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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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ブティック グロウ2

馬車に乗りブティック グロウという店名の前でとまる。


時間を開けてもらうよう調整してもらったので、躊躇なくお店に入る。

店内には、色とりどりの美しいドレスや小物類が並び、ペルシャ絨毯が敷かれた上品な空間だ。

人気の服飾専門店で貸切にしてもらうのは、本来なら難しいことだ。


「ティアナちゃーん、いらっしゃい!」

奥から出てきたのは、フリルたっぷりのワイシャツにダークブラウンのパンツを合わせた、色白で背の高い男性。

ミルクティー色の髪はセンター分けで整えられ、中性的ながらも凛とした雰囲気を漂わせる。

ピンク色の瞳が色っぽい。

お姐言葉を使う彼はれっきとした男性だが、美意識が高く、顔立ちは非常に整っている。


「急にごめんね、ルイ。ちょっと急ぎの用事で」


「いいのよー!ティアナちゃんには本当にお世話になってるんだからぁ。むしろここまで来てもらってごめんなさいね。本来ならこちらから伺うべきだったのに」

ルイは綺麗な手を頬に当てて、柔らかく微笑む。


「大丈夫だよ。こっちが無理を言ったんだから」


「そう?ありがとうね」


「ルイに少し聞きたいことがあって…」


私が深刻そうに切り出すと、ルイも真剣な顔つきになる。


「部屋移動しましょうか、こっちにどうぞ」


個室のある部屋に通してくれた。


「ルイ、ここ最近ちょっと変わったことない?

ある宝石を身につけた人が、別人みたいに性格が変わるって話を聞いたんだけど……」


「実はその事で私も相談があって……実は“変な人”この前お店に来たわよ」


そう言って彼女は、思い出すように視線を泳がせた。


「ローブを深く被って、顔はほとんど見えなかったけど、右頬に大きい傷跡が印象的だったわ。

その人、ずいぶん怪しげな宝石を取り出して、“この店に置いてほしい”って頼んできたの」


「それで?」


「もちろん断ったわ。来歴も分からないし、見た目からして嫌な感じがしたもの。うちで出している宝石は全部ラピスラズリ家と繋がりのある宝石店から仕入れてるからね。でもそれ以上に困った事が……」


言葉を詰まらせながら店の奥を見る。

そこにいるのはルイの妹のエマだ。


―そこにいるのは、ルイの妹。


年の頃は十三、 四だろうか。柔らかな栗色の髪を結い、普段なら控えめな色合いのドレスを身にまとっている彼女だが。

今日はなぜか彼女らしくない派手な青のドレスで作業台の前に立っていた。


そして――胸元で、淡く鈍い光を放つ赤い宝石。


「……エマ?」


私が息を詰めて呟くと、ルイは小さく頷いた。


「ええ。エマよ。あの日の翌日から、様子がおかしくて」


「どんなふうに?」


「今までなら絶対に口答えなんてしなかったのに、急に強気になってね。視線も鋭くなったし、言葉遣いも荒くなった。服装も派手でまるで……別人みたい」


ルイは冗談めかしたお姐言葉を封じ、兄としての顔で妹を見つめている。


「その宝石は?」


「例のローブの人物が置いていったものよ。断ったはずなのに、いつの間にか裏口の前に箱があって……エマが“綺麗だから”って、つい身につけてしまったの」


胸元の宝石は、赤いルビーのような深い色合い。覗き込むと吸い込まれそうな、不快な奥行きがある。そしてはっきりと見える私にしか見えない’黒いモヤ’。

明らかによくないものだ。


「外させたの?」


「試したわ。でもね……」


ルイは唇を噛みしめる。


「触れようとしただけで、ひどく拒まれて。力も強くなっているみたいで……あの子、私を突き飛ばしたのよ」


空気が、ひやりと冷える。


噂は本当だ。

宝石が、人を変えている。


「ティアナちゃん…」


ルイが静かにこちらを見る。


「お願い。あの子を、元に戻したいの。宝石のこと、調べているんでしょう?」


私は一度、深く息を吸った。


「任せて。必ず外す方法がある」


そう言って、私はエマの方へ一歩踏み出した。


その瞬間――

彼女がゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。


その瞳は、確かにエマのものだった。

けれど、宿っている光は、まるで別の誰かのように冷たく、底知れなかった。

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