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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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婚約発表2

レイside


会場の空気を上から見下ろすように、私は静かに立っていた。


殿下とティアナ様が一歩前に出ると、視線が一斉に向けられる。

拍手、囁き、驚き。

そのすべてが、まるで計算された波のように広がる。


前列の貴族たちは、互いに小さく視線を交わし、表情を探る。

緊張の隙間に、期待と猜疑が入り混じる。

彼らの視線は、礼儀正しいが、冷静に価値を測っていた。


殿下を狙っていた令嬢達の妬みや悲鳴も聞こえる。


教会関係者たちは、宣言の重みを瞬時に理解し、静かに頷く者もいる。

拍手をためらう手元に、信頼の確認のような空気が流れる。


――だが、端の影。


ガイル側の人物たちは、別のリズムで呼吸している。

表面上は無表情、沈黙。

だが、目の奥で計算が渦巻き、行動のタイミングを測っているのが見える。

彼らにとって、この婚約宣言は、行動を起こす合図だった。


小さな仕草――

顎を押さえ、指先で机を叩き、視線を交わす。

それだけで、次の一手が読み取れる。

彼らは今、動かざるを得ない。

隠れていた計画が、表に引きずり出される瞬間だ。


味方側も同様に、動きは静かだ。

テオは肩の力を抜きながらも警戒を緩めない。

ユウリ、ルイは周囲の気配を確認している。

セナは軽く腕を組み、目だけで戦況を測る。

レオは、落ち着きなく目を泳がせている。


私は、全体を見渡しながら呼吸を整える。

婚約発表の光景は、単なる祝賀ではなく、戦場の布石でもあった。

殿下とティアナ様が一歩踏み出すたび、重厚な視線が交錯し、

それぞれの思惑が動き出す。


(……準備は整った)

(ここから先は、守るべき人と、敵の動きを見極めるだけ)


胸の奥で、静かに覚悟を固める。

逃げる必要はない。

殿下も、ティアナ様も、そして私も、ここに立っている。


戦いは、確実に動き始めたのだ。



ティアナside


一通り挨拶回りをしたあと会場のざわめきが徐々に落ち着く中、殿下は私の隣で静かに一歩踏み出した。


端に立つガイルの視線が、すぐに私たちを捉える。

冷たい光を帯びた瞳。計算された感情の裏側に、行動の匂いが漂う。


「殿下、ティアナ様」

低く、滑らかな声。

会場全体の視線はそちらに流れたが、私の意識はガイルの動きに集中していた。


「……お話があるようですね」

ディランが静かに言う。

その声に、わずかな緊張も恐怖もない。

ただ、警戒と決意だけが宿っていた。


ガイルはゆっくりと前に出る。

肩書きも噂も超えて、私たちを一目で評価しているようだった。


「婚約、おめでとうございます」

冷淡な言葉だが、微かな挑戦の色が混ざっている。


「ありがとうございます」

ディランと共に、私は笑顔を貼りつけた。


ガイルの目が微かに細まる。

それでもその声には、怒りではなく、計算された警告しかない。

「ふむ……では、この結果を受け入れた上で、次の行動を考えねばな」


視線が私に向けられる。


「殿下を借りてもいいかな?あの幼かった彼がこんなに立派になったのだ…積もる話もある」


意味深に笑うガイルに、ディランも静かに頷く。


「では、行きましょう」

セナが私に手を差し出す。


「ええ、それでは失礼いたします」

私は小さく微笑み、セナの手を握った。


控えの扉を出ると、夜風が吹き込み、街灯の光が影を伸ばしている。

人々の視線から逃れるように、私たちは静かに歩いた。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

セナが横でさりげなく確認する。

その声には、いつもの優しさと、騎士としての冷静さが混ざっていた。


「ええ、大丈夫」

小さく頷く。

胸の奥は緊張で高鳴っているが、恐怖ではない。

殿下があそこにいる限り、私は退かない。


「では先に帰りましょう。ここに長居する必要はありませんから」

「ええ」


馬車に乗り込むと、闇がすぐに私たちを包んだ。

しかしその安心も束の間、街道の先から低い声が聞こえる。



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