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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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ちぐはぐデート4

ナナside


マルク様と初めてお会いしたのは、

もう10数年前のことになる。


庭の片隅で、

小鳥が息絶えているのを見つけた。


「……小鳥が……」


思わず声を漏らした私の横で、

少年だったマルク様が足を止めた。


「うわ、こんなところに……

触るなよ。素手で触ると菌があって危ないからな」


そう言いながらも、

彼はポケットから手袋を取り出す、

小さな穴を掘り、そっと小鳥を埋葬した。


土をかけ終えると、

汚れた手袋を見下ろして言った。


「……手袋、汚いな。これは捨てる」


「ありがとうございます」


そう伝えると、

彼はそっぽを向いたまま、ぶっきらぼうに返した。


「ちがう。

こんなところで腐られても困るからだ」


優しい言葉ではなかった。

けれど、その手つきは、とても丁寧だった。


マルク様は、見た目がよかった。

伯爵家の長男で、周囲にはいつも女性がいて、

不真面目で、遊んでばかり――

そんな評判ばかりが耳に入っていた。


それでも。

この人の優しさを知っているのは、

私だけだと、そう思っていた。


お茶会に誘われたとき、

本当に、嬉しかった。


気合いを入れて、赤いバラを用意した。

17本。


その数の意味を、

ユリア嬢に指摘された。


――「絶望的な愛」。


恥ずかしくて、

胸が潰れそうだった。


「譲りましょうか」と言われたことも。

市民から男爵家になったばかりの子に

教養もないと思われていたことも。


何より、

それをマルク様に知られたくなかった。


花の本数の意味も知らない、

無知で愚かな女だと思われるのが、

怖かった。


だから――

私は、めちゃくちゃにした。


けれど、そのことはあっさりと露見した。


ティアナ・ラピスラズリ。

マルク様の妹。


彼女は、事実を知ったうえで、

それをねじ曲げ、

誰も傷つかない形にまとめてくれた。


私の初恋を、

苦い思い出にしないでくれた。


それから、

ちゃんと話すこともできないまま、

10年近くが過ぎた。


ずっと抱えていた、不安。

嫉妬。

叶わない想い。


それらが、

宝石に引き寄せられたのかもしれない。


……それでも。


彼女は、また助けてくれた。

今度は…ちゃんと向き合いたい。



ティアナside


「ティアナ様、少しよろしいですか?」


ナナ嬢が、控えめにこちらを見る。


「はい」


私たちは席を立ち、

静かな別室へと移動した。


扉が閉まるなり、

ナナ嬢は私の前に立ち、深々と頭を下げる。


「助けていただき、本当にありがとうございました」


「いえ……気にしないでください」


すると彼女は顔を上げ、

少し躊躇ったあとで続けた。


「……10年前のことも、です」


10年前――

ユリアともめた、あのお茶会のこと。


「あれは、もう昔のことです」


私は首を振る。


けれどナナ嬢は、静かに言葉を続けた。


「自分の常識のなさを指摘されて……

そのとき、素直になれませんでした」


「そんな私に恥をかかせないようにしてくださったこと」


「ずっと、感謝していました。

そして……謝りたかったのです」


ナナ嬢はそう言って、俯いた。


私は少し考えてから、

穏やかに口を開く。


「でしたら……今度は、ユリアと一緒に

お茶会をしましょう」


ナナ嬢が、ぱっと顔を上げる。


「……よろしいのですか?」


「ええ」


一瞬、信じられないという顔をしたあと、

彼女は小さく、けれどはっきりと頷いた。


「……はい」


少し空気が和らいだところで、

私はふと思った疑問を口にする。


「それにしても……

ナナ嬢は、マルクと付き合いが長いのですか?」


「ナナ、で構いません」


彼女は微笑んだ。


「ええ。

なんだかんだで、長く一緒におりますね」


「では、ナナ」


私は苦笑する。


「こんなに長く一緒にいてくれるのは、

ナナくらいでしょうね」


「そうかもしれませんね」


ナナは少し照れたように笑ってから、

ぽつりと言った。


「マルクは、だらしないし、

不真面目で、遊んでばかりの怠け者です」


少しだけ間を置いて、


「でも」


彼女は続けた。


「とても、優しい人です」


湖での光景が、脳裏によみがえる。


ナナが落ちた瞬間、

迷いなく飛び込んだ兄の姿。


(……私は知らなかった)


マルクに、

あんなふうに誰かを想って、

即座に行動できる強さがあるなんて。


「私は……」


気づけば、言葉がこぼれていた。


「長く一緒にいたはずなのに、

兄のことを、何も知りませんでした」


ちがう、私は首をふる。


「知ろうともしなかった」


私とマルクはあまり似ておらず、私は愛人の子だと言われたこともある。母 マリアンヌの扱いもあからさまだった。

幼いころは、確かに一緒にいた。

前を歩いて、手を引いてくれた。


けれど、私が剣術や馬術に打ち込むようになってから、

何かが変わった。


突き放された、と感じた。


マルクは努力をやめ、

何事にも真面目に向き合わなくなった。

いつも周囲を困らせている。


それから私は、

兄に期待しなくなったのだ。


「……嫌われているんです」


ぽつりと、そう言った。


ナナは、静かに首を振った。


「そんなこと、ありませんよ」


その一言だけで、

胸の奥が、少しだけ温かくなった。


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