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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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真夜中の真実3

ティアナ side


今日は、ユウリと2人で街の奥にある個室付きのカフェに来ている。


厚手のカーテンで仕切られたこの部屋は外の喧騒から切り離され、声を潜めれば会話の内容までは漏れない。


ここは、お忍びで時折使う場所だ。

そして――ラピスラズリ伯爵家の人間で、私がここに出入りしていることを知っているのは、目の前に座るユウリただ1人。


内緒話には、これ以上ない場所だった。


「アイリス様についてお話しします」


ユウリの声は落ち着いている。

けれど、いつもより僅かに硬い。


それだけで、これから聞く話が軽いものではないと分かってしまう。


「うん、お願い」


「まず初めに……」


一呼吸置いてから、彼は告げた。


「アイリス様は、お嬢様の実のお母様です」


「……え?」


「マリアンヌ様とは血の繋がりはありません」


静かな声が、容赦なく続く。


「アドルフ様とアイリス様の子供――それが、お嬢様。貴女です」


私は、ティーカップへと手を伸ばしかけていた手が止まる。



「こちらをご覧ください」


ユウリが差し出したのは、薄い紙束だった。


「昨晩、アドルフ様の執務室で確認したものを複写してきました。

読まれた後は、必ず燃やしてください」


受け取った瞬間、紙の軽さとは裏腹に、指先にずしりとした重みを感じる。


「……わかったわ」


私は頷き、書類に視線を落とした。


――死亡診断書。


記載された名前を見た瞬間、胸の奥がひくりと痛んだ。


名前:アイリス

年齢:28歳

関係:アドルフ・ラピスラズリの内縁の妻


……若い。


数字として突きつけられると、想像していた以上に現実味があった。


そして、死因欄。


「死因:急性魔力衰弱」


私は、そこで一度ページを止める。


「これって…病死として処理されたってこと?」


「はい。対外的にはそう処理されています」


ユウリは一拍置いて、静かに続けた。


「ですが、魔力衰弱は“結果”であって、“原因”ではありません」


私は再び視線を落とす。


発症時刻。

死亡推定時刻。

立ち会い者――記載なし。


代わりに、備考欄には小さな文字が並んでいた。


『高純度魔宝石との接触歴あり』

『実験中の事故の可能性を否定せず』


「事故……の“可能性”?」


呟くと、ユウリは小さく首を振る。


「決定的なのは、こちらです」


指し示された別の紙。


「魔力循環路に外傷なし」

「防御結界、完全」

「外部干渉の痕跡なし」


「……矛盾してる」


言葉が、自然と零れた。


防御も制御も完璧。

外部からの攻撃も、装置の異常もない。


それなのに――対象者だけが死亡している。


「はい。通常、あり得ません」


ユウリの視線が、真っ直ぐ私を捉える。


「まるで――

魔宝石側が、アイリス様を“選んだ”かのような結果です」


胸の奥が、きゅっと縮んだ。


“選んだ”。


その言葉が、嫌なほどしっくりきてしまう。


「……ねえ、ユウリ」


私は、書類から顔を上げた。


「アイリス…いやお母様は、自分が死ぬかもしれないって……分かってたと思う?」


少しの沈黙。


「……おそらくは」


ユウリは、目を逸らさなかった。


「ですが、それ以上に――

“条件が揃っていた”のだと思われます」


条件。


その言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。


「血縁者の高い適合率。

共鳴反応の強度。

そして――」


ユウリは、ほんのわずか声を落とす。


「お嬢様の存在です」


カップの中で、ミルクティーが小さく揺れた。


「……私?」


「はい」


即答だった。


「アイリス様の研究は、完全には終わっていません。

中断されただけです。

そして今――」


ユウリは、私の手元の書類を見つめる。


「再開できる“条件”が、整いつつあります」


私は、ゆっくりと息を吐いた。


心臓の音が、やけにうるさい。


「これ……燃やした方がいいよね」


「はい。今すぐに」


私は頷き、書類を折り畳む。


けれど、紙を燃やしたとしても、

そこに書かれていた事実までは消せない。


アイリス…いやお母様は、病死ではない。事故ともいえない。

――そして、私はその“続き”にいる。


カフェの個室は、変わらず静かだった。


けれどその静けさが、

嵐の前のものだということだけは、はっきりと分かっていた。

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