想いの果てに2
「ほらほら、レオちゃん交代よ。
ティアナちゃんをそんなに振り回すんじゃないの!」
「うわっ、ルイ!」
しれっとレオを押しのけ、
彼は優雅に一礼してから手を差し出した。
「では、ティアナちゃん。
私とも踊ってくれる?」
ウインク付きのその仕草に、思わず微笑み返す。
「もちろん」
そう答えて、差し出された手を取った。
驚くほど滑らかで、洗練された動き。
レオとはまるで違い、身体が自然と音楽に乗る。
「今日のドレスも素敵ね」
「ありがとう」
「本当はね、余裕があったら新しく仕立て直したかったんだけど」
「ルイ、今ものすごく忙しいものね」
「そうなのよ。もう目が回るくらい」
くすりと笑ってから、少し声の調子を落とす。
「……それより、最近どうなの?」
「どう、って?」
視線が自然とディランの方へ向かう。
相変わらず、周囲を人だかりが囲んでいた。
「あの王子様よ。
こんな可愛い婚約者を放っておいて、
あんなに女の子たち侍らせちゃって」
「はべらせて、って……」
苦笑しながら、正直に続ける。
「殿下とは……特には。
あ、でも婚約破棄しましょうって言ったの」
「はあ!? なんでよ!」
「だって婚約自体、ガイルの件があって……
きっと有耶無耶になると思うし。契約上のものだしね」
「それで、殿下はなんて?」
「……ため息ついてた」
「なら承諾してないじゃない」
呆れたように肩をすくめる。
「もう。あの殿下が、今さらあなたを逃すと思う?」
「うーん……」
「逃すわけないでしょ」
少しだけ意味ありげに微笑む。
「それに――
ティアナちゃんだって、まんざらでもないんじゃない?」
「……そうかも」
「もう」
くすりと笑ってから、ルイは優しく続けた。
「でもね。ディランの隣に立つってこと、
王妃になるってことでしょ?」
「……それは、荷が重すぎるよ」
「ふふ。正直ね」
ルイはくるりと私を回しながら、そっと囁く。
「その気持ち、ちゃんとそのまま伝えればいいのよ。
あなたの“本当の気持ち”を」
「え……」
「ちゃんと、聞いてくれるわよ」
「……ぜ、善処します」
音楽が、ゆっくりと終わりを告げる。
最後の一歩を踏み、
ルイは自然な動きで私の手を離した。
「楽しい時間をありがとう、ティアナちゃん」
そう言って、優雅に一礼する。
私もドレスの裾をつまみ、同じように頭を下げた。
少しだけ、休憩を取ることにした。
「お疲れ様です」
「ユウリ……ありがとう」
差し出されたグラスを受け取る。
「楽しそうでしたね」
「うん。今日はお咎めなし?」
「ええ。今日はそれほど堅苦しい場ではありませんし、
皆さん、思い思いに過ごされていますから」
「そうだね」
一息ついた、そのとき。
「では、お嬢様。
私とも踊っていただけますか?」
「珍しいね。ユウリが誘うなんて」
「皆さんに便乗しようかと」
「もちろん!」
そう言って、彼の手を取る。
さすがユウリだ。
私が次にどう動きたいかを察し、自然に導いてくれる。
「懐かしいね。
ユウリとも、よくダンスの練習をしたよね」
「はい」
「もう足は踏まないから、大丈夫だよ」
「それは頼もしいですね」
くすりと笑い合いながら、静かにステップを刻む。
「ねぇ、ユウリ」
「はい」
「ありがとうね。
ユウリがいてくれたから、自分の存在を受け入れられた。
……最後まで、戦えたの」
「いえ。私は大したことはしておりません」
「謙虚だなぁ」
「いえいえ」
少し間を置いて、私はもう一度口を開いた。
「ねぇ、ユウリ。
この先も、私のそばにいてくれる?」
迷いのない声が返る。
「あたり前ですよ。
私は、貴女の執事ですから。
ずっと、お傍におります」
「……ありがとう」
音楽は続き、光はやわらかく揺れている。
その中で私は、
変わらず隣にある温もりを、そっと確かめていた。




