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夜明けが世界を染めるころ、 悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない  作者: 舞響


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嵐の夜に6

正直に言えば――

まだ、どこか納得がいかなかった。


私は残っていたメインのお肉を、最後まできちんと食べ切る。

冷めていても、レオの料理はやっぱり美味しい。


「レオ、ありがとう。

君は料理だけでなく、武術の心得もあるようだね。助かったよ」


殿下は涼しい顔でそう言い、まるで少し席を立った客に礼を言うような口調だった。


「い、いえ!」


レオは少し照れながら、デホラを殿下の騎士たちに引き渡す。


縄で拘束され、床に引き倒されるデホラ。


殿下はナプキンで口元を拭い、静かに立ち上がった。


「さて――

一応、聞いておこうかな」


穏やかな声。


「誰が私を殺せと命令した?」


一拍置いて、続ける。


「男爵から伯爵、いや……

公爵にでもしてやると言われたのだろう?」


デホラの肩が、びくりと跳ねる。


……図星だ。


「全く、あの人は懲りないな」


殿下は、どこか呆れたように息を吐く。


「わ、私は何も知らない……!」


デホラは必死に首を振り、殿下から視線を逸らす。


「そうだろうね。

あの人は証拠を残さない」


淡々とした声。


「だからこちらも、なかなか手が出せないんだ。

――さて、今なら自白する機会をあげよう。どうだい?」


「言うわけないだろう!!」


デホラが叫ぶ。


「お前は何も知らない!

この国の行く末をな!!」


高笑いしようとして――

突然、その声が歪んだ。


「……あ、が……っ」


苦しそうに喉を掻きむしり、身体を折り曲げる。


「なに……?」


私が息を呑む。


デホラの胸元から、

黒い靄が噴き出した。


「ぐ、あああああああっ!!」


宝石が、浮き出てくる。


否――

浮き出ているのではない。


宝石と肉体が、一体化している。


血管のように黒い筋が全身を這い、

宝石は脈打ち、増殖するように侵食を広げていく。


今まで見てきたどのケースよりも――

圧倒的に、ひどい。


「……これは……」


言葉を失う。


殿下は、微動だにしなかった。


「やはりね。

口封じか、それとも……保険か」


冷たい声。


その瞬間。


「レイ」


殿下が、短く呼ぶ。


「はっ」


一切の迷いもなく、

レイさんは腰の剣を抜いた。

「静寂を保て アメジスト」


紫水晶の紋様が刃の内側に浮かび上がり、

音のない波紋。


「待っ――」


誰かが声を上げるより早く。


――閃光。


鋭い剣閃が走り、

宝石だけを正確に貫く。


砕け散る音。


黒い靄が、悲鳴のように霧散した。


「……あ……ぁ……」


デホラは、そのまま力を失い、床に崩れ落ちる。


目は虚ろ。

意思も、感情も、そこにはもうない。


……生きてはいる。

けれど、廃人だ。


剣を収めながら、レイさんは淡々と告げる。


「侵食が脳まで及ぶ直前でした。

これ以上放置すれば、暴走していました」


「ご苦労」


殿下はそれだけ言う。


私は、背筋に冷たいものを感じながら思った。


――やはり、この人は。

最初から、すべてを読んでいた。


そして同時に。


「誰の差し金か」

その答えも、もう殿下の中では

はっきりしているのだろう。


騎士たちが手際よく後処理を始める。

床の血痕も、砕けた宝石の欠片も、まるで最初から存在しなかったかのように片づけられていく。


……さすが王族の現場対応だ。


メインディッシュは食べ終えたし、これ以上ここにいる理由もない。

そう思って席を立った、その時。


「おや、デザートはまだだよ。ティアナ嬢」


にっこりと微笑む殿下。


……この状況で甘い物を勧める神経、どうなってるの。


「殿下が言っていた“あの人”について教えてくださるなら、ご一緒しますけど」


半分は本音、半分は牽制。

どうせ、はぐらかすつもりだろう。


その場合は、レオに頼んでデザートを部屋まで運んでもらえばいい。

甘い物は好きだけど、無駄な付き合いは御免だ。


「いいよ」


あっさり。


「君ともう少し一緒にいたいし、別室でデザートを食べながらゆっくり話そうか」


……この人、本当にさらっと言う。


「一緒に居たい」なんて、王子が軽々しく使う言葉じゃないでしょうに。


内心ため息をつきつつも、私は肩をすくめた。


「……教えてくださるなら、付き合います」


「決まりだね」


殿下は満足そうに頷き、レイさんに視線を送る。


「静かな部屋を用意して。

あとレオのデザートも運んでくれ」


「かしこまりました」



――あの人。

宝石を操り、証拠を残さず、

貴族すら駒として使い捨てる存在。


殿下がそれを語るというのなら。


きっと、甘いデザートより

よほど苦い話になるだろう。


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