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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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盟約1

ティアナ side


朝食を取りながら、新聞を広げる。


――リチャード・ファイアオパール、違法に闇カジノを経営。複数の被害者あり。


大きく載せられた見出しに、思わず目を細めた。


……早い。

想像以上に。


そして、新聞とは別に届いていた一通の手紙。

殿下からのものだ。


内容は簡潔で、慎重に選ばれた言葉ばかりだったが、

《魔女の雫》が関わっていたことを、遠回しに示唆していた。


世間には、この件は公表しないようだ。

まあ、証拠が完全に揃っていない状態で出せば、

混乱を招くだけだろう。


それに――


オパール公爵家は、魔女の雫を利用して武器を製作している。

問題は、リチャード一人では終わらない。


いずれは“上”を叩く必要がある。


「……殿下、仕事が早いですね」


ユウリがおかわりの紅茶を注ぎながら口を開いた。


「ほんと。敵に回したくない」


そう呟く私に、


「味方であれば、大変心強いのでは?」


ユウリが告げる。


「いや、どうだろう……」


カップを持つ手を止める。


「なんだか、弱みを握られそうで嫌だわ」


「お嬢様の弱みは、もう握られていますよ」


ユウリが涼しい顔で言い放つ。


「お酒を飲んで、醜態を晒した件です」


「言わないで……」


思わず頭を抱える。


あれは、なかったことにしたい。

切実に。


「でも」


ユウリは紅茶を置き、少しだけ真面目な表情になる。


「殿下は、お嬢様に関わる件については、随分と容赦がありませんね」


その言葉に、胸の奥がわずかにざわつく。


……確かに。


リチャードの件。

あまりにも、手際が良すぎる。


「偶然よ」


自分に言い聞かせるように、そう返した。

それよりもう一枚手紙が入っている。


◯日14時、お迎えに参ります。

盟約について、改めて話をさせてください。


ディラン



「盟約ですか…」


ユウリが呟く。


「ええ、婚約にあたって条件をいくつか詰めるのよ」


「そうですか」


ユウリはそれ以上何も言わなかった。




レイside

数日後。

殿下と盟約を交わすため、ティアナ様を殿下の隠れ家へと案内した。

ユウリさんも同行している。


「きれいなガーデンですね」


柔らかな声でそう言って、ティアナ様が微笑む。


季節の花が咲き誇る庭園は、殿下が数少ない安らぎの場として選んだ場所だ。

その空気に自然と溶け込む彼女の姿を見て、胸の奥が静かにざわめいた。


――やはり、この方は不思議だ。


「殿下が戻るまで、少しご案内いたしましょう」


「お願いします」


そのやり取りの後、ティアナ様は振り返り、穏やかにユウリさんへ告げる。


「ユウリ、ここで待っていて」


まるで、私が話したがっていることを察したかのように。


静かなガーデンを歩きながら、私は言葉を探していた。

護衛として、側近としてではなく――

一人の人間として、どうしても伝えておきたいことがあった。


「……殿下のやり方は、冷酷に感じたかもしれません」


歩みを緩め、口を開く。


「それでも宝石の被害を、これ以上広げないための最善の判断でした。

決して、ティアナ様を……駒だとは思っておりません」


言葉にした瞬間、自分でも意外なほど胸が張りつめた。


ティアナ様は、ゆっくりとこちらを見上げる。


驚くほど穏やかな表情で。


「わかってますよ」


その一言に、思わず息を止めた。


「殿下は、自分のやり方を隠さず、最後まで逃げ道を示してくれました。

まだ、引き返すこともできるって」


静かな声音。


「本のこともそうですけど……殿下は、私が自分と対等でいてくれることを期待していたのかもしれませんね」


そう言って、少しだけ肩をすくめる。


「まあ、その期待に応えられているかは分かりませんし、

そんなこと、私はあまり気にしていませんけど」


イタズラっぽく笑うその顔に、胸の奥がじんと熱くなった。


――そこまで、見抜いていたのか。


殿下の合理性も、冷酷に見える決断の裏側も。

誰よりも近くで見てきた私でさえ、時に割り切れなかった部分を。


「殿下なりの優しさだと、わかっています」


ティアナ様は微笑む。


「ただ……いつも、まどろっこしいんですよね」


その笑顔を見た瞬間、胸がわずかに揺れた。


この方は、殿下を拒絶してなどいない。

理解し、受け止め、なお隣に立とうとしている。


私はずっと思っていた。

彼女は、殿下に利用されることへの怒りを抱いているのではないかと。


だが、違った。


すべてを理解したうえで――

それでも共に戦うと、静かに覚悟しているのだ。


「……それを、殿下には?」


思わず尋ねていた。


知れば、殿下はきっと安堵し、喜ぶだろう。


だがティアナ様は、軽く首を横に振った。


「言いませんよ」


微笑みながら、あっさりと。


「私、殿下のこと……好きではないので」


その言葉とは裏腹に、

陽光に照らされた横顔はあまりにも柔らかく、美しかった。


彼女の胸元に、かすかな熱のようなものが揺れているのが分かる。

言葉では否定しても、

瞳の奥には、ほんの僅かな期待と好奇心が確かに宿っていた。


その矛盾が、胸を締めつける。


――殿下が、この方を手放すはずがない。


「……そうですか」



無邪気さと理知、優しさと強さ。

そのどれもが同居する複雑さを、殿下はきっと最初から見抜いていた。


ティアナ様は、少し頬を上気させて立ち上がる。


「では、そろそろ戻りましょうか」


歩き出す背中を見つめながら、私は無意識に息を呑んだ。

だが確かに――心を揺さぶられている何かがあった。

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