嵐の夜に8
「次は何が聞きたい?」
殿下が首を傾げる。
「あの人が誰なのか、教えてください」
「随分直球だな」
「話す気がないのであれば、デザートを食べ終わり次第、退室させてもらいます」
そう言って、フォークでシフォンケーキをつつき、一口頬張った。
「つれないな。……まあいい。
“あの人”というのは、俺の叔父――ガイル・アレキサンドライトだ」
ガイル様は、現国王ジョルジュ・アレキサンドライトの次男である。
長男である殿下のお父様はすでに亡くなっている。
「ですが……なぜガイル様が殿下を?」
殿下をどうにかしたところで、何が変わるというのか。
なぜ暗殺まで企てる必要があるのか――。
「ティアナ嬢、王位継承権が認められる条件を知っているかい?」
「はい。王族の血筋であることと、
瞳の色がアレキサンドライトと同じエメラルド色であること、ですよね」
ジョルジュ陛下は、このアレキサンドライト王国の発展に大きく貢献してきた名君だ。
彼がいたからこそ、国はここまで繁栄したと言われている。
そして陛下自身も、エメラルド色の瞳を持っていた。
だが息子たちはその瞳の色を受け継がず、
唯一、孫である王子ディラン殿下だけがエメラルドの瞳を持って生まれた。
「そう。だからジョルジュ陛下の息子である叔父は、王位継承権から外されている。
ガイル伯父上はそれを疎ましく思っていてね。
陛下に従順なふりをしながら、密かに王の座を狙っているのさ」
「それは……また」
殿下は優雅に紅茶を口に運び、静かに足を組む。
その所作はあまりにも落ち着いており、まるで自分の身に起きていることではないかのようだった。
私は紅茶を少し口に含みながら、思考を巡らせる。
――ジョルジュ陛下は、非常に頭の切れる人物だと聞いている。
しかも、陛下自身がディラン殿下を次期国王として推している。
そんな人物が、
自分のすぐ身近に危険な存在がいることに――
本当に気づいていないはずがあるのだろうか。
「ジョルジュ陛下は、ガイル様の仕業には気付いていないのですか?」
思わず問いかける。
ディラン殿下は肩をすくめる。
「うーん、気付いてはいるよ」
私は眉をひそめる。
「それなら、なぜそのままにしているのですか?」
殿下は静かに説明する。
「確実な証拠がないのもあるが、ガイル伯父上は紅輝オパール公爵家とも繋がりが深くてね。軍事用の武器や兵器の開発や整備に関わっているんだ。ジョルジュ陛下もその功績を評価している」
なるほど、だからすぐには手を出せないということか。
オパール公爵家ってこの前私がお見合いしたリチャードの家じゃないか…
「下手に動けば、国の安全保障に影響しかねない、ということですね」
そういうと殿下は静かにうなずく。
「それもあるし、あとは純粋に、自分でどうにかしてみろ、という意味もあるのかもしれない」
殿下は紅茶を置き、静か私を見つめる。
その言葉に、ほんの少し胸の奥がざわつくのを感じた。
確かに、ただの政争ではなく、この国の未来をかけた緊張感の中で動いているのだ。
そして自分たちも、知らず知らずその一部になっている。
「……なるほど、難しい問題ですね」
私は視線を下ろし、指先でカップを回す。
「このままでよろしいのですか?」
思わず口に出してしまった。
こんな近くに危険な存在がいるのに、何もしないままでいいのだろうか、と。
殿下は肩をすくめ、軽く微笑む。
「よくないね。それについては追々かな」
言葉は軽く聞こえるが、確かに計画はあるようだ。
しかし、その内容を教えるつもりはなさそうだ。
これは機密事項だ。
たとえ聞いたところで、自分にできることは限られている。
殿下もこれ以上は話すつもりはないだろう。




