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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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最終共鳴2

だが――

それで、すべてが終わったわけではなかった。


砕け散ったはずの魔核の欠片が、

静寂の中で、ひとつだけ淡く脈打つ。


まるで、消えきれぬ想いが

最後の呼吸を求めるかのように。


共鳴の光が、ふと揺らいだ。


攻撃のために研ぎ澄まされていた旋律が、

わずかに――悲しみを帯びる。


その瞬間。


胸に、

異物のような感覚が流れ込んだ。


――映像。



剣を振るう少年がいた。


誰よりも早く訓練場に立ち、

誰よりも遅くまで剣を振り続ける背中。


掌の血を隠し、

ただ「王になる」と呟いていた。


努力すれば、報われると信じて。



だが、彼の瞳は王の色ではなかった。


王家に連なる者に現れる

アレキサンドライトの色ではなく、

灰を帯びた深い色。


魔力資質もまた、

人を導く光ではなく、

敵を屈服させる“制圧”に偏っていた。


「王の器ではない」


その宣告は、

才能でも行いでもなく、

生まれそのものを否定する言葉だった。



それでも彼は剣を振った。


剣しか、残されていなかったから。


戦果を重ね、

軍を率い、

誰よりも国を守った。


だが王位継承の場で告げられたのは――


「ガイル 継承権より除外する」


理由はただひとつ。


瞳の色と、資質。


それだけだった。




数年後。


大広間に、祝福の鐘が鳴る。


次期王位継承者として呼ばれた名。


「ディラン・アレキサンドライト」


若く、未熟で、

それでも確かに王の瞳を宿す甥。


アレキサンドライトの瞳の色。


人を惹きつけ、導く資質。


歓声の中、

ガイルは列の端に立っていた。


拍手を求められ、

笑みを作らされ、

祝福の言葉を口にした。


――なぜだ。


自分の方が、

長く血を流してきた。


それでも王に選ばれたのは、

“生まれ持った光”を持つ者だった。




胸に生まれたのは、怒りではない。


憎しみでもない。


嫉妬だった。


努力では届かない場所への、

どうしようもない渇望。


認められなかった心が、

静かに歪んでいった。




記憶は、そこで終わる。


怪物の姿ではない。


玉座を見上げる、

一人の男の背中だけが残った。


王になりたかったのではない。


ただ――

王として、認められたかった。


喉が、わずかに震える。


その想いに触れた共鳴は、

もはや刃ではいられなかった。


旋律が変わる。


炎は熱を失い、

雷はまばゆい光へとほどけ、

氷は冷たさを失って澄んだ水となる。


破壊のための力が、

受容の光へと転じていく。


「……もう、いいよ」


私の声は、命令ではなかった。


赦しでもない。


ただ、終わらせるための言葉。


蒼を核とした光が、

砕けた魔核の残滓を包み込む。


黒は洗い流され、

歪みは解かれ、

嫉妬と憎しみだけが、静かにほどけていく。


最後に浮かび上がったのは――

人の姿のガイルだった。


角もなく、

歪みもなく。


ただ疲れきった表情で、

それでもどこか安らいだ顔。


彼は、光の中で

静かに目を閉じる。


蒼の粒子が、風に乗り、空へ昇る。


それは消滅ではなく、

浄化という名の帰還だった。


共鳴は、完全に静まった。


戦場に残ったのは、

夜明け前の、やわらかな風だけ。


そして私は理解する。


共鳴とは、

敵を打ち砕く力ではない。


――歪んだ想いを、本来あるべき場所へ還す力なのだと。



蒼の光が、完全に空へ溶けた。


共鳴の旋律は消え、

戦場にはただ、風の音だけが残る。


誰も、すぐには動けなかった。


長すぎた戦いが、

あまりにも静かに終わってしまったから。


その沈黙を破ったのは――

ひとつの声だった。


「……叔父上」


ディランが、砕けた魔核のあった場所を見つめていた。


そこにはもう、何もない。

憎しみも、怪物も、名さえも。


それでも彼は、確かにそこに向かって、

もう一度名を呼ぶ。


「……ガイル叔父上」


震える声だった。


王としてではない。

剣を持つ者としてでもない。


ただ、

血を分けた甥としての声だった。


返事はない。


だが、微かな風が吹き、

彼の外套の端を揺らした。


まるで――

それで十分だと言うかのように。


ディランはゆっくりと片膝をつき、

静かに頭を下げる。


誰に見せるでもない、

ただ一人のための弔いだった。



そのとき。


東の空が、わずかに白み始めた。


夜の帳がほどけ、

長く戦場を覆っていた雲が裂ける。


一筋の光が差し込み、

砕けた大地を、優しく照らした。


炎は消え、

焦げた匂いも薄れていく。


夜明けだった。


終わりを告げる光が、

確かにそこにあった。


誰かが、息を吐く。


「……終わったんだな」


その言葉に、

ようやく全員が現実を受け入れる。


剣を下ろす音。

魔力が霧散する気配。


戦いは、確かに終わっていた。




私は、朝焼けの中で剣を見下ろす。


ラピスラズリの輝きは静まり、

宝石はただの蒼へと戻っていた。


もう、応える声はない。


それでも、温もりだけが残っていた。


――共に在った証として。


ディランが立ち上がり、

隣へ歩み寄る。


「……ありがとう」


それは王の言葉ではなかった。


ただの、

一人の青年の声だった。


朝日が昇る。


紫色とピンク、赤、オレンジ

やわらかな光が皆を包む。


夜は終わった。


憎しみも、狂気も、野望も。


すべてを越えて――

新しい一日が、静かに始まろうとしていた。


戦場には、もはや剣の音はない。


残っていたのは、


生き延びた者たちと、

選び続ける未来だけだった。



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