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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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嵐の夜に10

殿下の視線から逃れるようなら口を開く。


「蝋燭はありますか?」


立ち上がりながら、手探りで近くを探す。


「俺がやろう」


殿下も立ち上がり、引き出しから蝋燭を取り出すと、慣れた手つきで火を灯した。

揺れる蝋燭の炎の中に、ルビー色の瞳が映り込む。


「エメラルドの瞳を持つ人は、皆、暗闇では殿下のようにルビーのような色になるのですか?」


「いや、俺だけだよ。初代アレキサンドライト国王がそうだった、という話は聞いたことがあるけどね」


「そうでしたか……唯一無二で、格好いいですね」


思ったままを口にすると、殿下は一瞬だけ目を細めた。


「君にそう言われると、この瞳も悪くないと思えてくる」


蝋燭を持った反対の手が、そっと私の髪を掬い上げる。

指先が触れた瞬間、心臓が小さく跳ねた。


ルビーの瞳が、真っ直ぐに私を映している。

その奥で、何を考えているのかは読み取れない。


――と、その時。


小走りの足音が近づいてきた。


「殿下! ご無事ですか?」


灯りを手にしたレイが、慌てた様子で部屋に入ってくる。


「ああ、大丈夫だ」


殿下は静かにそう答え、私の髪からそっと手を離した。



「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。落雷の影響で停電しておりまして、今夜はこのままになりそうです」


レイさんが、申し訳なさそうに頭を下げる。


「大丈夫ですよ」


「灯りはお持ちしましたので、ご用意いたしますね」


そう言って、持ってきた洒落た蝋燭に手際よく火を灯していく。

柔らかな光が増え、部屋は先ほどよりもずいぶん明るくなった。


「レイ、ティアナ嬢はこちらで本を読むそうだ。飲み物を持ってきてくれ」


「かしこまりました」


レイさんは一礼すると、足早に部屋を出ていった。


部屋で読んでもよかったけれど、灯りをいくつも用意するのは確かに大変だろう。

ここは素直に、この場所をお借りすることにしよう。


「不便をかけるが、ゆっくりしてくれ」


「お気遣いありがとうございます」


殿下はそう言って別の本を手に取り、読み始めた。

それを合図に、私もそっとページを開く。


蝋燭の炎が静かに揺れ、

雷鳴だけが、遠くでこの静寂をかすかに揺らしていた。


集中して本を読んでいたが、どれくらい時間が経ったのだろうか。

ふと視線を落とすと、いつの間にか飲み物が置かれている。


あ、置いてくれてたんだ。

ちょうど喉も渇いていたし、ありがたい。


「いただきます」


「あ、それは――」


殿下が何か言いかけたが、蝋燭の淡い灯りでよく見えないまま、私は口にしてしまった。


甘い葡萄の香りに、ほのかな酸味。

イチゴのような後味もあって、とても美味しい。


……気づけば、全部飲み干していた。


そして私は、この選択を激しく後悔することになる。


体が、ぽかぽかと熱い。

視界が、ぐわんぐわんと揺れる。


(……あれ?)


目の前を見ると、殿下が心配そうな顔でこちらを見ている。

いや、それ以前に――言いたいことが、ずっと胸に溜まっていた気がする。


なんだか、今なら何でも言えそうだ。

勢いに任せて、言ってしまおう。


「ティアナ嬢、大丈夫かい?

 それ、俺の赤ワインだよ」


「だったら……なんですかぁぁ?」


「あらら」


足元がおぼつかないまま、のらりくらりと立ち上がり、殿下の方へ歩く。


「殿下ぁぁ……」


「……蝋燭の火、気をつけてね」


どうやら、テーブルの上の蝋燭を気にしてくれているらしい。


(そんなの、今どうでもいいのに……)



ソファに座っている殿下の前まで詰め寄る。


「前から思ってたんですけど」


「うん」


「殿下、やることがいちいち回りくどいんですよ!」


少し前屈みになって指を突きつける。


「本だってそうです。どうしてユウリに預けるんですか。直接渡しにくればいいじゃないですか!

……まあ、10年も気づかなかった私が一番アホなんですけど」


勢いで言い切ると、殿下は目を瞬かせ、それから困ったように――いや、楽しそうに笑った。


「今度からは、直接持って行くよ」


「そういうところです!」


なんでそんなに穏やかにニコニコしていられるんだ、この人は。


「殿下って、いつも笑ってますけど……内心、すごく冷めてますよね」


「うーん」


自分の頬を指でかきながら、殿下は少し考える素振りを見せる。


「そうかな」


その仕草すら余裕があって、腹が立つ。


感情を隠して、穏やかに振る舞う。

それ自体は、私も似たところがあるからわかる。


でも殿下のそれは、少し違う。


もっと深いところが、冷たくて暗い。

良い意味でも悪い意味でも、何事にもどこか無頓着で、距離を置いている感じがする。


――まあ、それも仕方ないのかもしれない。


王族という立場。

常に見られ、測られ、利用される世界で生きているのだから、感情を剥き出しにする方が無謀だ。


「殿下の立場なら、全部に本気になるなんて無理ですよね」


少し声のトーンが落ちる。


「取り繕って、感情を隠して……そうしないと生き残れない」


殿下は、そこで初めて笑うのをやめた。


「……ティアナ嬢は、俺をよく見ているね」


低く、静かな声。



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