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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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預け合う背中

ティアナside


私は深く息を吸う。



「蒼き想いよ、応えて。ラピスラズリ」


澄んだ蒼光が弧を描き、私の手の中に蒼い剣が形を成す。


夜空を閉じ込めたような刃。


風と知性の魔力が、静かに巡る。


その隣で――


「我が剣に応えよ アレキサンドライト」


ディランのアレキサンドライトが眩く輝いた。


昼と夜の境界のような宝石が、光を収束させる。



彼の手には、金色の光の剣。


刃の輪郭すら曖昧な、まさに“王の光”。


蒼と光。


2つの剣が並び立つ。


「……並ぶと、派手ですね」


私が思わず言うと、


「君の剣が美しすぎるだけだ」


即答が返ってきた。


「今は口説かないでください!」


「残念だ」


その瞬間。

守護兵が近づいてくる。


十、二十。

―いや、それ以上。


「来るぞ!」


「まとめていきましょう!」


私は一歩前へ。


「蒼き風よ ―!」


ラピスラズリの剣が風を孕む。


「切り裂け!」


青い斬撃が連なり、敵陣を薙ぎ払った。


同時に、


「光よ、王命に応えろ!」


ディランの剣が、一直線の光となって走る。


蒼の刃が敵を崩し、

光の剣が核を貫く。


まるで互いの剣が、役割を理解しているかのようだった。


「連携、完璧ですね!」


「君が前に出ると、迷いが消える」


「それ、今言うことじゃ――!」


言い終える前に、背後から魔力反応。


「後ろ!」


「任せろ!」


ディランが私の前へ踏み込み、光剣を横一閃。


盾のように光が広がり、攻撃を完全に遮断した。


私はその背中を見つめながら、思う。


――この人は、守ることを選び続ける人だ。


「……こっち気にしすぎです」


「君があまりにも綺麗だからね」


「そういうことを言ってる場合じゃないです!」


「それもそうだ。」


「なら、預け合おう」


彼は振り返らずに言った。


「君の蒼と、俺の光で」


装置が、ついに轟音を立てる。


紅血生成炉、起動。


床の魔法陣がすべて赤黒く染まり――


その中心で。


ゆっくりと、拍手の音が響いた。


「素晴らしい……実に素晴らしい共鳴だよ」


いつの間にか上からこちらを見下ろすガイル。


狂気と野心を宿した瞳。


蒼い剣と、光の剣が同時に構えられる。


紅血生成炉が唸りを上げた瞬間――


「……っ!」


床一面の魔法陣が、さらに複雑な紋様へと書き換わった。


「まさか……」


ガイルが両腕を広げ、恍惚とした声を上げる。


「さあ、目覚めろ。

集いし魔女の雫よ――紅血へ至るための“器”となれ!」


装置が赤黒く閃いた。


次の瞬間。


――ズズズ……!


壁が割れ、天井が開く。


研究区画の四方八方から、

人型、獣型、歪な結晶体。


魔女の雫で作られた擬似生命体が、雪崩れ込んできた。


「……数、増えすぎ!」


「だが退路はない!」


ディランが即座に前へ出る。


「来るぞ、ティアナ!」


「はい!」


蒼い剣が唸る。


「蒼き風よ、導け――ラピスラズリ!」


私は跳躍し、空中で身を翻す。

蒼い斬撃が連続して走り、前列を一気に吹き飛ばした。


だが――


「再生してる!?」


砕いたはずの敵が、赤黒い霧から再構成されていく。


「紅血炉が稼働している限り、無限再生か……!」


ディランが歯を噛みしめた。


敵は、すでに三十を超えている。


「このままじゃ……!」


その瞬間。


ディランの剣のアレキサンドライトが強く脈打った。


――キィン……。


澄んだ高音。


時間が、一瞬だけ引き延ばされる。


「……?」


彼の剣の光が、

淡い緑と深紅を行き来しながら、刃の内でせめぎ合う。


やがてその2色は、互いを拒むことなく溶け合い――

白を超えた、白金の光へと昇華した。


「これは……」


ディランが目を見開く。


「アレキサンドライトが……」


宝石が応えている。


――王子としてではない。

一人の人間として、守りたいと願った心に。


「馬鹿な!」


ガイルが叫んだ。


「その覚醒は想定外だ!」


光が爆ぜる。


「変転の光よ――

我が意志に従え、アレキサンドライト」


ディランの声が、戦場全体に響いた。


光は剣だけでなく、彼自身を包み込み、

背後に巨大な光の紋章が展開される。


「ティアナ」


彼は振り返る。


その瞳に宿る色は、

迷いを越えた証のように、

エメラルドからルビーへと移ろっていた。


「君に背を預けるのは……意外と頼もしいな」


「そんな悠長なこと言ってないでください!」


私は即座に言い返す。


「敵、まだ増えてます!」


「はは……確かに」


ディランは笑い、剣を構え直した。


「では――一気に行こう」


蒼と光が、同時に走る。


蒼い暴風と、白金の光の奔流。

2つの魔力が交差し、共鳴し――


敵の群れを、まとめて飲み込んだ。


爆風が収まったとき。

広間の半分が、更地になっていた。


それでも。


紅血生成炉は、なおも脈動を続けている。


ガイルは、狂気の笑みを浮かべた。


「素晴らしい……!

だが、ようやく条件が揃った――」


その視線が、私へと突き刺さる。


「君の血が、反応しているぞ。

魔女セイレーンの――器よ」


胸の奥が、熱く疼いた。


ラピスラズリが、かすかに震える。


次の瞬間、

ディランが迷いなく、私の前へ出た。


「彼女には、指一本触れさせない」


その背中は――

もはや剣ではなく、光そのものだった。


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