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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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最終共鳴1

風が、止んだ。


炎も、雷も、叫び声さえも――

まるで世界が一拍、息を忘れたかのように。


「みんな……想いを、重ねて。

私たちの共鳴を――」


そう告げた瞬間、

中央に立つ私の剣先へ、淡い蒼の光が集まり始める。


「……来る」


ディランが、低く告げた。


次の瞬間。



「我が剣に従え――アクアマリン。

流れを凍てつかせ、暴走を鎮めよ」


セナの刀身が氷水の輝きを帯び、

空気そのものを冷却する。


荒れ狂っていた魔力の流速が、確かに鈍った。




「紅く、鋭く――我が想いに応えよ、スピネル!

迷いを断ち、前を切り拓け」


テオの刃が深紅に燃え上がる。

意志そのものが炎となり、前線を押し返した。




「燃えあがれ――ペリドット!

恐れを焼き払い、道を拓け!」


レオの大剣が爆炎を纏い、

轟音とともに魔力の壁を打ち砕く。




「美しく、惑わせ――ローズクォーツ。

その心、甘き夢に沈めなさい」


ルイの剣から薔薇色の光が舞い散る。

幻想の花弁が宙を満たし、敵の視界を歪めた。




「理を整えよ――フローライト。

混沌を律へ、歪みを円環へ」


ユウリの低い声とともに、

灰色の光が円を描く。


乱れた魔力の奔流が、ひとつの調和へと収束していく。




「……静まりなさい。ムーンストーン。

その痛みを、夜へ還して」


アリスの銃口に、月白の光が灯る。


放たれた魔力は刃ではなく、

安らぎとして仲間たちを包み込んだ。




「加速する――トパーズ!

閃光よ、我が身を導け!」


アレンの足元を雷が走り、

稲光とともに躍る。




「支える力を――スモーキークォーツ。

大地よ、盾となれ」


ロベルトが剣を地に突き立てた。


次の瞬間、

大地の深層を叩くような地鳴りが轟いた。




「静寂を保て。惑いを断て――アメジスト。

恐怖も雑音も、ここには要らない」


レイの剣が静かに振るわれる。


音が、感情が、恐慌が――

戦場から削ぎ落とされていった。




そして――


「我が剣に応えよ、アレキサンドライト。

我が意志をもって、共鳴を導け」



その輝きは命令ではなく、

“信じる力”として輪の中心に満ちていった。


共鳴は、ひとつ上の段階へと押し上げられる。




最後に。


私は、深く息を吸う。


背に。

肩に。

剣に――


仲間たちの手の温もりが、確かにあった。


「蒼き想いよ―」


ラピスラズリが、夜空のように輝く。


「星の記憶を継ぎ、

交わした誓いを――導に」


剣が震える。


「私たちの想いを、ひとつに」


光が、繋がった。



蒼と光。

氷と雷と土。

炎と紅。

薔薇と月。

整と静。


すべてが溶け合い、

ひとつの旋律となって流れ込む。


それは歌ではない。

祈りでもない。


――“共に在る”という選択そのもの。


トワの残した淡い光が、その輪の中で震え、

やがて拒むことなく――


そっと、和音として重なった。



蒼を核とした無数の色が、螺旋となり、

世界の法則そのものを引き裂くように前へ走る。


その進路に立ちはだかる影――

ガイルは、もはや人の形をしていなかった。


膨張した肉塊が鎧のように重なり、

骨は外へ突き出し、歪な角となって天を裂く。


六本に分かれた腕の先には、

剣とも爪ともつかぬ黒刃が蠢き、

脈打つたび、腐臭を帯びた魔力が噴き出していた。


顔と呼べる位置には、

幾重にも重なった眼球が埋め込まれ、

瞬くたびに異なる感情――

憎悪、欲望、恐怖、狂気――を映し出す。


「……コロ、ス……

 ウバウ……チカラ……」


喉が裂け、

複数の声が重なった異音が漏れる。


咆哮とともに振り下ろされた巨腕が、

空間そのものを叩き割った。


だが――


共鳴の一撃は、止まらない。


光が触れた瞬間、

怪物の魔力は“拒絶”された。


黒紫の奔流が、悲鳴を上げるように弾け、

調律された旋律に呑み込まれていく。


「ギ……ァ……?」


最初に崩れたのは、形だった。


増殖を続けていた肉塊が、

まるで間違いを正されるように逆再生し、

膨張した腕が萎み、

ねじれた骨が砕け散る。


次に、声。


幾重にも重なっていた叫びが、

ひとつ、またひとつと剥がれ落ち、

やがて音にならない震えだけが残った。


「ナ……ゼ……」


残った口が、かろうじて言葉を形作る。


だが共鳴の光は答えない。


それは裁きではなく、

憎しみでもなく、


ただ――


世界が“間違い”を修正する現象だった。


怪物の身体に、無数の光の亀裂が走る。


まるで硝子細工のように、

異形の巨体が内側から輝き始める。


次の瞬間。


――砕けた。


爆散ではない。

血も肉も飛び散らない。


存在そのものが、

“在ってはならないもの”として分解された。


黒い塵は音もなく崩れ、

共鳴の旋律に溶け込み、

やがて風にほどけて消えていく。


最後に残ったのは、

人の胸ほどの大きさの魔核。


それすらも、

蒼の光に触れた瞬間――


ひび割れ、

かすかな悲鳴のような音を残し、

静かに砕け散った。


怪物は、完全に消えた。


そこには、

倒された敵の死体も、

勝利の証も存在しない。


あるのはただ、

重く澄んだ静寂だけ。


共鳴の光が、ゆっくりと収束していく。


戦場に吹いた風は冷たく、

しかしどこか、夜明けの匂いを帯びていた。


――ガイルは、もはや“人に戻ることすら許されない存在”として、

世界から、完全に消去されたのだった。


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