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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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誓い

ティアナside


ナナとの話を終え、部屋へ戻る。


廊下を進みながら、

ふと先ほどの光景を思い出した。


……あの2人が一緒にいるのは、

やはり、どこか不思議な感じがする。


兄と殿下。

立場も、雰囲気も、

殿下の周囲にはいないはずの人種だ。


「お待たせしました」


そう声をかけると、


「ティアナ」


ディランが、

穏やかに私の名前を呼んだ。


その声音に、

胸の奥が、少しだけ落ち着く。


外から、馬車の音が聞こえてきた。

きっと、ディランが手配してくれたのだろう。


「そろそろ、帰ろうか」


「……そうですね」


短く頷く。


「では、ナナ。

今度は、お茶会で」


そう告げると、

ナナは一瞬きょとんとしたあと、


「はい」


と、嬉しそうに微笑んだ。


その様子を横目に、

兄が大げさに手を振る。


「はいはい、さっさと帰れ」


わざとらしく、

しっしっと追い払う仕草までつけて。


……本当に失礼な兄だ。


「では、失礼するよ」


ディランがそう言って、

自然な仕草で私を促す。


並んで歩き、

そのまま馬車へと乗り込んだ。


「さて……まさか、

貴重なデートがこんなことになるとはね」


ディランは、

少しだけ不満そうにそう言った。


「……そうですね」


思わず、苦笑いで返す。


するとディランは、

私の方へ視線を向けたまま、

穏やかな声で続けた。


「俺は、もう少し君と一緒にいたいのだけど?」


どうかな、と。

わざとらしく小首をかしげる。


……ずるい。


その仕草に、

隠そうとしても色気が滲み出ていて、

視線の置き場に困る。


「す、少しだけなら……」


気づけば、

そんな言葉が口からこぼれていた。


それを聞いた瞬間、

ディランは満足したように微笑む。


「では、決まりだな」


そう言って、

ゆっくりと背を預ける。


ほどなくして、

馬車が静かに動き出した。


窓の外の景色が流れていく。


馬車がゆっくりと止まる。

ディランのエスコートで馬車を降りるとそこは街が見下ろせる高台だった。


夕暮れの柔らかな光が街を染めている。

オレンジ色の空が建物の影を長く伸ばし、通りに歩く人々の顔を優しく照らしていた。


「きれいですね」


「そうだね」


ディランも優しく相槌をうつ。


「ティアナ」


穏やかな甘い声で名前を呼ばれる。


「これを」

ディランが差し出す小さな箱に目を向ける。


「これは……?」


ディランは微笑みながら、手をそっと差し出す。


「指輪だ。君は俺の婚約者だから」


確かに、形だけでもそうしないと…だよね。

形式上のことだと思いながらも、夕暮れの光に照らされた指輪の宝石…アレキサンドライトが緑から紫にゆっくりと変化する。

心の奥で、なぜか胸が少し高鳴る。


ディランはくすりと笑い、指摘する。

「形式上と思っている顔だね」


私は慌てて視線をそらす。

「違うのですか?」


ディランは真剣な眼差しで彼女を見つめる。

「それもあるけど……本当は、君にあげたかったんだよ」


「きれいなアレキサンドライトですね」


ディランも指輪を見つめながら、静かに言った。


「ああ……君は以前、言っていただろう。

“貴方の瞳はこの宝石みたいだ”って」


「ええ」


夕暮れの光を受けて、指輪の石がわずかに色を変える。

緑とも紫ともつかない、不思議な輝き。


「正直に言うとね」

ディランは少し視線を落とした。


「俺は、この瞳が好きじゃなかった。……いや、憎んでいたと言ってもいい」


胸が、きゅっと締めつけられる。


「王族の証だ、期待だ、役割だって。

この瞳を見るたびに、逃げられないものを突きつけられている気がしてね」


私は何も言えず、ただ彼を見つめる。


(私の知らないところで、この人はどれだけのものを背負ってきたんだろう)


「でも――」

ディランは顔を上げ、まっすぐ私を見る。


「君が言ったんだ。

“唯一無二で、かっこいい”って」


その言葉を思い出すように、少し照れた笑みを浮かべる。


「だからね……少しだけ、この容姿も、この瞳も、好きになれた」


夕暮れの光が、彼の瞳をやさしく照らす。

その色は、まるでアレキサンドライトのように、静かに揺れていた。



私の耳元で揺れるピアスに目をやり、少し笑みを浮かべるディラン。

「その耳に揺れるピアス……それは誰からもらったんだい?」


「えっと……セナです」

少し照れながら答える。


ディランは少し儚げに笑いながら言う。


「そうだと思った。少しジェラシーを感じたけど……でも君によく似合っている。まるで夜明けの空みたいだ」


「ありがとうございます。私も気に入っているんです」


私は柔らかく微笑むが、心の奥では、ディランの視線や言葉に、なぜか胸の奥がざわつくのを感じていた。



そしてディランは静かに輝く指輪を取り出す。


「なら、この指輪も受け取ってくれるかい」


夕暮れの光が指輪に反射し、オレンジ色の光が2人の手を包み込む。

私は戸惑いながらも手を伸ばす。

ディランはそっと私の指にはめ、指輪がきらりと輝いた。


「君によく似合っているよ」


「ありがとうございます」


夕陽に照らされて指輪が柔らかく輝く中、ディランはすっと跪いた。


「何事ですか?」


「プロポーズをちゃんとね?」

イタズラっぽく笑う。


「ほら、婚約発表するのにもそういうネタは必要だろ?」


「ネタとかいうんじゃない」

私は思わず顔をしかめるが、胸の奥は少し高鳴る。


ディランは深く息をつき、

真剣な表情で、私の手を取った。


その温もりだけで、

胸の奥が静かに引き締まる。


「ディラン・アレキサンドライトは、

ティアナ・ラピスラズリに、この指輪を捧げます」


指輪が、夕暮れの光を受けて淡く輝く。


「貴女と、

俺たちの大切な人たちが、

明るい未来を歩めるよう――誓おう」


そう言って、

彼はその指輪に、軽く口づけた。


「……相変わらず、様になりますね」


思わず漏れた言葉に、

殿下はわずかに口角を上げる。


「褒め言葉として、受け取っておこう」


夕暮れの光が、

私たち2人を包み込む。


街のざわめきは遠く、

今この瞬間、

世界には私たちしかいないようだった。


「さて……」


殿下が、やさしく促す。


「君の返事も、聞かせてくれるかい?」


……少し、悩む。


返事。

簡単に口にしていい言葉ではない。

まだ、自分の心の整理がついていないのも事実だ。


けれど――

迷いの先にあるものだけは、はっきりしていた。


「では……」


私は、顔を上げる。


「ティアナ・ラピスラズリは、

ディラン・アレキサンドライトと共に、

血反吐を吐いてでも、戦いましょう」


一瞬の沈黙。


「……なんだか、物騒だな」


殿下が、苦笑する。


「そうですね」


私も、少しだけ笑った。


「でも……今の私には、

これが一番、正直な言葉ですから」


夕暮れの空が、ゆっくりと夜へ溶けていく。

オレンジと紫が混ざり合うその色は、まるで指輪のアレキサンドライトそのものだった。


完璧な誓いではない。

甘い言葉でもない。


それでも――

確かに、ここにある。


並んで進む覚悟だけは、

もう、ちゃんとある。




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