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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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終息4

そして私はナタリーさんのお墓にやってきた。


「ちゃんとできましたよ。

助けてくださってありがとうございました。

どうか安らかに」


そう祈りを捧げた。



そして

父から教えられた。


母――アイリスの眠る場所にもやってきた。


その隣には、

トワの墓が並んでいた。


すべてが終わった今、

私は報告に来たのだ。


長い戦いのことも。

失ったものも。

守りきれたものも。


丘を渡る風が、やさしく頬を撫でる。


まるで、ここに眠る誰かが

そっと迎えてくれているようだった。


「……お母様」


小さく息を吸い、言葉を紡ぐ。


「あなたが守ろうとしたもの――

 私も、守れたでしょうか」


答えは返らない。


けれど風が、花を揺らした。


私はアイリスの花を一輪、

母の墓前へそっと手向ける。


祈りを終え、

最後に、小さな墓の前へ膝をついた。


「……トワ」


胸が、わずかに痛む。


「あなたのしたことを、

 許せるかと言われたら…許せそうにもないや」


それでも。


「でも、あなたと過ごした2年間は、

 間違いなく本物だったよ」


指先で、墓石の縁をなぞる。


「無力な姉で……ごめんね」


風が強く吹き抜けた。


墓標の間を通り、

花弁を空へと舞い上げる。


それは、涙を攫うように。


「お嬢様…そろそろ」


ユウリの声が一歩後ろで聞こえる。


「ええ、もう大丈夫」


あるいは――

“もう行きなさい”と背を押すように。



私は立ち上がり、静かに頭を下げた。


「……行ってきます」


もう振り返らなかった。


背後で、

アイリスの花が、やさしく揺れていた。




私は、久しぶりにディランの執務室を訪れた。


「失礼します」


「どうぞ」


扉を開けると、机に向かう彼が顔を上げる。


「やあ。調子はどうだい?」


「だいぶ良いです」


一歩進み、微笑んで続けた。


「ディラン……いえ、殿下はお疲れのようですね」


その呼び方に引っかかったのか、

彼の表情が一瞬だけ曇る。


「まあね。色々、片付けることが多くて」


肩をすくめ、苦笑した。


「本当は君のところへ顔を出したかったんだけど」


「だめです」


即座に、レイさんが口を挟む。


「仕事が山ほど残っておりますので」


「……そういうことだ」


ディランは観念したように笑った。


私は一度、息を整える。


「殿下……目的は、達成されましたよね」


「ああ。ガイルの件は片付けた」


「真実は伏せる形になるが、

 君の力のことを考えれば――それが最善だ」


「……ご配慮、ありがとうございます」


深く頭を下げる。


「なんだか、他人行儀だな」


不満そうな声。


「殿下……」


呼びかけてから、覚悟を決めた。


「私と――婚約破棄をしましょう」


「……ん?」


にこやかなまま、

ディランの表情がぴしりと固まる。


「殿下……」


「待て、レイ。何も言うな」


深いため息。


「……はああ」


彼は椅子にもたれ、じっとこちらを見つめた。


「そんなに、俺が嫌いかい?」


エメラルドの瞳が、かすかに揺れる。


私は、ふっと息を吸った。



「私……ディランのこと、好きですよ」


そう言って微笑み、背を向ける。


「ちょっ、今のはどういう意味だ!?」


珍しく慌てた声が背後から飛ぶ。


「行きましょう、ユウリ」


「はい」


ユウリが微笑み、静かに後に続く。


追いかけようとしたディランだったが――


「殿下!!」


執務室の扉が一斉に開いた。


「どこへ行くおつもりですか!?」


「まだ本日の決裁が残っております!」


オーウェン団長を筆頭に、

補佐官や騎士たちが雪崩れ込んでくる。


「……君たち、待て」


虚しい抵抗。


私は振り返らず、廊下へ出た。


(王子って、大変だな)


背後で上がる悲鳴混じりの声を聞きながら、

久しぶりに、少しだけ――笑った。

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