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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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蒼の約束2

何度も通ううちにやっと1人目が口を開いてくれた。

そこから流れは少しずつ変わった。


2人目。

指を失った鍛冶工だった。


3人目。

腰を壊し、働けなくなった運搬人。


誰もが同じことを言った。

整備されない機械、無理な作業、事故の隠蔽、そして解雇。


「……俺だけじゃなかったんだな」


そう呟く声が、何度も重なった。


ティアナは一人ひとりの話を丁寧に聞き、

名前と署名を、確実に集めていった。


俺はその横で、紙を握りしめるたびに思った。


(これだけあれば……)


これだけあれば、父の人生を壊したあの男を、

逃がさずに済むはずだと。


そして――

俺は、バルト男爵がいる工場に向かった。


重い扉の向こう。

男爵は椅子にふんぞり返っていた。


「ほう? 子供が何の用だ」


俺は、一歩前に出て、証言書を差し出した。


「これを、見てください」


男爵は紙に目を通し、

……そして、笑った。


「だから?」


その声に、嫌な予感が走る。


「こんなもの、集めたところで無駄だ」


男爵は証言書をひったくると、

ためらいもなくマッチで火をつけた。


炎が、紙を燃やす。


名前が、

怒りが、

人生が――


一瞬で、灰になった。


「やめろ!!」


気づけば、俺は叫んでいた。


拳を握りしめ、男爵を睨みつける。

視界が滲むほど、悔しかった。


「弱者の戯言など、燃やせば終わりだ」


男爵は鼻で笑う。


「法も、証拠も、力のある者の味方でね」


他の工場で働く人達も何か言いたげにこちらをみるが悔しそうに目線をさげる。

ここまでしてもダメなのか…


その時だった。


「――本当に、そうかしら?」


ティアナ?

随分と綺麗な格好をしているまるでどこかの貴族のようだ。


「なんだ子供がもう一人増えたところだろ変わらない」


余裕そうに笑うバルト男爵。

そうだティアナが来たからといって、どうにもならない。

グッと奥歯を噛み締める。



「労働事故の未報告、

整備義務違反、

怪我人の不当解雇、

口止めと脅迫。


随分と悪事を働きましたね。

挙句 ラピスラズリ伯爵家から援助金を受け取っているにもかかわらず必要なものには使わず、酒とギャンブルとは…

とんだクズですね」


ティアナの言葉にみるみると怒りで赤くなるバルト男爵。


「なんだ!おまえは!!」



「申し遅れました。ティアナ ラピスラズリ。

伯爵家の娘よ」


その名を名乗った瞬間、空気が変わった。


工場の正門前。

昼間の稼働時間――労働者たちが行き交う、逃げ場のない場所。


ティアナは小さな身体で、堂々と前に立っていた。

その背後には、執事と、数名の騎士たち。


逃げも、誤魔化しも、許されない布陣だった。


「本日ここに来たのは、

この工場で長年行われてきた不正と隠蔽について、

公に確認するためです」


ティアナの声は、はっきりと響いた。


ざわつく人々。

男爵は顔を引きつらせながらも、強気を装う。


「証拠はない!

今の署名だって燃えて消えてしまったんだから」


だが、その声を遮るように――


「俺たちも、証言するぞ!!」


誰かが、叫んだ。


1人ではなかった。


「俺もだ!」

「俺も怪我をして捨てられた!」

「事故は全部、隠された!」


次々と、声が上がる。


震えながら。

それでも、はっきりと。


俺は、その光景を見て、胸がいっぱいになった。


(……無駄じゃ、なかった)


燃やされた紙は、確かに消えた。

でも――

言葉は、消えなかった。


人の記憶も、怒りも、悔しさも。


ティアナは、その声一つ一つに、静かにうなずいた。


「聞きましたね」


騎士たちが一斉に動く。


男爵は、もう何も言えなかった。


俺は、拳を握りしめたまま、前を見ていた。


父の怪我。

家族の不安。

あの日の屈辱。


全部が、この瞬間につながっていた。


ティアナは、ちらりと俺を見た。

小さく、でも確かに微笑んだ。


(これが……“今”だったんだな)


12歳の俺でも、

8歳のお嬢様でも。


声を集めれば、

世界は――動く。


そして俺は、その場で初めて思った。


いつか、

誰かの声を守る側に立ちたい、と。


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