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アスイェ•Asyeh  作者: 新城凪
その三:成長は痛みを伴う
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第二十一話:唯一の注意事項

アスイェとセラフィナの会話はいつもいつも突然始まる。

彼は本を読み、セラフィナは隣で静かに座っていた。

最近セラフィナの身長が伸びて、もう少女の姿になった。

セラフィナ自身はあまり気にしていないが、最近は服装も変わり、いつの間にか、アスイェのマントの下に入ることも、抱き上げられることもなくなっていた。

時々セラフィナは自分から近づき、アスイェも拒まず応じた。

だが、それでもセラフィナは少し苛立っていた。

さっきセラフィナが甘えようとしたが、返ってきたのは「お腹がすいているのか」という言葉だった。

「違うの……」

「なら少し待って」

セラフィナは本当に待っていた。

ただ足を揺らして、待っていた。

その気分はあまりよくなかったが、アスイェがそう言うなら、少女は待つことができた。

アスイェの一言でイライラしていた気持ちは少しだけやわらげた。

アスイェが本を読み終えたのは、セラフィナが我慢できなくなる前だった。

「……さっきから我慢してるな。どうした?」

「……我慢してない!」

「嘘をつく子は、好きじゃない」

セラフィナは口をつぐんだ。

少ししたら、セラフィナは自分が空腹だと認めた。

顔を下げ、言ってはいけないことを口にするようだった。

「……一つだけ、教えてやる」

セラフィナはまた顔を上げた。

「俺の血以外、飲むな。どんな時でもだ」

「なんで?」

「お前が小さい時、俺の血しか飲めない……」

セラフィナはアスイェを見つめた。

「ほかの血を嗅いでも、吸血衝動を抑えられるか……?」

そう簡単に言うが、少女は唇を噛んだ。

少女はアスイェに「できない」とは言いたくなかった。だが、さっきはできなかった。

「ほかの血は飲まない、アスイェの血がいいから……」

それは答えというより、甘えだった。

「うん。少し訓練が必要だ」

「……いまからなの?」

「そう、今から」

セラフィナはアスイェに連れられて、彼の書斎に入った。

灯りのない書斎は、夜そのものに溶けていた。灯りをつけても、薄い光がアスイェの髪を照らすだけで、ほかはなお暗い。セラフィナには表情がよく見えなかった。

アスイェは古い箱から瓶をひとつ持ち出した。

「もっと近くにくればいい」

いつの間にかアスイェは手を離し、セラフィナは扉の近くで足を止めた。

セラフィナはゆっくりと足を動かし、一歩一歩、まるで雪の上を歩いているような気がした。

——匂いがする。

吸血鬼にとって抗えない、錆びた鉄の匂い。

セラフィナはゆっくりと、瓶を持つアスイェに近づいた。だが、その瓶を見つめることができなかった。

「瓶を見つめて」

セラフィナは瓶を見つめた。

体は震えてはいない。だが唇を噛み、背筋を伸ばしたまま硬くなっていた。

「……これは飲んではいけない血だ……」

少女は話す余裕もなく、ただ早くうなずいた。

「呼吸を止めない」

「……むり……」

「慣れるんだ。呼吸を止めない」

セラフィナは泣きそうだった。

セラフィナの目はうるんでいて、まるで助けを求めるようにアスイェを見た。

「よくできている。もっと近づけ……」

少女は動かなかった。

アスイェは瓶を置き、幼い手首を引いて、セラフィナを一歩だけ近づかせた。

血の匂いは一気に濃くなった。

セラフィナの震えがとまらなかった。

我慢の限界だった。

セラフィナはそのまま、アスイェの腕の中に逃げ込んだ。

アスイェは黙って応じるように受け止め、背を撫でた。

「ゆっくりと息を吸って、吐き出す」

やがてセラフィナの震えは少しずつ鎮まった。

「匂いだけで、お前は死なない。見て、判断して、最後に俺のところへ来ればいい」

「……慣れたら、つらくなくなるのか」

疲れ果てた少女の弱い声が、アスイェの胸元から漏れ、よく聞き取れなかった。

「今日はもう休め、慣れるのは時間がかかる」

成長には時間がいる。

だが二人には、時間だけは余るほどあった。


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