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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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終息1

私は、丸5日間眠っていたらしい。


ゆっくりと目を開けると、

きらきらとした金髪と、間近で視線が合った。


「おかえり」


ディランが、柔らかく微笑む。


身体を起こそうとして、思わず力を込めた。

けれど指先も、腕も、言うことを聞かなかった。


「無理しなくていい」


そう言って、彼はそっと手を取り、

身体を支えるように抱き起こしてくれる。


「……すべて、終わったんですね」


「ああ」


短い答え。


「そっか……」


胸の奥がほどけた瞬間、

安堵と一緒に、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。


「ティアナ……?」


ディランの瞳が、心配そうに揺れる。


ナタリーさんとの別れ。

トワとの別れ。


思い返せば、あまりにも多くのことがあった。


できることなら――

トワと、この先も一緒に歩いていきたかった。


「ディラン……」


「なんだい?」


「あの約束……まだ、有効ですか?」


一瞬、きょとんとした顔をしたあと、

彼はすぐに察したように、ふっと笑った。


「ああ。もちろんだ」


そう言って、腕を広げる。


「おいで」


その胸に、そっと身を預けた。


抑えていた涙が、一気に溢れる。


これでよかったのか。

正しかったのか。


今も、まだわからない。


それでも――


温かな鼓動に耳をあずけながら、

私は確かに、生きてここへ戻ってきたのだと思った。



そのあと、ディランはレイさんに引きずられるようにして部屋を出て行った。


名残惜しそうに何度もこちらを振り返っていたが、

王子として、やるべき後処理は山ほどあるのだろう。


今はきっと、休む間もない。


ガイルの研究施設は完全に閉鎖された。


地下区画は封鎖され、装置や資料の多くは王都管理下で処分。

そこに囚われていた被験者たちは、現在も治療を受けている。


心と身体、どちらも簡単には癒えない。

それでも――生きて、未来へ戻るための時間は、確かに与えられた。


ガイルという男について、王国は多くを語らなかった。


公表されたのは、


違法魔導研究の発覚。

王命による施設封鎖。

そして――責任者の身柄拘束。


それ以上の詳細は、すべて伏せられた。


混乱を避けるため。

再発を防ぐため。


公式には、そう説明されている。


けれど。


その判断が、ディランの独断だったことを、

私はあとから知った。


王族の権限で、記録を封じ、裁きを終わらせたのだという。


裁判も、公開処刑もなかった。


ただ静かに、

この事件そのものを“終わらせる”ために。


彼が何を背負ったのか、私は聞かなかった。


聞いてしまえば、

その重さを半分も背負えないと分かっていたから。


窓の外では、穏やかな風が庭木を揺らしていた。


あの日、すべてを飲み込んだ嵐が、

まるで嘘だったかのように。


それでも私は知っている。


守られた静けさの裏には、

誰かの決断と、覚悟があるということを。


そしてその中心に――

あの金色の背中があったことを。


私はそっと胸に手を当て、目を閉じた。


(……ありがとう、ディラン)


まだ傷は癒えない。


けれど、世界は確かに前へ進んでいた。



3週間ほど静養し、

ようやく日常が戻りつつあった。


騎士団の訓練場では、いつもの掛け声と剣戟の音が響いている。


セナ、テオ、アレン、ロベルト――

皆、何事もなかったかのように任務をこなしていた。


……ただし。


私の姿を見つけた瞬間を除いては。


「――お嬢様!?」


真っ先に声を上げたのはテオだった。


「大丈夫? まだ休んでた方がいいよ…!」


距離を詰めかける彼の前に、すっと腕が伸びる。


「近づきすぎだ、テオ」


セナが肩を掴み、静かに制した。


「……お嬢様を困らせるな」


「え、だって心配じゃん!

 俺もお嬢様のそばに――」


「却下だ」


即答だった。


「ケチ!」


そのやり取りを横で眺めながら、


「はは……相変わらずですね」


アレンが苦笑交じりに笑う。


「まあ、元気そうで何よりだ。顔色も悪くないな」


ロベルトも笑う。


「うん、もう平気!」


そう答えると、テオはほっとしたように肩を落とした。


「……ほんとに、よかった」


セナも小さく息を吐き、視線を逸らす。


「無理だけは、なさらないでください」


その言葉は短いが、確かな気遣いが滲んでいた。


訓練場に、少しだけ柔らかな空気が流れる。


失ったものは確かにある。


けれど――

守り抜いたものも、確かにここにあった。



その後も日常は続く。


お医者様にも見てもらい異常はないのだが

ユウリとアリスは相変わらず私の体調管理に余念がなく、



「少しでも異変があればすぐに」


「無理は厳禁ですから」


と、2人そろって念を押してくる。


レオは厨房で腕を振るい、


「回復期は食事が命ですからね!」


と笑いながら、滋味深い料理を並べてくれた。


ルイもブティック・グロウへ戻り、


「開けてた分、仕事が大変なのよ〜!」


と言いつつ、その顔はどこか楽しげだった。


私は宝石鑑定の仕事や家の仕事も少しずつ再開し、

静かに、確実に、日常へと戻っていった。



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