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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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初恋1

ティアナside


セナが優しく私を抱きしめる。

驚くほど柔らかく、それでいて逃がさないようにしっかりと抱きしめるその手。


「……心配かけたな」


笑おうとしたセナの声に、私は堪えていたものが全部溢れそうになる。


…だめ。


顔を上げると、セナの瞳が自分を映しているのが見えた。

その瞬間、私の胸の奥で抑え込んでいた感情が、全部崩れ落ちる。


「……なんで……」


声が震える。


「なんで、あんなこと言うの……」


胸元をぎゅっと掴む。怒っているのか、泣いているのか、自分でもわからない。


「“俺じゃなくてもいい”なんて……

そんなの……勝手すぎる……!」


涙が止まらない。


「私の気持ち、勝手に決めないで……

幸せの形も……隣にいる人も……!」


ぐっと歯を食いしばる。


「……私は……」


喉が詰まる。それでも、逃げない。


「私は……セナがいなくなる世界なんて、

一つも欲しくなかった……!」


声が裏返る。


「怖かった……

触ったら冷たくて……

このまま、動かなくなるんじゃないかって……!」


震える手で、彼の服を握りしめる。


「ずっと……強い顔して、騎士でいようとして……

全部、一人で背負って……!」


嗚咽が混じる。


「……それでも……それでもね……」


息を吸い、吐く。涙越しに、まっすぐ彼を見る。


「私にとっての“守られる場所”は……

セナの隣だったの……」


声は小さい。けれど、迷いはない。


「初恋だった。

ずっと、だよ……」


唇が震える。


「それなのに……

最後みたいに告白して……

置いていくなんて……」


胸を叩く。


「……ひどい……!」


そして、声を落とす。


「……死なせないって決めてたの……

好きな人を、失うなんて……

もう、耐えられない……」


そっと、額を彼の胸に預ける。


「……だから……」


小さく、でも確かに。


「……生きててくれて、ありがとう……」



セナside


ティアナの言葉は、胸の奥に静かに沈んでいった。


初恋だった。

ずっと好きだった。

その事実が、痛いほど伝わってくる。


……だからこそ。


俺は、ゆっくり息を吸って、彼女の背中に回していた手を――離した。


「……ティアナ」


名前を呼ぶ声は、もう震えていなかった。

不思議と、静かだった。


「さっきの共鳴で……少し、わかったんだ」


彼女が顔を上げる。

涙で濡れた瞳が、まっすぐ俺を見る。


「貴女の魔力の揺れ……

俺に向いてるものじゃない」


責めるような言い方にはしない。

事実を、事実として置くだけ。


「……別の誰かに向いてる」


一瞬、ティアナの瞳が揺れた。


「否定しなくていい」


すぐに言葉を重ねる。


「それが悪いことだなんて、思ってない」


小さく、笑う。


「初恋が、ずっと同じ形で続くとは限らないって……

俺も、騎士になる前に学んだからさ」


視線を落とす。


「ティアナはさ……

誰かを惹きつける光を持ってる」


「俺だけを見る貴女より、

前を向いて、迷って、それでも進もうとする貴女の方が……」


少しだけ、言葉を選んで。


「……俺は、好きだ」


沈黙。


「だから」


顔を上げて、はっきり言う。


「俺は身を引く」


驚いたように、ティアナが息を呑む。


「貴女が選ぼうとしてる気持ちを、

俺が縛る資格はない」


それでも。


一歩だけ、近づく。


声を落として、最後の本音を置く。


「……でもな」


「これだけは、奪わないでくれ」


ゆっくり、確かめるように言う。


「俺は、ずっとティアナが好きだ」


「見返りも、約束もいらない」


「ただ……

好きでいることだけは、俺の自由だろ?」


穏やかに、優しく微笑む。


「最後に気持ちを伝えられて……

それで、十分だ」


そっと、彼女の頬に触れる。

キスはしない。

それはもう、“越えない”と決めたから。




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