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告白がもたらしたもの

 ブラッドハート様が足を組んで座っていた。

 私の馬車の中に……待ち構えて……くれてた!?

 見つめたまま動けなくなった私に、ブラッドハート様の手が伸びて、中に引き込まれた。

 今、私、ブラッドハート様に触れられた!?

 力強い指の感触がしっかりと腕から伝わってきてる――

 されるがまま隣に座ると、扉が閉められた。


「危害は加えない」


 レビーともそう約束したのだとわかり、なんとか首を動かしてうなずいた。

 こんな展開になるなんて――

 ブラッドハート様の隣に座っている! 体温を感じられそうなほど近くて、さっきの声が体に響いていて震えてしまうけど震えてる場合じゃない……

 ご尊顔をお姿を間近で見……見たいけど!

 不躾にジロジロ見るなんて失礼はできない。

 隣に座っているのよ、ちゃんとドレスの裾を整えて、背筋を伸ばして美しくしなきゃ。


 ――よし、これで、準備はできた。


 お顔をそっと拝見。

 ブラッドハート様も私をじっと見てる!

 あっ、何か言おうと口が開いた。


「私の国に来い」


 いきなりの命令に、頭が追いつかなかった。


「病ではないと言ったが、一応、医者に診せておきたい」

「え……」


 ブラッドハート様が軍服のボタンを外しはじめた!?

 ジャケットを脱いでどうするつもりですか――私の肩にかけてくれた!


「教会では、ずっと震えていたようだな」


 震え……

 あれは、ブラッドハート様に会えた興奮や告白前の武者震いというか。だけど、不安もあって。

 それをこうして、ブラッドハート様が気遣ってくれるなんて。


「ありがとうございますっ……」


 重みのある軍服のジャケット。

 脱いでしまったブラッドハート様は薄いシャツ姿に。

 自分は無防備になっても私のために――ブラッドハート様の体温を感じる、冷酷なはずの王子様の優しさと温もりに包まれてる――

 ドクンと心臓がまた激しく鳴り出した。

 心臓発作を起こしそうだけど、病気は否定して安心させなきゃ!


「本当に、病気ではありません。歌ったり泣いたりして声が枯れただけなんです」

「泣いたり?」


 そこに、引っかかって気にしてくれるなんて!

 心臓が鳴り止まなくて息が苦しいけど答えなきゃ。


「今日の、会談が上手くいかなかったら……」


 また泣きそうになってしまい、指で目元を押さえた。


「会談な……あれは、本心か?」


 ブラッドハート様の声が慎重で鋭い響きになった。


「それとも、会談をぶち壊すのが目的だったか? 俺を惑わせるための嘘か?」

「ち、違いますっ、嘘じゃありません!」


 あれは、あの告白は本心!

 私の全身全霊の――魂の叫びだった!

 訴える瞳を、ブラッドハート様はしっかりと見つめ返してくれて、そして考える様に窓の外を見た。


「どこかで、会った気がしたと言ったな」

「はい……」

「十代の頃に、一度だけ、この国の王都を視察したことがある。そこで、民に歌を聞かせている、そなたを見た」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、正体を隠して密かに行動していたのだが、気づかれていたとはな」


 ブラッドハート様は少しショックを受けたようで、指で額を押えたけれど、私はほっとした。

 会っていたんだ!

 思わず笑顔になると、ブラッドハート様の視線が向けられた。

 そして、大きな手が私の腕に触れた。

 それだけじゃなく、体を引き寄せられた――!


「もう、なにも隠す必要はないな」


 恐る恐る顔を見上げると、ブラッドハート様が微笑んでいた。

 ま、間近で……

 こんな優しい顔を見られるなんて……!


「俺のためにも、歌ってくれ」

「うっ、歌います! 歌うの大好きですから!」


 大好きだけど、音痴で我慢していた分、これからは思い切り歌おう。


「ラララ〜、ラララッ」


 とりあえず、突き動かされるままに歌ってみた。

 歌唄いの聖女らしい旋律を出せたけど。

 ブラッドハート様の笑みが可笑しさをこらえたようになった。


「以前の美しい歌とは違い、無邪気な子供のようで可愛らしいな」


 私の歌、子供みたいで可愛いらしい!?

 ブラッドハート様から「可愛い」が出てくるなんて。

 しかも、それを私に対して言ってくれるなんて。

 あ、ブラッドハート様の笑い顔も少し子供っぽくなってるような。こんな顔まで見られるなんて……

 感激で震えながら顔を見ているしかない私に、ブラッドハート様の顔が近づいてキスしてきた。

 優しく、しっかりと。


 キス! された!!!?


 キス、キス……一瞬だったけど、確かに、唇の感触と温度を感じた! ブラッドハート様!?


「い、いきなりっ」

「貞淑な令嬢だな。あんな大胆さがあるのに……」


 私のさらなる動揺を見て意外そうな顔をしてる。


「その大胆さのおかげで俺は、今日の再会の時からより強く、そなたに興味を抱いて、今の歌もあの日の歌も強く胸に残って、その衝動のままに口付けしてしまった。許せ」

「はい……」


 許します。口付けの理由が私なら。


「私に興味を、私の歌にも……」


 ついキスするほどに。

 さっきの私とずっと前のフロンティア、両方に興味を抱いているのね……


「民のために歌う優しさ……と言いたいところだが、貴族の女が町中で歌う恐れ知らずな行動力に惹かれた」


 優しさより恐れ知らずな行動力のほうに惹かれるのね。ふむふむ。


「それに、さっきの態度。俺を追い詰める勢いで迫り、真っ直ぐに見据えてきた瞳、胸にきた」

「本当、ですか!?」


 私の恋する桃色の瞳がブラッドハート様の胸をちゃんと射止めていた!

 嬉しい……私も胸にきて嬉しいけど。

 追い詰める勢いなんてそんな、敵認定されなくてよかった……! 怖がらせなかったかしら?

 今さら、申し訳なさに身を縮めてしまった。

 ブラッドハート様は可笑しそうに見ている。


「俺が冷酷で通っているのは知っている。血の通った熱意や感情のある女に惹かれるなど、信じられないか?」

「そんなことはありません! 信じます!」


 即答すると、ブラッドハート様は微笑んでくれた。


「正直に言うが……」


 正直に? 私に心を開いてくれたの?

 何でも言ってください――


「会談を壊すつもりで来たのは俺だ」


 やっぱり、そうだったの。

 最初から戦いを仕掛けるつもりでいたのですね。

 ブラッドハート様の表情と声に冷酷な陰が覗いている。

 本来のフロンティアでは近寄れなかったかもと思わせる、恐ろしさがある姿。今の私でも、こうして一緒にいられるのは奇跡みたい……

 あ、また優しい表情になった!


「壊さずに済んでよかった。この国の平和を奪いたいと思うほど、俺は冷酷ではない」


 そ、そうなんだ。

 ブラッドハート様は私が思うほど冷酷じゃない?


「でも、この後、シルビアと……」


 結婚して結託してまで攻め込んでくるはずでは?と、思わず先の展開を言いそうになってぐっと言葉を呑んだ。


「シルビア? そういえば、危うい話を持ちかけてきていたな」

「えっ、もう?」

「少し前からな。お前が現れていなければ、この後会いに行くつもりだった。きっと、唆されていたな……俺は恐れ知らずな行動力のある女が好みだからな」


 シルビアにも惹かれてたの!?

 フロンティアと私と合計三人に……意外に恋多き方!?

 いや、恋というか、異性に対して全く興味なくはない、そんなタイプの敵キャラなのね。確かに、ブラッドハート様には色気があるもの! 恋愛しそう! みたいな思わせぶり担当の男キャラが出す色気! あぁ、そんな方が私だけでなく他の女性に目を向けるなんてダメです不安になりますわ〜!


 私の動揺に気づいて、ブラッドハート様はからかうように笑いかけてきた。

 指がクイッと私の顎を軽く押し上げて顔が向かいあった。

 顎クイも自然と当然のごとくやってのける、思考や呼吸や体の自由全てを奪うブラッドハート様の美しい顔、強い銀の瞳、黒い瞳孔に映った私。

 被さるようにブラッドハート様は私の額にキスをして、離さないという意志を感じさせる両腕で体を包んでくれた。

 私だけ。そう思わせてくれるように――



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