ティアナの反省1
ティアナside
日の光が窓から差し込み、目が覚める。
んー……なんだか、すごくよく寝た。
そう思いながら、ふと隣を見る。
「おはよ、ティアナ嬢」
瞼を擦りながら、こちらを見つめる殿下。
「お、おはようございます……」
――え、待って。
なんで私は、殿下と一緒に寝てるの??
頭が一気にフル回転する。
昨日は確か……色々あって、殿下の部屋でデザートを食べて、停電して、蝋燭の火で読書をして……。
それから、私は……何か飲んだ。
まさか、あれお酒だったの!?
そういえば、殿下が止めようとしていたような気もする。
そして私は酔って――殿下に、ものすごく失礼なことを言った
気がする。
――やばい。やばいやばいやばい。
「大丈夫? 百面相しているけれど」
「えっ、あ、その……た、大変失礼致しました!」
反射的に、ベッドの上で土下座する。
ど、どうしよう。
これ、相当まずいのでは!?
まさか……処刑とか、されないよね!?
心臓がバクバクと音を立てていた。
「気にしてないよ。まどろっこしいとか、冷めてるって言われたことなんて」
穏やかに笑う殿下。
――いや、気にしてるじゃん!!
「ほ、本当に申し訳ございませんでした」
「冗談だよ。こっちこそ、赤ワインを飲ませてしまって申し訳なかったね」
「あ、いえ……美味しかったです」
「もう絶対、何が何でも飲んじゃだめだよ。私以外の人の前ではね」
強い圧力を感じる。
「は、はい……」
「それにしても君は軽すぎるよ」
「え?」
「ベッドに移動させたときに君を抱えたが、
もう少し食べたほうがいい」
真剣な瞳で言われる。
「は、はい」
そう返事をしたときコンコン、とノックの音が聞こえた。
「失礼致します。おはようございます」
レイさんが入ってきた。
「おはよう、レイ」
「ティアナ様も昨夜は大変失礼致しました。殿下に何もされていませんね」
「え、何かしました!?」
ぐわっと殿下を見る。
「何も」
衣服も乱れていないし、何もされていないはず。
――っというか、モテモテで女性に困らない殿下が、私に手を出すわけないか。
……それもそうだよね。
「あの、私に処罰とかありますか?」
「とんでもない。こちらの不手際でワインを飲ませてしまい、申し訳ありません……お気になさらず」
レイさんの言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
はぁあ、良かった――。
これがもし父の耳にでも入ったら、しんどすぎる。
「私もティアナ嬢の貴重な意見が聞けて勉強になったよ。これからは、ストレートにいくつもりだから覚悟してね」
――いや、何の覚悟よ。
思わず心の中で突っ込みを入れる。
ささっと殿下の部屋から出た後、自室に戻ると、ちょうどユウリと出くわした。
「お嬢様、いままでどちらに?」
「いや、あの……」
言いにくそうに言葉を濁す私を、ユウリはじっと見つめる。
「まさか、殿下の部屋にいたのですか?」
「あの、これには理由がぁぁ……!」
思わず絶叫する私に、ユウリは落ち着いた声で宥める。
「とりあえず、部屋の中でどうぞ」
――はぁ、どうしよう、落ち着かなくて心臓がまだバクバクしてる。
でも、ユウリがいるだけで少しだけ安心する。
昨夜の出来事を説明する流れになった。
「まさか……お酒、飲んだんですね」
静かだけど、圧がすごい。
その一言だけで、昨日の記憶がフラッシュバックしかける。
「はい」
即答。言い訳する気力はもうない。
あー……と、ユウリは分かりやすく頭を抱えた。
その反応、完全に「やらかした部下を見る上司」だ。
「これは私の責任ですね。本当に……何もなかったですね?」
来た。核心確認タイム。
私はぶんぶんと首を振る。
「うん、大丈夫だよ。だって殿下だよ?
選び放題の殿下が、私に手を出すわけないでしょ!」
……言い切ったけど、今さらながら自分で言ってて失礼じゃない?
いやでも事実だし。多分。きっと。
「……わりと一番要注意人物なんですけどね」
「なに?」
今、さらっと怖いこと言わなかった?
聞き返すと、ユウリは何事もなかったかのように続ける。
「まあ、いいです。でも、よく眠れたようですね」
確かに。
意外にもぐっすり眠れて、目覚めはすこぶる良好。二日酔いゼロ。
……殿下の部屋で爆睡してたはずなのに、この快適さは何?
盛大にやらかした自覚はあるけど、体調だけは完璧だった。
私は気持ちを切り替え、身支度を整えながら荷物をまとめる。
昨夜の自分、頼むからもう二度と酒を飲むな。
そのとき、
コンコン。
控えめなノックの音。
「おはようございます」
「あ、トワ。おはよう」
「昨日は先に寝てしまって、すみません。起きたころには、もうお姉様はいらっしゃらなくて」
申し訳なさそうな顔。
その純度の高い謝罪、私の荒れた心に効く。
「いいのよ。疲れてたんでしょう?仕方ないわ」
「すごく楽しみにしていたので……少し残念です」
……その一言で罪悪感が増すんだけど。
私、何してたんだろうね昨夜。
すると、空気を読まない声が飛んできた。
「あれー、トワ坊ちゃん。俺たちと楽しい夜を過ごしたじゃないっスか!」
楽しそうに話すレオ。
「もちろん、トランプは楽しかったですよ!
ユウリさんが一番強かったですよね」
「それはまあ……経験値ですね」
さらっと答えるユウリ。
いや経験値って何年生きてたらそんな強さになるの。
「ほんと、すごく強かったわよね」
ルイが言うと、レオは悔しそうに拳を握る。
「俺もまたリベンジしますよ!」
どうやら私が記憶を飛ばし、人生の反省をしている間に、
4人は4人で健全かつ平和な夜を過ごしていたらしい。
……うん、よかった。
少なくとも黒歴史は、私一人分で済んだようだ。




