想いの果てに1
さらに2週間後
「まさか、こんなパーティーに呼ばれるとはね」
珍しくスーツ姿に前髪をあげたテオが、肩をすくめて笑った。
赤と黒を基調にしたその装いは、
普段の軽装とは違い、驚くほど大人びて見える。
王国からの労いを込めた式典――
事情を知る身内のみの集まりで
私たちはその招待客だった。
「スーツ、似合ってるよ」
「ほんと? かっこいい?」
「うん。かっこいい」
その言葉に、テオは少し照れたように笑う。
「じゃあさ」
そう言って、彼は一歩前に出た。
「俺と、踊ってくれますか?」
すっと差し出される手。
「……喜んで」
私はその手を取った。
音楽が流れ出し、
自然と足が動く。
――思った以上に、テオは上手だった。
「……上手ね、テオ」
「ありがとう」
少し誇らしげに笑ってから、続ける。
「実は、特訓したんだ」
「特訓?」
「うん。オリバー団長と、エリック副団長が教えてくれてさ」
意外な人たちの名前に
思わず目を丸くする。
「それはすごいね」
「だろ?
意外と嫌な人たちじゃなかった」
「そっか」
彼が少しずつ、世界を広げていることが嬉しかった。
テオは私を気遣うように歩幅を合わせながら、
それでいて迷いのない足取りでステップを踏む。
「ねぇ、お嬢さま」
「なに?」
「この先、お嬢さまが誰を想ったとしても……
俺の気持ちは、変わらないよ」
「……テオ」
その声が、かすかに震えた。
「隣に立てなくなっても、
同じ道を歩けなくなってもさ」
一歩、距離が縮まる。
ダンスの形のままなのに、
指先が絡まりそうなほど近い。
「大好きだよ」
「この先もずっとね」
視線が合った瞬間、逃げ場がなくなった。
ルビーのような紅い瞳が、まっすぐ私だけを映している。
(……近い)
息が触れそうで、思わず喉が鳴る。
腰に回された手に、ぎゅっと力がこもった。
離す気がないのではなく、
離れたくないのだと伝わる強さだった。
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
心臓の音が、彼に聞こえてしまいそうで――
「……う、うん」
それ以上、言葉にならなかった。
曲が終わりに近づいても、
テオはすぐに手を離さなかった。
名残惜しそうに、指先が触れる。
ほんの一瞬。
それだけなのに、
触れた場所が熱を持ったまま消えなかった。
「もうテオ!
いつまでお嬢さんの手を握ってるんだよ!」
場違いなほど大きな声が、広間に響いた。
「……うるさい」
即座に返る、テオの低い声。
「お嬢さん! 次、俺ね!」
そう言って、
コーラルオレンジの髪を揺らしながら、レオが勢いよく手を挙げる。
あまりの元気さに、思わず笑みがこぼれた。
「いいよ」
「よしっ!」
満面の笑みで近づいてきた彼が、
「じゃあ――お手をどうぞ!」
と、大きな手を差し出す。
そのまま取った瞬間、
「うわっ――!」
勢いよく引き寄せられた。
「ちょ、レオ……力加減!」
「はは、ごめんごめん!」
そう言いながらも、手はしっかりと離さない。
動きは豪快なのに、
足運びは意外なほどきちんとしていて――
「……ちゃんと踊れるんだ」
「一応な!
料理人たるもの、社交の一つや二つできなきゃだろ?」
くるりと回され、
視界が一瞬きらめく。
ドレスの裾が舞い、
戻った先で、彼は楽しそうに笑っていた。
「……っていうのは冗談で!」
屈託なく笑いながら続ける。
「ほんとは、貴族の集まりに呼ばれたことがあってさ。
ユウリに教えてもらったんだよ!」
「そうなのね」
「ユウリがさ!
“優雅に!”って言いながら、なかなかスパルタでさ〜」
「さすがユウリね」
「貴族の集まりで踊ったけど、肩っ苦しくてどうもね。
やっぱり――お嬢さんと踊るのが一番楽しいな!」
その笑顔は、太陽みたいにまぶしくい。
ふと真剣な顔をするレオ。
「ねぇ、お嬢さん」
「なに?」
「これからも…よろしくな」
「何それ、急に」
思わず笑ってしまうと、レオも照れ隠しのように口元をゆるめた。
「俺さ、お嬢さんがずっと笑っていられるように…
これからも、たくさん美味しいもの作るから。
だから――お嬢さんの料理人でいさせてよ」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
彼の黄緑色の瞳が優しく揺れていた。
「もちろん。私はもう、レオに胃袋掴まれてるんだから」
「へへ…!」
レオは嬉しそうに笑い、そっと私の腰を引き寄せる。
音楽がふたりの距離をさらに近づけ、
世界が少しだけ甘く滲んだ。
彼の手は温かく、ステップに合わせて軽やかに私を導いていく。
ふいにレオが笑いながら口を開いた。
「お嬢さん、食べたいものある?
リクエスト、いつでも言ってね」
「そうだなぁ……なんだろう。甘いもの?」
私が考え込むと、レオは目を輝かせて身を寄せてくる。
「とりあえず……お嬢さんはもっと太った方がいいな!
甘いものだと、プリンにケーキ、アイスクリーム??」
「ちょっ、私がまんまるになるよ」
抗議すると、レオはまるで本気で不思議そうに首をかしげた。
「えー、そうかなぁ。
まんまるでも、お嬢さんは可愛いよ」
その言葉に胸がくすぐったくなり、思わず視線をそらす。
レオはそんな私の反応を楽しむように、終始笑顔でステップを踏み続けていた。




