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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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それぞれの思いと覚悟

セナside


――ふざけるな。


最初に浮かんだのは、それだけだった。


殿下が跪いた瞬間。

周囲が凍りつき、次の瞬間には阿鼻叫喚に変わった、あの光景。


「……婚約?」


口に出す気にもならなかった。


第一王子。

王国。

政治。

責任。


全部、理解できる。

理解できるからこそ、余計に腹が立つ。


(昨日の今日で?)

(蝶の会の後始末も終わっていない)

(あいつは――)


無意識に、剣の柄を握っていた。


ティアナが、逃げなかったのを見た瞬間。

胸の奥が、ぎり、と軋んだ。


止める権利は、俺にはない。

彼女が選ぶと決めたことだ。


それでも。


「……巻き込むなよ」


誰にも聞こえない声で、そう呟く。


殿下を見る目が、自然と鋭くなる。


信用は、していない。

だが――昨夜、あの男が背負ったものの重さも、理解してしまった。


だからこそ、余計に厄介だ。


(守る対象が、増えたな)


そう思った瞬間、自嘲気味に息を吐く。


俺は騎士だ。

選ばれた“駒”じゃない。


だが、彼女が立つ場所が、さらに危険になるなら――

剣を引く理由は、どこにもなかった。


テオside


……あ?


今の、聞き間違いじゃないよな。


殿下。

跪く。

手を取る。

結婚?


(は?)


頭が一瞬、真っ白になって、次の瞬間には真っ赤になった。


(……殺すか)


自然に浮かんだ考えに、自分で笑いそうになる。

ああ、ダメだこれ。完全に本気だ。


昨日だぞ?

昨日、どれだけ危ない橋を渡ったと思ってる。

お嬢様とセナとユウリが何か動いていることは知っていただからこっそりついて行った。

宝石、共鳴、命の話。

それを全部見た上で――今日、これ?


(距離感ってもんを知れよ……!)


剣に手が伸びかけたところで、セナに止められる。

分かってる。

分かってるけどさ。


殿下の目。

あれは遊びじゃない。

本気で、お嬢様を見てる目だ。


――それが一番、気に食わない。


(俺の大事な人だぞ)


守るとか、背負うとか、覚悟とか。

そんな言葉を、簡単に使うな。


お嬢様は、選ぶ人だ。

だからこそ、奪われる気がして怖い。


……いや。


(違うな)


怖いんじゃない。

腹が立つんだ。


俺が必死で守ってきた時間に、

堂々と割り込んでくるその態度が。


でも――

お嬢様は、ちゃんと話を聞く顔をしていた。


(……くそ)


分かってる。

お嬢様が流される人じゃないってことも。

殿下の言葉を、鵜呑みにする人じゃないってことも。


それでも。


(泣かせたら、殺す)


それだけは譲れない。


王子だろうが、英雄だろうが関係ない。

お嬢様が傷つくなら、俺は敵に回る。


剣は抜かない。

今は。


でも心の中では、

とっくに臨戦態勢だ。


(覚えとけよ、殿下)


お嬢様の一番近くで、

一番最初に牙を剥くのは――

俺だからな。


ユウリside


……やはり、か。


殿下が跪いた瞬間、周囲は阿鼻叫喚だったが、私は少し落ち着いていた。


(……驚く必要はない)


10年だ。殿下が、お嬢様に本をこっそり贈らせていた年月。

政治史、魔導理論、共鳴の古文書、倫理学……娯楽書はほとんどない。

偶然ではなく、すべて計算された“教育”だ。


(ああ、この人は執念深い)


しかし、私は彼女を守る立場だ。

殿下が何を考えていようと、私の立場は傍にいて支えること。

――だから、少し距離を置く。好きだとしても、甘えてはいけない。


殿下は、ティアナ嬢を“手に入れたい”のではない。

“並べる存在に育てた上で、選ばせたい”。

その戦略の巧妙さが、余計に厄介だ。


(……本当に厄介な人だ)


だが、お嬢様は飲み込まれていない。

自分の意思で考え、判断し、条件を突きつけている。

強くて、計算高くて、欲深くて――それが、私の守る対象でもある。


(なら、守らねば)


立場を忘れれば、私も感情で殿下に向かうことができるだろう。

だが、執事として一歩引く。

それが、私の選んだ戦略だ。


10年分の執念を抱えた殿下、そして決して飲み込まれないお嬢様。

この婚約話は――静かな戦争の始まりだ。


私は、静かに息を吐き、肩を落とす。

好きで、でも傍にいるだけ。


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