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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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ちぐはぐデート3

ナナ嬢の別荘に到着すると、

中から使用人たちがすぐに駆け寄ってきた。


「こちらをどうぞ」


手際よくタオルを渡され、

次々と体を包まれる。


……その瞬間。


「ひっくしゅん!」


思い切り、くしゃみが出た。


「ティアナ、大丈夫か?」


ディランがすぐにこちらを見て、

心配そうに眉を寄せる。


「は、はい……大丈夫です」


全然説得力はないと思う。


「とりあえず、着替えましょう」


ナナ嬢がそう言って、

自分の部屋からワンピースを持ってきてくれた。


「私のでよろしければ、ですが」


差し出されたそれは、

淡い色合いで、布地も柔らかそうな――


(……なんてお上品)


思わず見入ってしまう。


「助かります。ありがとうございます」


「いえいえ。

風邪をひかれては大変ですもの」




着替えを終え、私はそっと扉を開けた。


「……お待たせしました」


広間に出た瞬間視線が広がる。

ナナ嬢のワンピースは、

淡い色合いで、胸元や裾の刺繍も控えめ。

動くたびに、布がやさしく揺れた。


(……落ち着かない)


視線を感じて、思わず裾をつまむ。


最初に反応したのは――


「……」


ディランだった。


一瞬、言葉を失ったように目を瞬かせ、

すぐにいつもの穏やかな表情に戻る。


「……似合っている」


「……ありがとうございます」


短いやりとりなのに、なぜか胸がむずむずする。


その直後。


「……え?」


マルクが私を見て、固まった。


「な、なんだその格好」


「失礼ね」


「いや、そうじゃなくてだな……

普段と雰囲気が違うな」


「それ、褒めてる?」


「たぶん……?」


たぶん、とは。


ナナ嬢は満足そうに頷いた。


「よくお似合いですわ。

ティアナ様は、こういうお色も映えますのね」


「ありがとうございます……」


ますます居心地が悪い。


「それに比べて…」


「ん?」


マルクが振り返る。


……服が、変だ。


上はフリルのついたシャツ。

下はぴっちりとした半ズボン。


「……なに、その格好」


「いや! 俺もそう思うんだがな!?」


マルクは必死に言い訳する。


「上は“女性もので

下は“子供用だ!」


「ちぐはぐすぎます」


「俺だって好きで着てるわけじゃない!」


そこへ、ナナ嬢が申し訳なさそうに言った。


「ごめんなさい……

男性用はあまり置いていなくて……」


「い、いや! ナナ嬢が悪いわけじゃない!」


慌ててフォローするマルク。

だが、動いた拍子に――


びりっ。


「……」


「……今、音した?」


「し、してない! してないから!」


明らかに怪しい。


ディランは一連の様子を黙って見ていたが、

ふっと視線を逸らし、口元を押さえた。


「……ディラン、笑いました?」


「気のせいだよ」


「絶対笑った!」


私は思わず吹き出してしまい、

慌てて口を押さえる。

するとナナ嬢もクスクスと笑う。


「ご、ごめんなさい……」


「いいんだ……笑ってくれ……

もう……」


こうして別荘には、

ようやく本当の意味で、

緊張が解けた笑い声が戻ってきたのだった。


湯気の立つカップが配られた。


「どうぞ。身体が温まりますわ」


ナナ嬢はそう言って、穏やかに微笑む。


私は両手でカップを包み込み、

一口、温かい飲み物を口に含んだ。


「……はぁ」


思わず息が漏れる。


「生き返るな……」


「本当だ。湖に落ちたあととは思えない」


マルクも同じようにカップを抱えている。

さっきの奇妙な服装のせいで、

余計に間の抜けた光景だった。


「おい、妹!」


マルクがこちらを指さして声を張り上げた。


「なんですか?」


思わず首を傾げると、彼は眉を吊り上げたまま言う。


「お前まで湖に入ってどうする!?」


「それが一番、手っ取り早いかと思いまして」


即答すると、マルクは言葉に詰まったように口を開き、

すぐに閉じて、頭を抱えた。


「……そうじゃないだろ。

もっとあっただろう。他に。やり方が」


「うーぅ……」


小さく声を漏らし、視線を逸らす。

正論だ。反論の余地はない。


しばらく沈黙が落ちる。


マルクは深く息を吐き、

苛立ちを押し殺すように、低い声で言った。


「……だが、助かった。ありがとう」


その一言は、不器用で、ぶっきらぼうで、

それでも確かに本心だった。


私は少し驚いてから、

小さく微笑んだ。


「いえ」


その様子を見て、

ナナ嬢も一歩前に出て、深々と頭を下げる。


「本当に、ありがとうございました。

お2人がいなければ……」


「顔を上げてください、ナナ嬢」


そう言うと、彼女はゆっくりと頭を上げる。



しばらくして、

ディランが静かに口を開く。


「……さっきの湖にあったものだが」


その場の空気が、少しだけ引き締まる。


「魔女の雫、だな」


「はい」


私は頷いた。


「完全に浄化できました。

でも……引きずり込まれた理由は……」


そう言って、ナナ嬢を見る。


彼女はカップを見つめたまま、

少し間を置いて口を開いた。


「……私、ですか?」


「はい……」


私はゆっくりと言葉を選ぶ。


「魔女の雫は、人の負の感情に漬け込むものです。

強い感情を持つ人ほど、引き寄せられやすい」


私が話し終えると、

ディランが静かに続けた。


「ナナ嬢の気持ちに、

あれが反応したのだろう」


「そんな……」


ナナ嬢の指が、カップの縁を強く握る。


私はすぐに首を振った。


「でも、大丈夫です」


できるだけ明るい声で言う。


「もう浄化はできましたし、

今回はたまたま条件が重なっただけです」


安心させるように、笑ってみせる。


「運が悪かった、ただそれだけですよ」


「そうだぞ」


マルクも大きく頷いた。


「無事だったんだから、それでいい。

それ以上、考えることじゃない」


ナナ嬢は少し驚いたように2人を見て、

やがて小さく息を吐いた。


「……ありがとうございます」



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