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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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対話2

翌朝


早朝の訓練場。

まだ霧が残り、空気はひんやりとしている。


剣の風切り音だけが、規則正しく響いていた。


俺は一人で剣を振っていた。

無駄のない動き、研ぎ澄まされた一太刀。


――そこへ。


「相変わらず、無駄がないな」


背後から聞こえた声に、剣を止めず答える。


「殿下こそ。こんな時間にどうしました」


ディランは軽く肩をすくめた。


「君がどんな剣を振るのか、ちゃんと見ておこうと思ってね」


俺は一瞬だけ動きを止め、ディランを見た。


「……監視ですか?」


「違うよ」


否定は即答だった。


「これから同じ戦場に立つ人間を、

信頼できるかどうか確かめに来ただけだ」


俺は再び剣を構える。


「信頼、ですか」


「君は俺を信頼していない。

それは分かってる」


ディランは訓練用の剣を手に取り、距離を詰める。


「でもね、俺は君の“覚悟”は信頼している」


その言葉に、剣が一瞬、揺れた。


「……俺は」


「彼女を守るためなら、

俺を斬ることも厭わないだろう?」


図星だった。


「それでいい」


ディランは真っ直ぐ剣を構える。


「それが、彼女の隣に立つ者の資格だ」


次の瞬間、剣がぶつかり合う。


――鋭い音。


一合、二合。

どちらも本気ではない。だが、手は抜いていない。


「殿下は」


セナが低く言う。


「なぜ、そこまで背負うんです」


剣を受け止めながら、ディランは笑った。


「選んだからだよ」


「王族だから?」


「違う」


刃が噛み合う。


「ティアナが前に進むと決めたから。

なら、俺も前に立つ」


俺は息を吐いた。


「……似ていますね」


「誰に?」


「お嬢様に」


一瞬、ディランの目が細くなる。


「それは、光栄だ」


最後に剣を引き、2人は距離を取った。


「セナ」


ディランは剣を下ろし、はっきりと言う。


「彼女を守る。

それは命令じゃない」


「……」


「選択だ」


沈黙の後、俺も剣を下ろした。


「――承知しました」


以前とは違う、迷いのない声。


「殿下が前に立つなら、

俺は――その死角を守ります」


ディランは一瞬驚いた顔をしてから、

ふっと笑った。


「それは心強い」


2人の間に、言葉はそれ以上いらなかった。


信頼とは、誓うものではない。

並び立ち、背を預けられると知ること。


霧の向こう、朝日が差し始める。


その光の中で、

2人は初めて――同じ方向を見ていた。



ティアナside


調子が戻り、やっと本格的に訓練始動だ。

3人での共鳴訓練は、思っていた以上に静かなものだった。


「無理に繋げなくていい」

ディランが言う。

「意識するのは“共有”だけだ」


私は剣を構え、深く息を整える。

左右に、ディランとセナ。


共鳴を意識するとき、世界の輪郭がわずかに揺らぐ。

音が遠のき、代わりに――気配がはっきりと浮かび上がる。


(……あ)


最初に気づいたのは、セナだった。


いつもなら、彼の気配は鋭く、まっすぐで、

剣そのもののように張り詰めている。


けれど今は違う。


硬さはあるのに、どこか柔らかい余白がある。

まるで、私とディランの間に自然と立ち位置を調整しているような――。


(守る、じゃない……並ぶ、だ)


その感覚に、胸が小さく震える。


次に、ディラン。


光属性特有の澄んだ魔力は変わらない。

けれど、その流れ方が明らかに違っていた。


以前は、前へ、前へと導くような光。

今は――包み込むように循環している。


私に流れ込み、

セナへと渡り、

また私へ戻ってくる。


(……2人とも)


意識せずとも、呼吸が合っている。

剣を振る前から、次の動きがわかる。


「……来る」


私が呟くより先に、

セナが半歩前に出て、ディランが光を走らせる。


完璧な連携。


私は剣を振り抜きながら、確信する。


(変わった)


2人とも、確実に。


セナは、“一人で守る剣”を降ろしつつある。

ディランは、“導く王子”から、“共に立つ男”へと。


そして――

その中心に、私がいる。


訓練が終わり、剣を下ろす。


「……どうした?」

ディランがこちらを見る。


「いえ……」

私は首を振り、少しだけ笑った。


「2人とも、強くなりましたね」


セナが一瞬だけ目を伏せ、

ディランは、意味深に口角を上げる。


「気づいたかい」


その言葉に、私は答えない。


ただ、胸の奥で静かに思う。


(共鳴って……力だけじゃない)


心の向きが変わったとき、

それは、こんなにもはっきり伝わるのだと。

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