウ君がそう思っているからですよね? つまり、自分のせいだと認識さえしてくれれば、それであのルールは破れる。

 そこに、リョウ君は気づいたんでしょう。

 今のあなたの心中は、多分こうだ』


「…………………………………」


『「私が告白なんてしなければ、」』

「……っ」

『「リョウ君は、死ななかった」と。いかがです?』

「…………………………………………………………っ」


『恐らく、それがリョウ君に出来た唯一の手段なんでしょう。自分が死ぬだけで、あなたを蘇らせる。そのための、ね…………』

「………………………っ」

『よく頑張ったものです。あの何事にも消極的なリョウ君が、何かのためにここまでやるなんて、ね――――』

「…………りぃ……………………」



『――――さて、次は僕のちょっとした隠し事について話をさせていただきます』

「………………みいの、かくし、ごと?」

『ええ、いろいろと、ね。


 僕は昔、アコヤにあったことがあります』


「!」


『丁度リョウ君と縁が切れていた、中学生の頃、でしたね。その当時の僕も、今のリョウ君と同じような立場に立たされ、結果的に何一つ運命を動かすことができず、ただ翻弄されるばかりでした。

 辛かったですよ、あの時は、自分が、本気で単なる無力な臆病者だと思いましたからね……………』


「…………そう、みいも、選んだんだ………」


『選んだというより、選ばされたと、言うべきでしょう。

 しかし、そこで得たものもあります。アコヤと何度か話をいたしましてですね、そしてそのときにいくつかの話を聞き出せたんですよ。

 ミヤコさん、ピンクパールに、覚えがありませんか?』

「ピンク、パール……?」


『ええ。

 アコヤ自身から聞きだすことが出来た話の中に、ピンクパールの存在があったんです。アコヤの存在、その中枢。彼女が一人現れるたびに、そこには一つのピンクパールが残される。

 そのときのアコヤの言葉なら、はっきりと覚えていますが……聞きますか?』

「………お願い……」

『では。演技力は、期待しないでください。


「これは、私の力の塊。

 すべての到達点である、『終わり』の力のカケラ。

 それがあるから、私はここにいられる」


 ………というなことを、言っていました』


「じゃあ、アコヤはもう一度……?」

『一つのピンクパール、それでもたらせる終わりは、一度きりだそうです。もっとも、不吉なことこの上ないですが。僕もそのパールは持っているんですけど、見るたびにあの日を思い起こさせてくれます。今でも、ね…………』

「……………………」


『しかし、肌身離さず持っていたほうがいいでしょう』

「……どうして?」

『同じときに聞き出せた話の中に、そのパールを狩る存在の話が合ったんです。「本家」と呼ばれる場所以外に、一切の拠点を持たない旅する一族。その存在が、そのピンクパールを欲している、とね』

「……………………………」

『会えるかどうかも、わかりません。本当に存在してるのかも、わかりません。しかし、希望は多い方がいいでしょう。現に僕も、そのわずかな希望にすがってそのパールを持ち歩いています。

 あまりお勧めはしませんが、わずかな希望にすがる気概があるのなら、そうした方がいいでしょう』

「………………………うん」


『………さて、長くなってしまいましたね。病み上がりで、ご苦労様でした。

 僕からの話は、以上です。そちらから、何かお話はありますか?』

「………顛末は、聞かないんだ……」

『聞きたいのは山々なんですけど、電話では少し無理があるでしょう? 会って話したいんですけど、後遺症があるなら………』

「かまわない。外歩く練習も、したいし」

『…そうですか? でしたら、駅前のバスターミナル付近にある喫茶店でお会いしましょう。「アルギノーニ」という、いいのか悪いのか微妙な名前の付いた喫茶店があるんです。そこのオープンテラスで、会いましょう』

「……わかった」

『では、また後ほど』


 プッ

 ツー ツー ツー ツー

 カチャッ


 私は受話器を戻した後、車椅子を自室に向けた。

 室内、バリアフリー。車いすでの移動に支障はなく、問題なく部屋への移動を果たす。

 殺風景な、やや広めの洋室。机にもクローゼットにもほとんど使われた形跡はなく、唯一ベッドだけが使用された痕跡を残している。

 部屋の入り口に立てかけてある松葉杖を手に取り、車いすから立ち上がる。

 行動に支障はない。一ヶ月間以上にわたる入院生活において使用の練習はしてあるし、リハビリももう終わっている。

 机に移動し、財布を手に取る。

 そして外を歩く練習のように松葉杖を付いて部屋を出ようとして、

「………………………」

 

 思い直し、机の引き出しを開けた。

 中にあるものは、一つ。


 長さ一メートル程度、緋色に染められた、細見の布。


 手に取った。

 硬質な感触。しかしその布は絡みつくような感触で手からしなやかに垂れ下がり、感情の中にどこかいとおしさを与える。

 それを、私は、

「………………りい、」

 するりと、腰まである髪に巻きつけ、リボンのように縛った。

「ずっと、一緒だから」

 部屋を出る。

 あれから一月。

 あの人は、もういない。

 しかし、私はあの人とともにある。

 あの人の、命。

 それを象徴する、もの。

 玄関で、少し苦労しながら靴を履いた。

 そしてなんとなく髪を縛るリボンのようなものに触れ、

「………ふふ」


 ほほえんで、私は玄関から外へ出た。


 今は、七月。


 季節はもう、夏である。


 私にとっての終わりの季節は、もう、終わった。


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