其の三 この世への未練
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目が覚めると、俺は畳の上に寝かされていた。
見回すと、どうやら神社の社の中のようであった。
目の前には、いわゆる精進料理の様な食事が用意されていた。
「目が覚めたか、人の子」
ふわりと白檀の香りが漂い、
先ほどの銀髪の少年が、何もない空中から俺の視界にフェードインしてきた。
「で、ででで出たっ!!」
俺は驚いて、声がうわずってしまった。
「おやおや、御主、まるで我を幽霊のような……愉快な奴よの。ますます気に入った」
「…あの……えっと、これ夢じゃないん…です…よね?」
「ほう、夢ときたか……ある意味、当たっているかもしれぬな」
神と名乗る少年は、袖で口元を隠し、どこか思案しているようであった。
「ある意味…?」
「御主の分かるような言葉で言うなら…そうさな、ここは、この世とあの世の間の様な場所よ」
「………は?俺、死んだってこと…?…え、ちょ、ちょ、ちょっと!!ちゃんと説明してくれ……くださいよ!!」
「御主、我の話を忘れたか?御主も人ならざるものになってもらうと…聞いておらなんだか?」
「は…?全然分からない…え、何、俺に死んで幽霊になれってこと…?」
「まぁ、遠からずだな。要するに、我と同じ世界の住人になってもらう、そういうことだ」
…全然分からない。
俺がなぜここに寝かされているのかも、そして目の前に食事が用意されているのも……
「俺…もしそれにオッケーしたら、どうなるんですか…?」
喋りながら、気が付くと、俺の目には涙が溜まっていた。
「御主…本に愛いの…案ずるな、取って食ったりはせん。むしろ、先にも言うたが、食うには困らない様にしてやろう。ただ…」
「ただ…?」
「我と暮らすと言うことは、今の現世での繋がりは断ってもらう。下野に暮らす、母君とも会えなくなるということだ」
「は…?」
「御主、人の世に絶望して、それ故に少ない有り金を我に供えたのであろう?悪い話ではないのではないか」
言われてみれば、納得する部分もあった。
俺の母親はシングルマザーで、昼夜を問わず働いて、なんとか俺を大学に入れてくれた。
それなのに俺は…折角の仕送りを度々パチンコ屋でスッてしまう大馬鹿者だ。
正直、母親に会わせる顔が無い。
「……ったよ…」
「…御主、今なんと?」
「分かったって言ったんだ!!俺を、あんたの妻にしてくれ!!……これでいいんだろ!!」
銀髪の少年、もといこの神社の神は、
その言葉を待っていた、とばかりにニヤリと笑った。
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