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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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寄り添い合う心5

食堂でしばらく皆と過ごしたあと、

私はアリスと一緒に部屋へ戻った。


「お嬢様、今夜は少し冷えますから」


そう言って、アリスは手際よくカーテンを閉め、

お風呂の支度を整えてくれる。


湯気の気配と、ほのかな石鹸の香り。

私の髪を優しく洗ってくれる。

至れり尽くせりだな。


「ありがとう」


「ふふ、今日はよく笑っていましたね」


「……そうだった?」


「はい。とても安心しました」


お風呂から上がると手際よく髪を乾かしてくれる。


「では、おやすみなさい。何かあればいつでも遠慮なく」


微笑むアリスが出ていった。

私はベッドに腰を下ろした瞬間、ふと昼間の光景がよみがえった。


(ディランの書斎……)


机いっぱいに積まれていた、あの書類の山。


「……あれ、減ってなかった気がする」


王子の仕事量なんて、考えるまでもなく多い。


(まさか……)


「夜中まで、やってたりしないよね……?」


胸の奥に、ちくりとした心配が生まれる。


湯上がりで体は温かいのに、

なぜか落ち着かない。


ベッドに横になって目を閉じても、

頭に浮かぶのは彼の横顔ばかりだった。


うたたねはした。


ほんの少し、浅い眠り。


でも――


「……眠れない」


静かな部屋で、時計の音だけがやけに大きい。


私はゆっくりと身を起こした。


(少しだけ……様子を見るだけ)


起こすつもりも、話すつもりもない。


灯りがついているか、

まだ起きていないか。


それだけ確認できればいい。


そう自分に言い聞かせて、

上着を羽織る。


廊下は夜の静けさに包まれていた。


足音を忍ばせながら歩くたび、

胸の鼓動が少しだけ早くなる。


(……書斎、まだ明かりついてるかな)


扉の前に立ち、

そっと、取っ手に手をかけた。


――中から、かすかな紙の擦れる音がした。


やっぱり。


私は小さく息を吸い、

ノックしようか迷いながら、扉に耳を近づけた。


その向こうにいる彼の姿を思い浮かべながら。



――がちゃ。


目の前で、扉が内側から開いた。


「……っ!」


思わず息を呑む。


そこに立っていたのはディランだった。


書類を片手に、少しだけ驚いたような表情。


ほんの一瞬――

本当に一瞬だけ、目を見開いて。


すぐに、いつもの穏やかな笑みに戻った。


「……どうしたの?」


「あ、あの……」


言葉を探していると、彼の視線が私の格好を一巡してから、ゆっくりと上がる。


そして。


「夜這いかな?」


「――っ!?」


心臓が跳ねた。


「こ、こ、こらっ……!」


ディランはくすりと笑い、わざとらしく顎に手を当てる。


「婚約発表後すぐにそれはまずいかな」


「ま、まずいとかそういう問題じゃ――!」


顔が一気に熱くなる。


「ち、ちがいますよ!!」


勢いよく否定すると、


「書斎の明かりがついてたから……その……」


「夜中まで仕事してないか、心配で……」


語尾が小さくなる。


ディランは一瞬きょとんとし――

次の瞬間、表情がふっとやわらいだ。


「……そんな理由で?」


「そ、そうです。

それに眠れなかったから……」


沈黙。


夜の廊下に、静けさが戻る。


やがて彼は、小さく息を吐いて微笑んだ。


「君は本当に……」


そう言って、私の頭にそっと手を置く。


「人の心配ばかりだな」


「だって……」


「安心して」


書類を軽く持ち上げる。


「もう切り上げるところだった」


「ほんと?」


「ああ。君が来てくれたおかげで、ちょうどいい区切りだ」


そう言って、書斎の中へ視線を向ける。


「……少し、入るか?」


「え」


「温かい茶を淹れよう」


一拍置いて、付け足すように。


「夜這いではなく正式な招待だ」


「からかわないでください……!」


そう言いながらも、私は一歩だけ前に出た。


書斎から漏れる灯りは柔らかく、

夜更けの静寂に溶け込むように揺れていた。


ディランは扉を少し広く開けながら、低い声で言う。


「……来てくれて、嬉しかった」


その一言が、胸の奥を静かに温めた。


私は小さく頷き、

彼の部屋へと足を踏み入れた。

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