第十九話:カフスボタン
休みのあと、アスイェは出かけた。
今はまだ夜ではなく、空は橙色に染まっている。風がやさしい。陽の光が落ち、庭にある階段は金色を帯び、セラフィナはその階段の上に座ったまま、部屋に戻らなかった。
彼女は、さっきここからアスイェを見送ったばかりだった。
体を大きなマントに隠し、膝を抱えて座っていた。
セラフィナの手に、何かを持って、彼女はじっくりとそのものを見ていた。
――それは一つのカフスボタンだった。
このカフスボタンは丸く、銀の輪の中に赤い宝石が嵌められていた。
セラフィナは宝石のことをよく知らないが、それは『ルビー』らしい。
彼女は知っていた。これはアスイェがよくつけていたカフスボタンだった。今、自分の手にあるこのカフスボタンは、いつも彼の左袖についていた。
宝石だけではなく、本当にセラフィナの目を奪っていたのはあとから刻まれた紋だった。
その紋は古いものだが、アスイェがこのカフスボタンをよく拭くから、宝石はきれいで、光に当てるとさらに輝いた。
そして、アスイェは出かける前に、対になっているはずのカフスボタンの片方をセラフィナに渡した。
「持っていろ。俺と一つずつだ」
セラフィナは顔を上げて彼を見つめた。
アスイェは右袖をセラフィナに見せた。そこには、カフスボタンはある。
「いい子で留守番をしろ、庭に行かなければ危険はない。分かったか?」
セラフィナはカフスボタンを握っているが、視線はアスイェからそらしていなかった。
アスイェはしばらくこの子を見つめ、
身をかがめて、彼女のマントを膝までしっかりとかけ直した。
「いいな。すぐ戻る」
セラフィナは前のように、「セラも行きたい」とわがままを言わなかった。
ただ、手にあるカフスボタンをぎゅっと握りしめた。
やがてセラフィナは頷いた。
アスイェが屋敷に出る時の足音は静かで、まるで重さがないようだった。
子は階段の上で長く座っていた。
空が闇に呑み込まれる頃、セラフィナはようやく屋敷の中に戻った。
部屋の光が何度も消され、再び灯されたが、彼女は眠っていない。
その目はずっと屋敷の扉に向けられ、手の中のカフスボタンを、指先で何度もなぞって、自分を落ち着かせていた。
朝の光が訪れる前にアスイェは帰ってきた。
音も気配もない。セラフィナはただ、『アスイェが帰ってきた』と思った次の瞬間、扉を閉じる微かな音を聞いただけ。
アスイェは灯りの下に立っていた。
***
アスイェが屋敷に帰るとすぐ、セラフィナがいると分かった。
幼子はまだ朝と同じ服を着たまま、同じマントを羽織っていた。
疲れているはずなのに、その目はアスイェを見て、かすかに光っていた。
「寝ないのか?」
「アスイェが帰ったから,寝る」
アスイェは幼子に近づき、マントの留めをゆるめた。
その隙に、セラフィナは彼の腕の中に潜り込んだ。
「……どうした?」
「なんでもない……」
「なら、手を離せ」
「いや、眠い……」
アスイェはマントごと幼子を抱き上げた。
セラフィナは本当に眠そうで、頭をアスイェの肩に預けたまま目を閉じた。
「……アスイェは死ぬのか?」
あまりにも唐突な一言に、アスイェは足を止めた。
彼が何か言う前に、セラフィナは言葉を続けた。
「セラは、アスイェに老いてほしくないし、死んでほしくない……」
声は小さいが、必死だった。
手にはカフスボタンを握りしめ、アスイェが怒っているかもしれないと、緊張していた。
アスイェは再び歩き出した。
「俺はまだ老いていない」
「……だって、そのうち……」
「俺はここにいる……そろそろ目を閉じろ」
セラフィナはもう眠くなかった。
答えを待っているように、何度も瞬きをした。
「……俺がいなくなったら、そのカフスボタンを持って書斎の扉を蹴り破って、燃やせばいい」
「いや、燃やせないもん!」
「なら、何かしたい?」
「……カフスボタンを、セラだけが知っているところに隠す」
「……お前らしい」
部屋に着いたが、幼子は彼から離れなかった。
まだ聞きたいことはあるが、幼子はもう聞いていなかった。
「このカフスボタン、明日マントにつけてやる」
セラフィナは少しずつ大きくなっている。
それでも今夜は、昔のように甘える夜だった。




