表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/222

思惑

昨夜は蝶の会で遅くなり、今朝はのんびりと起床。

もう昼前だろうか。


ぼんやりと天井を見つめながら、昨日の夜の出来事が脳裏をよぎる。

煙、爆音、宝石、殿下の横顔――

思い出そうとすると、頭が少し重くなった。


コンコン、と控えめなノック音。


「お嬢様、お目覚めですか?」


「んー……おはよー、アリス」


扉が開き、アリスがいつもの穏やかな笑顔で入ってくる。


「だいぶお疲れですね。少し肩でも揉みましょうか」


そう言うが早いか、背後に回り込まれる。


「うー……気持ちいいぃ……い、いたいたいたいっ!」


「お嬢様、だいぶ凝ってますね」

容赦なく力を入れてくるアリス。


「もう、もう十分ですぅ……!」

ゴリュッ、って今すごい音しなかった!?

肩? 今、肩なの??


ちょうどその時。


コンコン。


「お嬢様、失礼いたします」


「ど、どうぞおおお……!」


変な声が出た。


「おはようございます……今、カエルが潰れたみたいな声がしましたが、大丈夫ですか?」


「カエルって……主人に向かってひどくない?」


「事実ですので」


しれっと言い切るユウリ。


特に気にした様子もなく、部屋に入ってくる。

昨夜あれだけ遅くまで動いていたはずなのに、疲れた気配は微塵もない。

髪も服もきちんと整っていて、相変わらず清潔感の塊みたいな人だ。


「体調はいかがですか?」


「……その顔、ずるいと思う」


「?」


「なんでもない」


アリスが一歩下がり、にこりと微笑む。


「お食事の用意をいたしますね。少し休まれたらお呼びください」


そう言って、静かに部屋を出ていった。


自室のカーテン越しに、やわらかな朝の光が差し込んでいる。

アリスが用意してくれた軽食をテーブルに広げ、私は椅子に腰掛けた。


焼きたてのパンの香り。

昨夜の出来事が嘘みたいに、部屋の中は穏やかだ。


向かいに立つユウリが、少しだけ言葉を選ぶようにして口を開いた。


「……昨夜のことですが」


「うん」


「お嬢様は、どう思われますか」


「どう、って?」


「殿下のやり方です」


私はパンを一口かじり、もぐもぐしながら考える。


「んー……」


少し間を置いて、正直に言った。


「冷静で、合理的だったね。

宝石の被害を、これ以上広げないための判断だったし、

感情を挟めば、もっと犠牲が出ていたと思う」


ユウリは静かに聞いていたが、やがて眉を寄せる。


「それでも私は…お嬢様を“駒”として扱ったことを、許せません」


その言葉に、私はきょとんとする。


「んー……それ、ちょっと違うな」


「え?」


今度はユウリがきょとんとした。


私はもう一口パンを食べてから、ゆっくり言う。


「あれはね、あの人なりの優しさだよ」


「……優しさ、ですか」


私は頷いた。


「あの人は、冷静で合理的な判断をして…

それを、ちゃんと私に見せた」


「これが自分のやり方だって。

変えるつもりはないって」


ユウリは黙っている。


「でもね…それを見せた上で、最後まで逃げ道をくれた」


私は指でパンくずを払う。


「まだ引き返せるって…

何も知らなかった頃の私に、戻してあげるって」


「……そんな思惑が、あったとは」


ユウリは、少し考え込むように目を伏せた。


「だから、まどろっこしいんだよ…殿下はさ」


その言葉に、ユウリが小さく息を吐く。


「……そのことを、殿下には?」


「言わないよ」


即答する。


「私のこと、試したんだもん…

本音で話すって言ったくせにさ」


私は人差し指を立てて、にやりと笑う。


「だから、これくらいの意地悪はいいでしょ?」


一瞬の沈黙のあと――

ユウリが、ふっと笑った。


「……お嬢様には、敵いませんね」


朝の光が、少しだけ強くなる。


昨夜の出来事は、まだ終わっていない。

それでも私は、自分の立っている場所を、ちゃんと理解していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ