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【ちくわ侍】
第一話
【ちくわ侍】
夜風が竹林を揺らす。
辺りは深い闇に沈み、月だけが淡い銀色の光を投げかけていた。
時折、竹の葉が擦れる音が静寂を裂くが、それもすぐに闇に吸い込まれていく。
そんな闇夜の中、静寂を裂いて”ちくわ”を咥えた中年が颯爽と現れた。
名は、笹山 竹定。
竹定は身に着けた海苔の袴を翻し、真ん中の空洞を鋭い眼差しで貫いている。
彼は代々伝わる秘伝の剣術「ちくわ流」の継承者であり、幕府に使える武士だ。
この流派の最大の特徴は、敵の攻撃を中央の「穴」で受け流し、相手の虚を突くことにある。
そしてちくわが持つこの絶対的な「空」と「柔」を彼は哲学的な領域まで高めていた。
彼の剣は、守りであり、攻めでもあった。
日が落ちて一刻が過ぎただろうか。
竹定が竹林を抜けた先に、古びた社の鳥居が見える。
里の境を守るこの場所で、彼は里に災いをなす者との対決を予期していた。
近頃この地の平和は乱されており、里の豆腐や油揚げが次々と不当に持ち去られ、人々は恐怖に震えていたのだ。
その背後には、恐ろしい忍の影がある事を知る由もないのであった。
つづく




