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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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181/222

夜明けの先に2

廊下を進んでいると――


「……あ」


聞き覚えのある声がして、角の向こうから人影が現れた。


「お嬢さん!」


次の瞬間。


どさどさっ!


レオの腕に抱えられていた袋が破れ、

中から大量のジャガイモが床を転がった。


「うわっ、あっ、ちょっ――」


ごろごろと転がるそれらを完全に無視して、

レオは私を見つめる。


目を大きく見開いたまま、息を詰めて――


「……起きたんですね」


震えた声。


「ほんと……ほんとによかった……」


そう言ったきり、言葉が詰まる。


次の瞬間、勢いよく距離を詰めてきた。


「だ、抱きしめていいですか!?

いいですよね!? 今しかないですよね!?」


「え、ちょ――」


「うん」


私がそう答えると、


その背後でユウリとディランが、ほぼ同時に一歩下がった。


まるで示し合わせたかのように。


次の瞬間――


ぎゅっ!!!


大きな腕に包み込まれ、視界が一気に布地で塞がれる。


「本当……よかったよぉ……!」


レオの声は完全に泣いていた。


「目ぇ覚まさないって聞いて……

俺、料理しながらずっと祈ってたんですよ……!」


背中をぽんぽんと叩きながら、私は少し息苦しそうに言う。


「れ、レオ……ちょっと、近い……」


「生きててよかったぁぁ……!」


そのときだった。


「……あ、レオさんジャガイモ落ちてますよー」


少し間の抜けた声が、遠くから聞こえてくる。

廊下の角からアレンとロベルトが顔を出していた。


床一面に転がる芋を見て、


「うわ……派手にいったな!」


「これはあとで回収ですね」


なんて言いながら――


次の瞬間。


2人の視線が、私に向いた。


ぴたり。


動きが止まる。


じっと、じっと。


「……」


「……」


明らかに、様子がおかしい。


落ち着きなく視線を彷徨わせ、

腕を組んだり伸ばしたり、そわそわし始める。


「……な、なぁアレン」


「は、はい!」


「言っていいと思うか?」


「……今しかない気がします!」


2人して、ぐっと拳を握った。


そして――


「あの!!」


「お嬢様!!」


同時に声が上がる。


「俺たちも……」


「抱きしめてもいいですか!?」


勢いに押されて一瞬目を瞬かせたあと、


「……うん」


そう答えた瞬間。


「わぁっ!」


「失礼します!!」


左右から――


ぎゅっ!!


レオとはまた違う、

少し控えめで、でも全力の抱擁。


「よかったです……!」


「本当に……目を覚ましてくださって……!」


震える声が、耳元で重なる。


三方向からの温もりに包まれて、


「……ちょっと、くすぐったい……」


思わずそう呟くと、


「す、すみません!」


「力入れすぎました!?」


慌てて緩む腕。


でも誰も、完全には離れない。


少しだけ距離を残して、

確かめるように、まだ近くにいる。


その様子を見ながら、


ユウリは呆れたように、けれど優しく笑い、


ディランは腕を組んだまま、小さく息を吐いた。


……怒っているわけではない。


むしろ。


「……本当に」


小さく、誰にも聞こえない声で呟く。


「無事でよかった」


そう言った横顔は、

誰よりも安堵した表情をしていた。


3人の腕は、なかなか離れなかった。


「……」


少し緩んだはずなのに、

気づけばまた距離が近い。


「よかった……ほんとによかった……」


「お嬢様、ちゃんと温かい……」


「夢じゃないですよね……?」


3人とも、名残惜しそうに離れようとしない。


その様子を見て――


「……こほん」


背後から、控えめながらよく通る咳払い。


一瞬で空気が変わった。


「――はっ!」


「す、すみません!」


「長くなりました!」


まるで訓練の号令でもかかったかのように、

3人が同時に一歩下がる。


ユウリは穏やかに微笑みながらも、きっちりと言った。


「お嬢様はまだ療養中です。

感動の続きは、回復してからにしてくださいね」


「……はい」


3人、しょんぼり。


レオは名残惜しそうに、両手をぶんぶん振る。


「またあとで!!」

「ちゃんとご飯食べてくださいね!!」

「ジャガイモも柔らかく煮ますから!!」


「……ありがとう」


そう返すと、レオはまた少し泣きそうな顔で目を真っ赤にしてて笑った。


その場を離れ、私は再び――


ユウリとディランに支えられながら、医務室へ向かう。


左右から伝わる体温。


歩調を合わせてくれる静かな気遣い。


背後では、まだ3人の視線を感じる。


廊下の角を曲がる直前、


振り返ると――


レオは最後まで手をぶんぶん振り続けていた。


その姿が可笑しくて、少し胸があたたかくなる。


「……みんな、心配してくれてたんだね」


ぽつりと漏らすと、


「当然です」


ユウリが穏やかに答え、


「君は、そういう人だ」


と、ディランが静かに続けた。


医務室の扉が、また見えてくる。


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