揺れる熱情5
真夜中。
身体が、やけに熱い。
ぼんやりと意識が浮かび上がり、
喉の渇きに気づく。
「……ん……」
寝返りを打とうとして、
思った以上に力が入らず、眉をひそめた。
「……ティアナ?」
低く、静かな声。
薄く目を開けると、
ランプの灯りの中、
ディランがすぐそばにいた。
「……ディラン……?」
「起こしてしまったかな」
そう言いながら、
額に手を当てられる。
一瞬、
その手が止まった。
「……熱が、上がっているね」
「……ごめんなさい……」
反射的にそう言うと、
彼は小さく息を吐いた。
「謝らなくていい」
グラスを差し出され、
支えられながら水を飲む。
……冷たくて、
少し、ほっとする。
「夜はね、
身体が正直になる」
穏やかな声。
「無理をしていた分、
きちんと表に出てきただけだ」
「……でも……」
言葉を探していると、
指先が、そっと頬に触れた。
「今は、
何も考えなくていい」
「君は、
弱っていていい」
その言葉に、
胸の奥が、きゅっとする。
「……でも、弱っているところ、
見られたくない」
「どうして?」
「……なんか、
あとが怖い……」
「何それ」
ふふっと、
小さく笑う。
「大丈夫だよ」
「弱っているところも、
ダメなところも」
「全部、見せていい」
「……ねえ」
自分でも驚くほど、
声が、幼くなっていた。
「……ここに、いて」
ディランの動きが、
ぴたりと止まる。
一瞬の沈黙。
そして、
小さく、笑った。
「最初から、
そのつもりだよ」
椅子を引き寄せ、
私の手を包む。
「逃げる理由が、
どこにある?」
……ずるい。
「……手、大きい」
「君の手は小さいね」
そう言って、
指先を確かめるように包み直す。
「でも、
頑張っている手だ」
離そうとしない。
「……ディラン」
「うん」
「……今日ね」
気づけば、
言葉が溢れていた。
「みんな、来てくれたの」
「レオが卵粥、食べさせてくれて」
「テオはユウリのモノマネして、
四葉のクローバーくれて」
「ユウリは本気の看病だって言って……
アリスも交代で来てくれた」
「ルイが作ってくれた
蜂蜜ソーダも、美味しかった」
少し息をついて、
それでも続ける。
「……セナも来てくれた」
「無茶しすぎだって言いに来たのに、
セナの手、豆が潰れてて」
「お互いさまだねって……」
「アレンとロベルトは
扉の外から手を振ってくれて」
「レイさんは、
置き手紙とのど飴」
熱のせいか、
不思議と止まらない。
「……熱出して、
迷惑かけてるのに」
「心配されて、
想ってもらえて」
「……なんか、
嬉しかったんだ」
こんなふうに、
素直に気持ちを話したことはない。
でも、
聞いてほしいと思ってしまった。
ディランは、
ただ穏やかに聞きながら、
「……みんなして」
小さく、
呟くように言った。
「随分と、
君のことを可愛がっているな」
何を言おうとしたのか、
自分でもわからない。
でも、
そのまま、
指に力を込めてしまう。
ディランは、
何も言わず、
ただ、握り返した。
「大丈夫」
低く、確かな声。
「君が眠るまで、
ここにいる」
「熱が下がるまで」
「朝が来るまで」
――それ以上は、
何も言わなかった。
でも。
その手の温もりが、
何よりも、
効く薬だった。
まぶたが、
ゆっくりと落ちていく。
最後に聞こえたのは、
とても静かな声。
「……無茶をする君も、
弱って、甘える君も、
全部、
俺のものだよ」
……それは、
夢だったかもしれない。
けれど。
手の温もりは、
確かに、
そこにあった。




