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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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蝶の会再び2

ユウリside


お嬢様が「サーフェス」という男と話をしに行ったのを、確かにこの目で確認した。

その直後――ほんのわずかな間を置いて、爆破音が響いた。


「……っ」


嫌な予感が、背筋を走る。


お嬢様は?

思わずセナと顔を見合わせ、駆け出そうとした、そのときだった。


宝石に“飲まれかけた”人たちが、次々と通路へ溢れ出してきたのは。


虚ろな目。

不自然に光る胸元。

正気と狂気の境目で揺れている表情。


「……どういうことだ?」


混乱が一気に押し寄せる。

温室の方で何かが起きている。

それはわかる。でも――。


そう思っていると、群衆の向こうに、見覚えのある人物が目に入った。


「こちらです」


静かな、しかしよく通る声。


殿下の側近――レイさんだった。

すでに剣を抜き、周囲を掌握する立ち位置に立っている。


「ここは大丈夫です。我々、王国騎士団が処理します」


その言葉を合図にしたかのように、どこから現れたのか、騎士団員たちが一斉に動き出した。


数が多い。

しかも無駄がない。


宝石を狙い、迷いなく破壊。

暴走しかけた者を素早く制圧し、命を奪わないよう細心の注意を払っている。


――さすが、王国騎士団。

統制が取れている。

まるで、この事態を最初から想定していたかのように。


次々と事態は収束していき、混乱は急速に抑え込まれていった。


私はその様子を一瞬だけ確認し、レイさんの背中を追う。


「お嬢様は……?」


問いかけると、レイさんは歩みを止めずに答えた。


「ご無事です。殿下と一緒に、すでに館の外へ」


胸に溜まっていた息を、ようやく吐き出すことができた。


ならば、今は――

この夜の“裏側”を知る者として、前に進むしかない。

セナとはぐれてしまったが彼のことだ騎士団の様子をみてからくるだろう。


私は覚悟を決め、レイさんの後に続いた。



レイさんの後を追い、裏手の回廊を抜ける。

煙の匂いがまだ残っていて、遠くでは騎士団の指示が飛び交っていた。


その先に――2人の人影が見えた。


お嬢様と、あの男。

サーフェスと名乗っていた人物。


「……お嬢様」


無事なのを確認できたことに、胸が緩む。

だが、次の瞬間、視線は自然と“彼”へと向かっていた。


違和感。


最初に感じたのは、立ち姿だった。

ただの貴族客にしては、あまりにも隙がない。


煙の流れを背にし、自然と出口を確保する位置。

お嬢様を庇うようでいて、同時に周囲全体を見渡している。


――護衛の立ち方だ。


「……?」


さらに、騎士団員たちの反応。


彼らはサーフェスの存在を視界に入れているはずなのに、誰一人として警戒しない。

それどころか、無意識に距離を取り、進路を譲っている。


まるで――

“上位者”がそこにいると知っているかのように。


決定的だったのは、レイさんの一言だ。


「殿下、こちらはもう制圧完了しています」


……殿下?


思考が一瞬、止まる。


レイさんの視線は、迷いなくサーフェスへ向けられていた。

敬意を隠さない、臣下の眼差し。


サーフェスは小さく息をつき、苦笑する。


「やれやれ。やっぱり勘づかれるか」


その声色が、変わった。

軽薄さが消え、低く、よく通る、命令に慣れた声。


「ユウリ、だったね」


名を呼ばれ、背筋が凍る。


「黙っていてくれて助かる。今夜は、まだ“サーフェス”でいたい」


その瞬間、すべてが繋がった。


騎士団の動き。

完璧すぎるタイミング。

宝石を“壊すだけ”という選択。


そして――

お嬢様が、なぜ彼の隣にいるのか。


「……なるほど」


思わず、小さく呟く。


だから、あの人はあんな覚悟の目をしていたのか。


「失礼しました」

私は深く一礼する。


彼はわずかに目を細めた。


「気にするな…今は、彼女の無事が最優先だろう?」


その言葉に、私は頷いた。


サーフェスという仮面の奥で、

この国の王子は、すでに戦場に立っていた。

サーフェスの横にいるお嬢様に近寄り自分のジャケットをかける。



「お嬢様お怪我はございませんね」


「ええ、大丈夫よ。セナは?」


私の近くにいないセナを気にしているようだ。


「大丈夫かと思います」


彼のことだきっと大丈夫だろう。


殿下の言葉が静かに余韻を残す中、足音が近づいてきた。


重く、迷いのない足取り。

この状況でそんな歩き方ができる人間は、そう多くない。


「……やっぱり、ここか」


煙の向こうから現れたのは、セナだった。

剣を肩に担ぎ、多少の埃は被っているものの、怪我はなさそうだ。


「セナ」


互いに無事を確認するように、短く視線を交わす。


だが、セナの目はすぐに――

お嬢様の隣に立つ“サーフェス”へと向けられた。


一瞬。

ほんの一瞬だけ、空気が張り詰める。


「……随分と、場違いな位置に立ってるな」


セナの声は低い。

疑念と警戒が、そのまま滲んでいた。


殿下は気にした様子もなく、肩をすくめる。

「護衛役だからね。今夜は」


「護衛?」

セナは鼻で笑う。

「さっきの爆発、あんたの仕業だろ」


核心を突く言葉。


騎士団が動き、宝石が砕け、混乱が収束した。

ここまで揃っていれば、偶然では済まない。


殿下は否定しなかった。

「結果的には、そうなる」


その答えに、セナの視線が鋭くなる。

そして――ユウリへ。


「……ユウリ。まさか」


私は一度だけ頷いた。


「ええ。サーフェスさん――いえ、殿下です」


セナは一瞬、言葉を失った。


それから、短く息を吐く。

「……なるほどな」


剣を持つ手が、僅かに緩んだ。


「だから、騎士団があれだけ綺麗に動いてたわけか。

最初から、全部仕組まれてた」


殿下は静かに答える。

「仕組んだ、というより……終わらせに来たんだ」


その言葉に、セナは眉をひそめる。


「終わらせる、ね。

随分と乱暴なやり方だ」


「でも、殺してはいない」

殿下はお嬢様を一瞥してから、セナを見る。

「それが、君たちの一線だろう?」


沈黙。


セナは数秒考え――

やがて、剣を鞘に納めた。


「……貴方のやり方は好きじゃない。だが、結果は認める」


その視線が、お嬢様へ向く。


「それで?俺たちは、これからどう動く?」


殿下は微かに笑った。


「逃げる。そして、明日の朝には――何もなかった顔で再会しよう」


夜風が、煙を散らしていく。


それぞれが、同じ秘密を抱えたまま。


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