プロポーズ1
「やあ、ティアナ嬢」
無駄にキラキラした笑顔を向けてくる。
「……殿下」
昨日の後処理もあったはずなのに。
そのわりに、ずいぶん爽やかだ。
「今日はお会いする約束はしていないはずですが」
「つれないな」
軽く肩をすくめる殿下。
でも、今後のことも話したい。
私は一歩も引かず、視線を合わせる。
「聞きたいことがあります。話す気、ありますか?」
殿下は一瞬だけ目を細め、それから楽しそうに笑った。
「もちろん。何でも話そう。
だがその前に、君に伝えたいことがあってね」
意味深な微笑み。
……嫌な予感しかしない。
「何でしょう……」
次の瞬間。
殿下が、私の目の前で跪いた。
そして、そっと私の手を取る。
――え?
な、何事!?
「双輝アレキサンドライト王国 第一王子、ディラン・アレキサンドライトは…
蒼紋ラピスラズリ伯爵家 長女、ティアナ・ラピスラズリ嬢に」
一拍置いて、はっきりと言い切る。
「結婚の申し入れに参りました」
「……はっ?」
「ティアナ嬢 俺と、結婚してくれないか?」
爽やかすぎる笑顔。
理解が追いつかず、完全に思考が停止する。
「「「はぁあああああ!?」」」
周囲から、発狂したような叫び声が一斉に上がった。
……それはそうなる。
私はまだ、殿下に掴まれたままの手を見下ろしながら、
心の中で静かに叫んだ。
――話したいこと、そういう方向じゃない。
「何言ってるの? あいつ処す処す?」
「そうですね、処します?」
テオとアレンが小声で物騒な相談をしている。
「やめなさい。この国の第一王子ですよ。処されるのは我々の方になります」
ユウリが即座に制止する。
「そんなことしないよ。ティアナ嬢の大切な騎士達だ」
殿下が苦笑しながら言った。
その瞬間だった。
――セナが、一歩前に出た。
表情はいつもと変わらない。
声も出さない。
だが、彼の肩がわずかに強張り、無意識に剣の柄に指がかかっているのを、私は見逃さなかった。
(……動揺してる)
珍しい。
セナが、感情を隠しきれていない。
周囲は完全に阿鼻叫喚だった。
「はぁ!? 結婚!?」
「殿下って今そんなノリなの!?」
「お嬢様が!? え!? ええ!?」
ロベルトが頭を抱え、アレンは「ちょ、ちょっと待ってください情報量が多いです!」と半泣き。
テオは完全にキレかけている。
「お嬢様に手を出すとか正気ですか!?」
「俺達許さないからな!?」
騎士団員達がわらわらと騒いでいる。
その騒ぎの中心で、セナだけは黙ったまま殿下を見ていた。
静かで、冷たい視線。
まるで一手間違えれば、本気で斬りかねない空気だ。
……これは、放っておくとまずい。
「あの! ちょっと待ってください」
私の声で、ようやく視線が集まる。
「とりあえず」
殿下を見る。
「2人で話しましょう」
殿下は一瞬、セナに視線をやり、
それから穏やかに頷いた。
「いいとも」
ユウリが即座に動く。
「お嬢様、こちらへ。人目のない場所へご案内します」
騒ぎを背に、私は歩き出す。
すれ違いざま、セナと一瞬だけ視線が合った。
――心配。
怒り。
そして、抑え込んだ焦り。
全部、そこにあった。
(あとでちゃんと話そうね、セナ)
鮮やかなバラが咲くガーデンへ向かう。
一度殿下と別れ、
私はアリスに手伝ってもらって紺色のドレスに着替える。
髪を下ろし、バレッタを留める。
……少しくらい待たせても、いいでしょう。




