ユウリとお嬢様3
「た、大変失礼致しました。私、5日間執事としてティアナお嬢様に仕えさせていただくユウリと申します。よろしくお願い致します」
急いで頭を下げる。
不敬を働いたのでは――と一瞬心臓が跳ねるが、ティアナお嬢様はニコリと微笑み返してくれた。
「あー、お父様が言っていた執事の方でしたか。こちらこそ、こんな格好で失礼しました。よろしくお願いしますね」
その笑顔に、思わず胸が少し温かくなる。
よ、よかった……。マルク様よりも、ずっとまともそうだ。
「とりあえず、そろそろ着替えに戻らないと。それから少し話をしましょう」
あとをついていくと、ティアナお嬢様の自室にたどり着く。
部屋には、白髪混じりの使用人がシーツを整えていた。
「お嬢様、お馬さんたちとは仲良くなれましたか?」
「うーん、まだかな。なかなか難しいよね」
その様子を見ていると、ティアナお嬢様の格好も行き先も、使用人たちがちゃんと把握していることが分かる。
無邪気で、好奇心旺盛で……。
ユウリの胸には、主人を護る執事としての緊張感と、同時に少しだけこの子に仕えることが楽しみかもしれないという感情が芽生え始めた。
「あら、そちらの方はどなたですか?」
白髪混じりの優しそうな老婦の使用人がこちらを見つめる。
「ユウリと申します。執事として、5日間ティアナお嬢様に仕えさせていただきます」
「おや、まあ、可愛い執事さんねぇ」
ティアナお嬢様がすぐに紹介してくれる。
「こちらはナタリーよ。私の身の回りのお世話をしてくれているの」
「よろしくお願いします」
頭を深く下げると、ナタリーの柔らかな笑みが返ってきた。
「それではお嬢様のお着替えをしますので、少々外でお待ちくださいね」
「そ、そうですよね……失礼致しました」
慌てて外に出る。
頭の中が真っ白になり、少し恥ずかしくなる。
まだ何も起こっていないのに、この空気だけで心臓が早鐘のように打つのを感じた。
しばらくして、扉の向こうから声が聞こえる。
「ユウリさん、お待たせ。中にどうぞ」
部屋から首を覗かせるティアナお嬢様に、思わず固まる。
さっきの泥だらけでボサボサだった格好とは打って変わり、整ったヘアスタイルに、清楚で華やかなドレス。
その瞬間、息を飲む。
目の前に立つ彼女は、ただ可愛いだけではなく、凛とした気品と無邪気さがある――そんな印象をユウリは受けた。
「ユウリで大丈夫です。私はお嬢様の執事として、5日間お世話になりますので」
年齢的には自分の方が上であるが、主人であるティアナお嬢様に「さん付け」されるのは、少し不思議な感覚だった。
「わかったわ。じゃあ、ユウリ。短い間だけどよろしくね」
スミレ色と桃色のまるで夜明けのように美しい髪色。
ふんわりとした髪を二つに結い、水色のドレスに身を包んだティアナお嬢様。
色白の肌にうっすらとピンクが差した頬、そして星空のように澄んだ蒼い瞳――見惚れてしまい、思わず息を飲む。
吸い込まれそうなほど美しく、可愛らしいだけではなく、どこか凛とした強さも感じられる。
「はい、改めてよろしくお願い致します」
頭を下げながらも、胸の奥が少し高鳴るのを感じた。
その後の時間は、あっという間に過ぎていった。
マルク様とは打って変わり、ティアナお嬢様は分刻みのスケジュールで動き、とにかく勉強熱心だった。
家庭教師の方も変わり、授業は高度な内容。
ティアナお嬢様は質問をためらわず、食い入るように授業に集中している。
私も教える側として参加するが、正直ついていくのが精一杯だった。
「ユウリ、すごいね!あの問題わかるなんて」
「いえ、ティアナお嬢様の方がすごいですよ」
先ほどの授業の内容について、2人で話し合いながら廊下を歩く。
「先生も褒めてたよ!あの人、めったに褒めてくれないからすごいよ」
「いえ、そんなことは……」
そっかー、あれはあの応用を使ってね……と小声で整理しながら話を続ける。
勉強だけでなく、淑女としての礼儀作法、食事やお茶会のマナー、庭園の手入れに馬のお世話など、どれも一生懸命取り組む。
その集中力と努力に、自然と尊敬の念が湧く。
ダンスの授業では、何度か私の足を踏んでしまうこともあったが、年齢を考えれば十分すぎるほどの実力だ。
「いや、ほんとごめんなさい!足踏んで」
勢いよく謝られる。
ダンスの優雅な所作と、このお茶目な一面とのギャップに、思わず笑みが漏れる。
「大丈夫ですよ」
心の中で、少し安心する。




