嵐の夜に4
ティアナ side
レイさんが迎えに来てくれたのはいいけれど――
その、あまりにも良い身体つきに、つい目がいってしまった。
特に大臀筋。
まじまじと見ていたら、しっかりバレてしまった。
挙句の果てに、
「殿下のことは嫌いですか?」なんて聞かれてしまい、
どう答えれば失礼にならないのか、頭をフル回転させる羽目に。
怒っている様子はなかったし、
とりあえずは……乗り切れた、と思いたい。
そうこうしているうちに、トワとユウリ、ルイがいる部屋に到着した。
「みんな入るよー」
そう告げて扉を開ける。
ルイが少し困ったように笑う。
そこには、ベッドの上で眠り込んでいるトワの姿があった。
規則正しい寝息。相当、疲れていたのだろう。
「……これは起こさない方がよさそうですね」
「そうですね」
レイさんは状況を一目で把握すると、すぐに判断を下す。
「では、レオさんの作ったお食事をこちらにお持ちします」
そう言って、近くに控えていた侍女に指示を出す。
同時に、レオにも早急に伝えるよう手配しているようだった。
手際がいい。さすが殿下の側近だ。
「ありがとうございます」
「ユウリ、トワのそばにいてあげて。
ルイも疲れただろうからここでゆっくりして」
「かしこまりました、お嬢様」
「わかったわ」
ユウリは柔らかく頷き、ルイも返事をし静かにベッド脇へと向かう。
それを確認してから、私はレイさんと共に部屋を後にした。
「殿下、失礼いたします。ティアナ様をお連れしました」
「うん、待っていたよ」
すでに席についていた殿下は、穏やかな笑みを浮かべてこちらを見る。
「お待たせいたしました。ドレスまでご用意いただき、ありがとうございます」
「気にしないでくれ。とてもよく似合っている」
さらりと言われて、思わず視線を逸らしてしまう。
レイさんが椅子を引いてくれ、殿下と向かい合う形で席に着く。
「殿下。トワ様がお休みになられたため、ユウリ様とルイ様はお部屋でお食事を取るよう手配いたしました」
「そうか。きっと疲れたのだろう」
短く、だが思いやりのある返答だった。
そのとき――
「失礼しまーす! お食事お持ちしました!」
元気いっぱいの声と共に、レオが入ってくる。
殿下の前だというのに、まるで気後れした様子がない。
……ある意味、すごい。
事情はすでに伝わっているようで、2人分の料理を手際よく並べていく。
「美味しそうだね」
殿下が素直に感想を漏らす。
「ありがとうございます!
前菜は、スモークサーモンとクリームチーズのカクテルサラダ、それから帆立貝のパートフィロー包み、鴨肉のカルパッチョです!」
色とりどりに盛り付けられた料理は、目にも楽しい。
香りもよく、自然と食欲をそそられる。
――さすが、レオ。
殿下はしばらく料理を眺めてから、私に視線を向けた。
「では、いただきましょう」
「はい、いただきます」
一口運ぶ。
……おいしい。
さすがレオだ。
思わずナプキンで口元を拭いながら、殿下には見えないよう膝の下で小さくガッツポーズをする。
それに気づいたレオが、誇らしげに胸を張った。
「素晴らしい。とても美味しいよ」
殿下は感心したように頷く。
「彩りも鮮やかで、見た目も美しい。
慣れない環境と限られた時間の中で、ここまで仕上げられるとは……さすがだね。
本当にスカウトしたくなる」
「いえ! ご用意してくださった材料が一流品ばかりでしたし、
周りの方々もとても親切で……楽しく作れました!」
レオは屈託なく笑う。
「でも、俺はお嬢様の専属料理人なので!
スカウトされても行きませんよ!」
……レオ、ありがとう。
引き抜かれたら、本当に困る。
「冗談だよ」
殿下が肩をすくめる。
「可愛い顔でこちらを威嚇する子猫がいるからね」
――誰が子猫だ。まったく。
食事は滞りなく進み、スープを飲み終えたころまたレオが入ってきた。良い香り。
「それでは、次はメインです。
牛フィレ肉のソテー、赤ワインソース添えになります」
レオが皿を並べた、その瞬間。
ゴロゴロ――
ガシャーン。
雷鳴が屋敷を揺らす。
ひどい嵐だ……と、そう思ったのも束の間だった。
――バンッ!
勢いよく扉が開く音が響き、思わずそちらを見る。
空気が、一瞬で変わった。




