表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

208/222

真実4


沈黙。


胸が締めつけられるほど、静かな時間。


やがてトワは、覚悟を決めたように息を吸った。


「だから――」


その瞳が、真っ直ぐにティアナを射抜く。


「僕を、殺して」


一瞬、意味を理解できなかった。


「トワ……?」


「君の手で」


まるで、お願い事のように。


「封じ手としてじゃなく。

実験体としてでもなく」


「“君の弟だった僕”として」


刃を持つ手が、ゆっくりと下がる。


「世界のためじゃない」


「研究のためでもない」


「……僕自身が、選んだ終わりだ」


喉が震えた。


「このまま生きたら、いつか本当に君を傷つける」


「その時、僕はもう“人”じゃなくなる」


だから、と。


「その前に――終わらせて」


沈黙が落ちる。


粉塵が、光の中を静かに舞う。


「……やだ」


かすれた声が、震えながら零れた。


「やだ……」


ディランから離れで無意識に前へ出る。


「ごめんね……」


唇が震え、言葉が途切れる。


「気づかなかった……

こんなに近くにいたのに」


「なんで私は……」


次の瞬間。


私はトワを強く抱きしめていた。


小さな体が、腕の中で僅かに強張る。


「殺さない」


震える声で、はっきりと言う。


「誰かを救うために、

誰かを殺すなんて――私は選ばない」


トワの目が、大きく見開かれた。


「……ティアナ、様……」


「あなたは弟よ」


胸に顔を埋め、囁く。


「世界が何と言おうと」


長い沈黙のあと。


少年の腕が、そっと彼女の背に回った。

私はゆっくりと言葉を紡いだ。


「……学校に行くって、言ったじゃない」


トワの肩が、わずかに揺れる。


「きっと友達もできて、穏やかで楽しい日々が待ってるはずなのに…」


胸の奥に、熱が込み上げる。


「そんな未来を――

“なかったこと”になんて、できない」


そっと、背中に回した腕に力を込める。


「この先の未来も、トワ」


静かな声で、はっきりと。


「あなたと一緒にいたい」


少年の呼吸が、詰まる。


「あなたは……ずっと、私の弟よ」


震えながらも、言い切った。


「血がつながってなくてもいい。

世界がどう定義しても関係ない」


「大人びてて、繊細で……」


小さく笑う。


「でも、本当はすごく優しくて」


「誰よりも人の痛みに気づいてしまう、

私の――大切な弟」


トワの額が、彼女の肩に触れた。


「……そんなの」


声が、泣き笑いになる。


「反則だよ……」


指先が、ぎゅっと彼女の服を掴む。



「……だけどね」


トワは、私の腕の中で小さく息を吐いた。


「それは、できないんだ」


ゆっくりと顔を上げる。


その笑みは、あまりにも儚かった。


「僕は“封じ手”として生まれた存在だ。

役目を拒めば、世界の歪みは――別の形で必ず噴き出す」


トワを離さないように力を込める。


「そんなの……」


「ごめんね」


トワは、まるで子どものように微笑んだ。


「君の弟でいられた時間は、本物だった。

だからこそ……ここで終わらせなきゃいけない」


その瞬間。


――研究区画の奥で、異様な魔力が爆発した。


「ッ……!」


床が割れ、天井が軋む。


死に損なったはずのガイルが、歪んだ魔力に包まれながら立ち上がる。


「セイレーーーン……!」


人の形を保てぬほど膨れ上がった肉体。

理性も言葉も失い、ただ“力”だけが暴走していた。


「世界を……よこせ……!」


魔力の奔流が、一直線に――ティアナへ向かう。


「ティアナ!」


誰かの叫びが響くより早く。


トワが、前へ出た。


「――っ!」


彼は迷わなかった。


細い身体で、両腕を広げる。


「トワ!!」


次の瞬間。


凄まじい衝撃が、彼を貫いた。


赤黒い光が爆ぜ、空気が悲鳴を上げる。


「……っ、は……」


その身体が宙に浮き、床に叩きつけられる。


「トワ!!」


急いで駆け寄る。


抱き起こした腕の中で、彼の体は驚くほど軽かった。


「……よかった」


かすれた声。


「今度は……守れた」


血に染まった唇が、かすかに笑う。


「弟らしいこと……できたかな」


「やめて……喋らないで……!」


涙が、止まらない。


「一緒に未来を見るって言ったでしょう……!」


トワは、ゆっくりと首を振った。


「未来は……君が生きてくれれば、それでいい」


震える手でトワの頬に触れる。


「歌わないセイレーン。

人のまま、世界を変える魔女……」


「君なら……きっと、壊さずに終わらせられる」


指先が、ほどけていく。


「……お姉様」


「生きて」


その瞬間。

トワの身体から、淡い光が溢れ出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ