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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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蝶の会再び3

セナside


煙が薄れ、騎士団の足音が遠ざかる。

ユウリがお嬢様を連れて先に下がり、残ったのは――俺と殿下だけだった。


夜風が、焼けた石と草の匂いを運んでくる。


「……殿下」


俺は、あえてそう呼んだ。

サーフェスでも、気さくな仮面でもなく。


殿下は足を止め、こちらを見た。

逃げも、誤魔化しもしない目だ。


「聞きたいことがあります」


「いいよ。君が黙っていられないのは、顔を見ればわかる」


俺は一度、拳を握り締めてから口を開いた。


「今回の件、理屈はわかります。

宝石に飲まれかけた連中を一箇所に集めて、核を壊す。犠牲は最小限だ」


殿下は黙って聞いている。


「ですが」

声が、少し低くなる。

「それを“守られる側”に知らせずにやるやり方は……俺は嫌いだ」


一瞬、沈黙。


「彼女――ティアナは、駒じゃない」


殿下の表情が、わずかに変わった。

だが、言い訳はしない。


「知っている」


「知ってて、巻き込んだんだろ」


「……ああ」


即答だった。


その潔さが、余計に腹立たしい。


「もし失敗していたら?」

「宝石の暴走が想定を超えていたら?」

「彼女が、間に合わなかったら?」


俺は殿下を睨む。

剣を向ける代わりに、言葉で斬る。


「そのとき、貴方はどう責任を取るつもりだった」


殿下は視線を逸らし、夜空を見上げた。


「王子としてではない。一人の人間として、だ」


それから、こちらを見る。


「君が斬りに来るなら、受けるつもりだった」


……本気だ。

冗談でも、演技でもない。


「彼女が傷つく結果になったなら。君が俺を許さないのは、当然だからね」


胸の奥が、少しだけ冷えた。

それはそうかもしれない。

お嬢様が進むと決めた…それでもだ。


「……殿下」


俺は深く息を吐く。


「俺は、貴方を信用しきれない。今回の判断が正しかったかどうかも、まだわかりません。

貴方が孤児院でのボランティアのときお嬢様の力を守ろうとしたことには感謝してます。

でもやはり…今回の件は納得できない。」


殿下は静かに頷く。


「それでいい」


「だが」

俺は一歩、距離を詰めた。


殿下の目を、真正面から見る。


「彼女を守りたいという目的は同じだ」


その言葉に、殿下はほんの少しだけ笑った。


「心強いな。君が味方でいてくれるなら」


「勘違いしないで下さい」

俺は言い切る。

「彼女の味方であって、貴方の部下になるつもりはない」


「それで十分だ」


夜風が2人の間を抜けていく。


この男は危険だ。

だが同時に――

逃げずに責任を背負う覚悟だけは、嘘じゃない。


「……一つだけ約束して下さい」


「何だい」


「次に彼女を巻き込むなら 必ず、選ばせろ」


殿下は、はっきりと頷いた。


「約束する」



まだ信用はしない。

だが――敵として斬る理由も、ない。


ティアナside


殿下の声が、夜に落ちた。


「約束する」


その一言のあと、空気がふっと緩んだのがわかった。

セナの広い背中がみえる。



ここで黙ったまま下がったら、きっと後悔する。

私は一歩、踏み出した。


「……待って」


自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。


2人が振り返る。

セナの目がわずかに見開かれ、殿下の視線が私を捉える。


「……聞いてたのか」


セナの問いに、私は頷いた。


「全部じゃないけど、でも、十分よ」


本当は、胸が少し痛かった。

“駒じゃない”と言ってくれたことも、

“私が傷ついたら殿下を斬る”という覚悟も。


私はこの人にずっと守られてきた。

彼を諦めさせたはずだ。そのための決闘だった…

だけど彼は私の見えないところでもまだ守ろうとしてくれてる。


「セナが怒るのも、心配するのも、当然だと思う」


私はまず、セナを見る。


「勝手に決められるのは、私も嫌。それは、本音」


それから、殿下へと視線を移す。


「でもね。今回のこと――私は、間違っていないと思う」


自分でも、少し強い言い方だと思った。

けれど、引かなかった。


「宝石に飲まれかけていた人たちを放っておいたら、もっと犠牲が出ていた」


煙の向こうで見た、虚ろな目。

宝石の光に呑まれかけた人たちの姿が、脳裏に浮かぶ。


「綺麗事だけじゃ、救えないこともある。

今日、それをはっきり見た」


私は、一歩前に出た。

殿下の隣でも、セナの後ろでもない場所。



「もうとっくに戦う覚悟をしたつもりだったの。

でもその考えが甘かったってきづいた」


拳を、きゅっと握る。

誰かの悪意で傷ついた人達の顔が浮かぶ。


殿下の目が、ほんの少し揺れるのがわかった。


「剣を振るう、って意味だけじゃない。

選ぶことも、責任を持つことも、全部含めて。」


私は、セナを見る。


「セナあなたが心配してくれてるの、ちゃんとわかってる。怒ってくれて嬉しかった」


だからこそ――


「大丈夫。私は、自分で選ぶ」


殿下へ、まっすぐに言う。


「共犯にでもなるし共闘もする」


言い切った瞬間、胸の奥がすっと静かになった。


「中途半端な覚悟で言ってるわけじゃない。

殿下が背負う覚悟を見たから……私も背負うって決めた」


沈黙。


最初に息を吐いたのは、セナだった。


「……本当に、止められないな」


その声に、少しだけ笑ってしまう。


殿下は、深く一礼した。


「選んでくれて、ありがとう。

君を“駒”として扱うことは、二度としない」


「ええ」

私は頷く。


「その代わり――」


一拍、置いて。


「同じ場所に立たせてください」


夜風が、3人の間を通り抜けた。


守る人。

守られる人。

そして、共に背負う人。


その境界線が、今、確かに塗り替えられた。


――選んで、立つ。仲間とともに…


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