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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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202/222

被験者の暴走

地下第二研究区画・避難通路。


担架と簡易照明に照らされ、被験者たちが列をなして進んでいた。


「ゆっくりでいいですよ!落ち着いていきましょう!」


アレンが声を張り上げる。


「呼吸が浅い人はこちらへ!」

ロベルトが守りながら誘導する。


そのとき――


「……ぁ……あ……」


列の後方。


1人の被験者が、突然立ち止まった。


胸元に埋め込まれた宝石が、

先ほど破壊したものとは違い――


深紅に濁っていた。


「……っ、待て!」


セナが叫ぶ。


だが遅かった。


宝石が脈打ち、被験者の身体がのけぞる。


「――グ、ァァァァッ!!」


皮膚の下を魔力が走り、

歪んだ魔法陣が床に展開する。


「暴走だ!」


アレンが剣を抜く。


「まだこんなのが残ってたのか……!」


被験者は理性を失い、

獣のような咆哮とともに魔力弾を放った。


「伏せろ!」


ロベルトが土壁を出す。


ゴンッ!!


衝撃が通路を揺らす。


「被害者たちを下げろ!」

セナが即座に判断した。


その瞬間――


「王国騎士団だ!」


通路奥から、整った足音。

青銀の鎧をまとった騎士たちが駆け込んでくる。


「オーウェン団長」


セナが口にする。


「セナ騎士 ご苦労様です。

避難誘導はこちらで引き継ぎます!」


「負傷者を優先!」


「後方確保!」


迷いのない動き。


訓練された王国正規騎士団だった。


「助かります!」


アレンが叫ぶ。


騎士たちが被験者たちを包み込むように守り、

一気に通路の外へ誘導していく。


残されたのは――

暴走した被験者と、3人。


「……行ったな」


ロベルトが剣を構え直す。


「あとは俺たちの仕事だ」


セナが被験者の宝石を見つめる。

さらに赤黒く膨張している。


「完全に侵食されてる……」


アレンが歯を食いしばった。


「なら、迷う必要はない」


セナが一歩前に出る。


「――我が剣に従え、アクアマリン」


淡い蒼光が剣身を包み込んだ。


冷静で澄んだ波の魔力が、周囲に満ちる。


荒れ狂う魔力の流れが、わずかに鎮まった。


「アレン、動きを削れ」


「了解!」


「ロベルト、防御を頼む」


「任せろ」


3人は無言のまま散開する。


次の瞬間――

暴走した被験者が、獣のような動きで跳躍した。


「来るぞ!」


「加速する、トパーズ!」


アレンの剣が黄色の稲妻を帯びる。


一瞬で距離を詰め、閃光のように足元を斬り裂いた。


「ぐ、ぁ――!」


体勢を崩した刹那。


「支える力を――スモーキークォーツ!」


ロベルトの剣が茶色の光を放つ。


床が軋み、岩の腕がせり上がり、

被験者の身体を強く拘束した。


「今だ、セナ!」


セナは深く踏み込み――


「眠れ。守るために」


刃先が、宝石の核だけを正確に貫く。


――パキン。


乾いた破砕音。


深紅の結晶が砕け散り、

黒い霧となって霧散した。


被験者の身体が、力なく床へと崩れ落ちる。


「……呼吸あり」


ロベルトが即座に脈を確認する。


「ギリギリでしたね」


アレンが大きく息を吐いた。


「だが、生きてる」


セナは剣を収める。


「王国騎士団が来ていなければ、被害が出ていた」


通路の奥から、オーウェン団長の声が響いた。


「こちらで避難は完了しました。

これ以上の被験者はありません!」


セナは通信具を取り出す。


「こちらセナ班。

避難完了。暴走個体、鎮圧済み」


一拍置いて――


通信石の向こうから、ディランの声。


『よくやった』


だが、その声音には、はっきりとした緊張が混じっていた。


『中央装置が、まもなく完全起動する』


セナは目を伏せ、短く答える。


「……了解です」


3人は同時に、研究区画の奥を見据えた。


赤黒い魔力が、

さらに深部から不気味に脈打っている。


戦いは、まだ終わっていなかった。


――むしろ、これからが本番だった。

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